経営者CFOに求められる資質。CFOの魅力と知られざるリスク
「CFO業務を全うできたのは、どのようなスキルや思考を持っていたからだと思いますか。」
会計士としてのファイナンスや会計の知識と、それらを多様な場面で活用してきた経験がベースになったのは間違いないと思いますが、これらはCFOに限らず管理部長にも求められるスキルだと思います。私はCFO業務を全うするには、そのスキルをどのように活用するのか?といったマインドの方が重要だと考えています。スキルは単なる道具に過ぎませんし、東証の市場改革が進めばCFOに求められるスキル自体、今までと異なるものになると思っています。
私は日本では、CFOは基本的に取締役になることが多いと思いますので、必須のマインドを一つ挙げるとすると「ハードシングスから逃げない」ことですね。経営には修羅場はつきもので、会社が生き残るためには必ず乗り越えないといけません。会社の命運を背負う覚悟がないのであれば経営者になるべきではないと思います。執行役員や管理部長として、その役割を果たすことで貢献できることもいっぱいありますし。
また、ベンチャーの組織デザインの観点から言うと、CFOは少なくとも意識面では担当領域を限定しない方がいいと考えています。というのも、企業はあらゆる活動が有機的に結合した組織体です。もし自らを管理部門担当と定義してしまうと、無意識下で優先順位ができ部分最適な解しか生み出せません。それにCFOの担当外領域に対するリスク感度が落ちてしまうと、会社全体をリスクマネジメントする存在がCEOのみとなってしまいます。ところが特に創業者CEOは超楽観主義者でリスク感度は極めて低いわけですから(笑)、CFOがその役割を担うことが必須となるわけです。
「CFO職の魅力、そしてリスクはどのようなことだと思いますか。」
CFO職の魅力については、検索すれば山のように出てくると思いますので(笑)、簡単に留め、私からはあえてリスクについて少しお話させて頂きますね。
まず魅力ですが、私は起業家という人種は創造主であり先導者だと思っています。CFOはそんな稀有な存在である起業家と併走し、夢を具現化していくプロセスを特等席で体感し熱狂できる。それが最大の魅力だと思っています。
一方で、起業家は愛すべき変人でもあります(笑)。強烈なカリスマ性の裏には、社会常識とのズレが存在するわけです。そして、そのズレ幅の程度は人により異なります。そのため起業家と深く付き合う場合には、CFO個人としてのリスク管理をしっかりと行わなければなりません。もし起業家と埋め難い意見の相違があったなら、CFOは諫言し尽し、それでも聞きいれられないのであれば、潔く身を引く覚悟が必要です。
また、CFOは言わずもがな最高財務「責任者」です。万が一公表した決算数字に修正が入れば、いくら自分に動機や意図がなかったとしても、全ての責任を負わなければなりません。たとえ「監査法人が会計処理に合意していた」としても免責などされません。そんな監査法人の判断を信じ疑わなかった責任からは逃れられないのです!
そして、経営にはハードシングスがつきものです。その時にどのような行動を取るのか?その人の価値観や信念が問われる場面が必ずやってきます。極めて理不尽で到底納得できないような事態に陥った時、「他人を売ってでも自分だけは生き残ろうとするのか?」それとも「自分を犠牲にしてでも会社を守ろうとするのか?」。私はCFOというのは、プロ経営者としての信念と覚悟が要求される立場である思っています。

「もし、数値を良く見せるように求められたら、川島さんだったらどうしますか?」
これは興味深いテーマですよね(笑)。私はそもそも認知的不協和を埋めるのは会計の役割ではないと考えています。ここでいう認知的不協和は、目標予算と着地見込みとの乖離が原因です。この乖離はそもそも根拠が希薄で、過大な成長を目指した目標予算の存在が、原因の根底にあるケースが多いのではないでしょうか?もし数字を良く見せるために会計を活用するのであれば、本来は意思決定会計の領域(未来会計)で業績向上を目指すべきであって、財務会計の領域(過去会計)でつじつま合わせを図るべきではありません。そもそも財務会計の世界では解釈の余地が年々狭まってきていますし、監査法人が判断を覆すことも珍しい事ではなくなってきていますので、筋の悪い選択だと言えます。
ある未上場企業の話です。私が関与する前から、既に監査法人と合意した会計処理があると聞いていました。ところがよくよく話を聞いてみると、私にはどうしても適切とは思えないわけです。そこでトップに何度も諫言し、同時に「次善策を考えるので少し時間が欲しい」とも伝えました。しかし「判断は変更しない」と強く結論付けられましたので、私はその会社との関係を断つ判断をしました。その後、会社が自ら率先して修正すればよかったのですが、判断を覆した監査法人側から指摘を受けたために監査契約を解除され、上場が延期になったと風の便りに聞いています。もし、私がトップの判断を受け入れ会社に残っていたら、このパターンだと上場延期の全責任を取る形でクビになっていたと思いますよ。会社が次の監査契約を得るには原因を排除しておかないといけませんので。
「最後に、今後チャレンジしたいことがありましたら教えてください。」
今までプレイヤーとして成功と失敗を繰り返して得た経験やノウハウを、少しでも活かすことができればと思っています。ですので、まずはアドバイザーとして、プレイヤー達が競争環境で挑戦する際に、無用なリスクを回避し、問題解決やプロジェクト達成の最短コースを選択して、本来やりたい仕事で熱狂できるように貢献していきたいです。
また、私は良くも悪くもCFO職の光と影を体験してきましたので(笑)、これからCFOとして活躍される方々が、より安心して成功に集中できるよう啓蒙活動ができればとも考えています。
とは言え、今後も「面白そう」なことには、制限設けず首を突っ込んでいきたいですね。創業や海外で働くのもありかもしれません。意外とまたどこかでCFOをやっているかもしれませんね(笑)。