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それからのCFO
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川島 崇 氏

″いろいろ″あるから経営は面白い。修羅場でこそ問われる「CFOの信念と覚悟」

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※インタビュアー/バリューアップパートナー株式会社 代表取締役 大塚 寿昭
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    運について考察~私は運がいいのか?悪いのか?

    「川島さんは環境が変化しても、いつでも全力で結果を出し続けていますが、その原動力を教えてください。」

    自分では好奇心が旺盛で行動力があると思っています。振り返ってみると、人生の岐路ではいつも王道ではなく興味がある道を選択してきました。私はいつも「面白そう」という基準で選んでしまうんです(笑)。
    例えば、監査法人入所1年後の事業部再編時には、花形の金融事業部からのお誘いを断って、当時は弱小のインターネット事業部を選び上司達を困惑させました。またJ-SOX特需で監査法人が盛り上がっていた時期に退職し、しかも当時は異例のベンチャー企業に転職しました。上司からは「パートナーになれるのに、気が触れたのか?」と本気で心配されました。最近のNASDAQ上場では、あまりにも現実味がないためか、上場するまで誰も本気にしていませんでした。いまだにタイムズスクエアでの上場セレモニーで、私がオープニングベルを鳴らす映像を見せても、「生成AIでしょ?」と言われることもあります(笑)。
    こんな感じで世間の常識や周りの意見ではなく、自分の心の底から湧く好奇心に従って行動してきました。だからこそ上手くいかない時や辛い事があっても、モチベーション高く最後までやり抜けるんだと思います。

    「また、運もお持ちのように感じます。どうしたら運を掴むことができると思いますか。」

    転職したらいきなり倒産寸前、やっと上場したら上場廃止の危機、そして社会的な死をも経験…その上で「運を持っている」と言って頂けるのは、ある意味光栄ですね(笑)。
    でも確かにそれなりに運は良い方かもしれません。おみくじはよく大吉引きますし、旅行やイベントの日は大抵晴れますので(笑)。

    しかし、運というと神様からのギフトのように思われがちですが、私は運とは膨大な変数が複雑に影響し合って生み出された結果であって、その変数の一部分はコントロールできるものだと考えています。その意味で、私の行動特性とも言える、根拠なき自信と最後まで諦めない粘り強さはプラスになっている気がします。どんな状況でも、根拠なき自信があるので最初から諦めることはありません。「どうすれば解決できるか」とスタート地点に立つので、行動を起こすことが前提なんです。そして行動を起こすと、大抵は新たな障害が発生するわけですが、その時も最後の最後には逆転するイメージを持って、突破する方法を考え抜きます。まあ、諦めが悪いので「しつこく続けているうちに、成果が出ただけ」と言えるかもしれませんね(笑)。

    そして1人では物事を成し遂げることはできませんので、私に関わって下さる方々に対する義理と人情を大切にするように心がけています。自分の利益を重視して行動するのか、他者への貢献を重視して行動するのかによって人間関係の質は変わってきますので。私自身、語れるような貢献ができているわけではありませんが、例えば、ご依頼頂いた講演や執筆などは基本的に断らないようにしています。見返りを求めていたわけではありませんが、それがきっかけで生まれた人や機会との縁がたくさんあります。運の良い方というのは、そういうことを自然にやっているんだと思います。

    また、そもそも私なりに勝算ある領域で勝負していることも要因かもしれません。例えば、私がNASDAQ上場の挑戦を始めた時は、IPOの常識にイノベーションを起こそうと飛び込んだファーストペンギン状態。米国には各種専門家がいますが、「未上場の日本企業によるクロスボーダー上場」についてはプロがいません。なので自分自身で米国上場初見殺しの道のりを、手探りで進むしかありませんでした(笑)。しかし、私には少なくとも日本上場について監査法人として支援した数多くの経験と、事業会社を上場させた上場準備責任者の経験から、上場プロセスやクロスボーダー上場の要諦は理解していましたので、後は米国上場にアジャストすればよかったわけです。
    とはいえ、今運のいい悪いを考えたところで、まだ中間発表の段階ですので、人生の最後に「運がよかった」と言えるようにこれからも精進していきます(笑)。

    CEO、関係部署や部下との関係性。根底に必要なのはCFOの覚悟

    「CEOとの関係性や距離感はどうあるべきだと考えていますか。」

    金銭で成立する信頼関係を越えて、強い絆で結ばれる必要があると思っています。
    というのもCEOとCFOとの関係性は、会社が順調な時は損得勘定でも成立するかもしれません。ところが経営につきものであるハードシングスが発生した時、それは容易に壊れることもある危うい関係だからです!会社が危機に追い込まれた時、CFOは逃げ出すのか、自己保身に走るのか、身を捧げてでも会社を守るのか…それはまさにそれまでに構築したCEOとCFOの関係性の答え合わせの場面となります。

    この絆は、お互いのリスペクトがないと成立しません。特に、創業オーナーは人生をかけて事業を行っているわけですから、CFOは自分の覚悟を示す必要があります。例えば、CFOはCEOとの激しい衝突を覚悟して、諫言しなければならない場面も出てくるでしょう。創業オーナーには独裁タイプや管理部門を軽視する方もいるので、CFOの諌言が疎まれ無視されることがあるかもしれません。それでもCFOは諌言を伝えるための方策を練って、会社全体の意思決定の質を高める姿勢を崩してはならないと思います。
    “イエスマン”のCFOになることは、その組織での生存戦略としては正解かもしれませんが、経営者としての責任を放棄していると言えます。そのスタンスを取る以上は、CEOにとって使い勝手のいい部下止まりであって、真のリスペクトを得たパートナーとなることは難しいでしょう。

    「CFO組織と関係部署との関係性はどうあるべきだと考えていますか。」

    会社の成長ステージやCEOのタイプによっても、CFO組織が果たすべき役割が変わってきます。例えば私のケースだと、社長はカリスマ性とリーダーシップが強いが故に生じる組織力学や、少々ぶっ飛んでいるタイプでもあったことから、トップダウン型の情報伝達力は強大ですが、トップと現場の双方向コミュニケーションはCEO自身が思っているほど円滑ではないわけです。一般的に言っても、独裁政権になりがちなベンチャー組織では、現場はトップの気に入らない情報は先送りしがちですし、トップは扱い辛い人材との距離を取りがちです。

    そのため、私のCFO組織では全部署・子会社と積極的にコミュニケーションとり、情報を吸い上げるようにしていました。例えばIRでは情報開示のタイミングや内容が重要なので、各部署・子会社から進捗状況はもちろん、投資家に訴求できる内容になるまで深い情報を引き出していました。特に双方向コミュニケーションを円滑にキープするため意識していたのは、関係部署との友好的な信頼関係を保つことです。特に悪い情報ほど早い段階で相談してもらえるような関係性を心がけていました。いまだに当時の各事業部の幹部陣から相談を受けることや、飲みに行く関係が続いていますので、彼らとも良い関係性を構築できていたんだと思っています。

    「CFO組織内での部下との関係性のあり方や育成について、川島さんの考えをお聞かせください。」

    組織内の信頼関係のベースにはリスペクトが必須だと考えていますので、私は相手が誰であっても基本的に敬語で話していましたし、権力を背景に威圧するようなことは一切しませんでした。経営陣がそれをやってしまうと、それがいずれ指示待ちと委縮の組織風土となってしまうからです。それは当社のビジネス環境には合いません。それに経営者の役割は、メンバーが良い意味で自分らしさを発揮できる環境づくりであって、自分の居心地のいい環境をつくることではありません。

    また、私の肩書はグループ本社のCFOでしたが、数多くの業務を兼務していましたので、自分の可動域を広げるためにも優秀な方々に入社して頂き、どんどん権限委譲をしていました。ただし権限委譲は、管理責任と表裏一体であると肝に銘じていました。つまり、万が一問題が生じたとしても「知らなかった」「現場が暴走した」といった言い訳で責任が逃れられるわけではありません。仮に部下が暴走したとしても、暴走できる状態を放置した責任は上司がとるべきです。その覚悟がないのなら、それは権限委譲とは言えず、単なる丸投げにすぎません。

    「監査法人から事業会社、そして独立と、ずっと緊張感のある中で過ごしてきたと思いますが、息抜きの方法があったら教えてください。」

    実はあまりストレスを感じないタイプなんです。手を抜くのが上手いからでしょうか(笑)?「死の淵を経験しましたね」と言われることもあるんですが、本人はそうでもないんです。きっと修羅場を乗り越えるにつれ、どんどんストレスに鈍感になっていったのかもしれません(笑)。
    でも確かに気晴らしは大切ですよね。私は飲みに行くのが好きです。いろいろな方と仕事の話やくだらない話をして、発散したり新しいアイディアをもらったりしています。また、旅行も好きです。細部にこだわるタイプなので、家族旅行などの計画を立てることも楽しいんです。家族が喜んでくれると嬉しいですしね。自分の喜びよりは、他人が喜んでいるのを見たいという思いが強いのだと思います。

    川島 崇 氏
    1998年10月 公認会計士2次試験合格、大手監査法人入所 2002年05月 公認会計士登録(2006年 中小企業診断士登録) 2008年08月 IPプロデュース系ベンチャー企業入社 経営戦略統括本部長就任 2008年11月 同社取締役CFO就任(2014年 東証マザーズ上場、2016年 東証一部市場変更) 2015年07月 日本最大級のファッションイベント企業買収 取締役CFO就任(2016年 代表取締役副社長就任) 2015年~2018年 資本業務提携1社及び子会社7社出資・設立 各社代表取締役又は取締役就任 2018年11月 同社退任、独立 現在、投資家及び財務戦略コンサルとして複数社の成長戦略、出口戦略を支援中。 2023年には上場準備責任者として未上場ベンチャー(日本法人)を米国NASDAQ上場へと導く。