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CFOに必要な豆知識をご紹介。

企業価値、株式価値の算出 その3
今回は、前回ご紹介しました株式価値の算出について、感度分析等の分析手法をご紹介いたします。 今回の内容は前回(その2)の企業価値、株式価値の算出の続きとなります。必要に応じて前回の内容をご参照ください。 前回と同様に、企業価値、株式価値の算出に必要なデータをご用意ください。 それでは、前回と同じく、5年間分のFCF、終価に必要な最終年度のEBITDAを各欄に入力してください。 5年間分のFCF 1年目 2年目 3年目 4年目 5年目 (単位:千円) 最終年度のEBITDAを以下の空欄に入力してください。 最終年度のEBITDA 千円 前回と同様に、青色の箇所に数値を入力してください。入力の仕方については前回の説明をご覧ください。 前提条件 EV/EBITDA倍率= アンレバードベータβu= リスクフリーレートRf= % リスクプレミアムRp= % Net Debtの算出 勘定科目 金額(千円) 流動資産 現金・預金 有価証券 短期貸付金 流動負債 短期借入金 固定負債 長期借入金 社債 合計   WACCの算出 ①株主資本コストReの計算 Rf % Rp % βl   Re   ②βlの計算 βu   D/E   βl   ③WACCの算出 Rd(Rd:負債の金利) % 1-T(T:実効税率) % Rd(1-T) % WACC % キャッシュフローの算出   1年目 2年目 3年目 4年目 5年目 FCF           FCF TV           Total FCF           割引係数           現在価値           (単位:千円) 株式価値の算出 有利子負債総額D   株式価値E(入力用) 企業価値   Net Debt   株式価値(結果)   ディスカウント % プレミアム % 株式価値(修正)   企業価値、株式価値の計算の際に、株式価値(結果)と株式価値E(入力用)が同じになるまで、株式価値(結果)の値を株式価値E(入力用)に入力し、再計算のボタンをクリックしてください。 上記の結果を使って、株式価値がWACCと終価に用いたEV/EBITDA倍率にどの程度影響されるかについて 感度分析をしましょう。 WACCについてはパラメーターを前回用いた値を中心に±1%、±2%ほど振っており、終価に用いたEV/EBITDA倍率についてはパラメーターを前回用いた値を中心に±1、±2ほど振っています。株式価値は以下のとおりとなります。 株式価値の算出 (WACCと最終年度に使ったEV/EBITDA倍率を使った感度分析) WACC % % % % % EV/EBITDA倍率                                                             (表中の単位:千円) 株式価値は、WACCと終価に用いたEV/EBITDA倍率によって、上記の表のように変動することがわかります。 これらの結果について、皆様はどのように捉えていますか。 株式価値はWACCと終価に用いたEV/EBITDA倍率に大きく変動すると感じられた方もいらっしゃるのではないでしょうか。 次に、前回の結果を使って、5年間の将来のフリーキャッシュフロー(以下、FCFと略す)の成長率を最小二乗法を用いて近似により算出し、前回のFCFの直線近似(原案修正案)とそれより楽観的な案(楽観案)と悲観的な案(悲観案)について、株式価値を算出してみましょう。なお、FCFが直線で近似できる場合としております。 将来5年間のFCFの成長率(近似値)は、最小二乗法を用いて以下のとおりとなります。 将来FCFの成長率(近似値)= % 将来5年間のFCFの成長率(近似値)を年率の成長率に換算すると、以下のとおりとなります。 将来FCFの年成長率(近似値)= % この成長率を案原案修正案とし、楽観案と悲観案の成長率を定義します。 楽観案及び悲観案と原案修正案の成長率の差Dを入力してください。 成長率の差D % 楽観案及び悲観案と原案修正案のFCF年成長率をまとめると以下のとおりとなります。 楽観案 % 原案修正案 % 悲観案 % 1年目のFCFは同じとし、2年目以降のFCFはそれぞれの案で以下のとおりとなります。 ただし、原案修正案の終価は、前回使用した最終年度のEBITDAに、EV/EBITDA倍率を乗じた値を用いておりますが、楽観案と悲観案の終価は、原案修正案の終価にそれぞれの5年目のFCFを乗じ、原案修正案のFCFを除して算出しています。 各案のFCFの算出 年数 1年目 2年目 3年目 4年目 5年目 終価 楽観案             原案修正案             悲観案             (表中の単位:千円) 各案の株式価値を、前回用いたWACCとその値から±1%、±2%異なる値に対し求めると、以下のとおりとなります。 ただし、FCF、終価以外の数値は、前回用いた値を活用しています。 各案の株式価値の算出 (前回用いたWACCとその値から±1%、±2%異なる値) WACC % % % % % 楽観案           原案修正案           悲観案           (表中の単位:千円) FCFの計画値からの変動、WACCの設定した値によって、株式価値は表のとおりの値を取ることがわかります。 また、各案の株式価値を、前回用いた終価に使ったEV/EBITDA倍率とその値から±1、±2異なる値に対し求めると、 以下のとおりとなります。ただし、FCF、終価以外の数値は、前回用いた値を活用しています。 各案の株式価値の算出 (前回用いた終価に使ったEV/EBITDA倍率とその値から±1、±2異なる値) EV/EBITDA倍率           楽観案           原案修正案           悲観案           (表中の単位:千円) FCFの計画値からの変動、終価に使ったEV/EBITDA倍率によって、株式価値は表のとおりの値を取ることがわかります。 これらの値について、皆様はどのように捉えていますか。 以上の分析結果につきましては、株式価値の算出の際に、ご活用頂ければと思います。 前の記事
企業価値、株式価値の算出 その2
CFO、管理本部長、経理、財務、経営企画の管理職、担当者の方々に必要な知識として、ファイナンスに焦点を当て、お役に立てる情報を前回に続き記載してみました。 前回は、将来のフリーキャッシュフローからDiscounted Cash Flow (DCF)法を用いて、企業価値と株式価値を求めましたが、割引率は株主資本コストと負債コストの加重平均資本コスト(Weighted Average Cost of Capital 、WACCと略す)を活用しない簡便な方法で算出しました。 今回は、将来のフリーキャッシュフローからDCF法を用いて企業価値と株式価値を算出する際に、割引率としてWACCを用います。WACCの株主資本コストの算出で、資本資産価格モデル(Capital Asset Pricing Model、略して、CAPM)を利用します。CAPMから算出される株主資本コストは、株主が企業に期待する利回りのことで、理論上は企業は株主資本コストの利回りを実現できなければ、株主資本は他の投資機会に奪われることになります。 CAPMでは株主資本コストReを次のように求めます。 株主資本コストRe = リスクフリーレートRf + β × リスクプレミアムRp ここで、リスクフリーレートRfは、無リスクで運用できる金融商品の利回りのことです。日本では、無リスクと考えられる金融商品は、国債と考えられていることから、一般的には、Rfは10年国債利回りを選びます。リスクフリーレートRfは、10年国債利回りの選択する時期と平均値を求める対象期間によって大きく変動します。例えば、10年国債利回りは、2007年後半以降2017年前半までの間に、約1.8%をピークに下限は約0%まで振れており、平均値は約1%になります。つまり、リスクフリーレートRfは約1%になります。さらに10年前の10年間の平均値は約1.5%ですが、そのさらに10年前の10年間の平均値は約4%になり、選択する時期によって大きく変動します。 βは、個別株式の変動/株式市場全体の変動を示すことから、企業毎に値が異なります。通常、データを提供している企業からデータを入手します。個別株の変動が、株式市場全体の変動と同じであればβ=1となり、株式市場の変動より小さければβ<1となり、株式市場の変動より大きければβ>1となります。理論の詳細について学びたい方は、金融工学分野のポートフォリオ理論をご覧下さい。 リスクプレミアムRpは、(市場全体の投資利回り - リスクフリーレートRf)で表せますが、市場全体の期待収益率を表すもので、通常過去のインデックスの推移から求められます。株主は株価変動のリスクを負っているため、リスクフリーレートRfより高い利回りの上乗せ分を期待していることを物語っています。 ここで、WACCについて説明します。 WACCは、株主資本コストと負債コストを加重平均して求めます。負債コストとは、債権者より調達した負債に対するコストのことで、借入金や債券にかかる金利などのコストのことです。WACCの計算式は以下のとおりです。 WACC =[ Re × E / ( D + E ) ] + [ Rd × ( 1 - T ) × D / ( D + E ) ] Re = 株主資本コスト Rd = 負債コスト E = 株主資本の額(時価) D = 有利子負債の額(簿価) T = 実効税率 WACCは企業が投資等を行う際に投資利回りの基準になる数値となりますが、WACCの計算式からわかるように、資本と負債に対して、それぞれの調達のためのコストの加重平均によって求められます。 βについて、前述しましたが、ここでは求め方を説明します。 非上場企業の企業価値や株式価値を求める場合は、非上場企業は株価が存在しないため、同じ業界で事業が似通っている上場会社のβを活用する必要があります。βは財務リスクを含むレバードベータβLと財務リスクを含まない(事業のリスクのみを考慮した)アンレバードベータβUがあり、非上場企業のベータを求める際には、以下の算出式から、上場企業のレバードベータβLからアンレバードベータβUを算出し、各社の平均値を算出します。 この平均値をβuとし、対象企業のレバードベータβlを算出します。 βU = βL / [ 1 +( 1 - T ) D / E ] βl = βu × [ 1 +( 1 - T ) D / E ] ただし、T:実効税率、D:有利子負債の簿価、E:株式価値の時価です。 以上の計算により、WACC、つまり、企業価値、株式価値の計算に用いる割引率が求まります。 企業価値は、将来のフリーキャッシュフローFCFの現在価値であり、株式価値(時価総額等の株主に関わる価値)とNet Debt (有利子負債から現預金を控除した純有利子負債)の和となります。ここで、FCFは、以下のとおりと表せます。 それでは、前回と同じく、事業計画の算定期間を5年と設定し、5年間分のFCFを以下の空欄に入力してください。 1年目 2年目 3年目 4年目 5年目 (単位:千円) 企業価値(EV)の算出には、その他、将来の価値から現在価値に割り引く際に利用する割引率、及び最終年度以降のFCFから計算される終価(terminal value)が必要になります。 終価には最終年度のEBITDAに、EV/EBITDA倍率を乗じた値を用いますが、最終年度のEBITDAを以下の空欄に入力してください。 最終年度のEBITDA 千円 上記の説明を参考に、青色の箇所に数値を入力してください。EV/EBITDA倍率は、同じ業界で事業が似通った上場企業の平均値です。また、株式価値E(入力用)の初期値は株式時価総額(もしくは株主資本)になります。 前提条件 EV/EBITDA倍率= アンレバードベータβu= リスクフリーレートRf= % リスクプレミアムRp= % Net Debtの算出 勘定科目 金額(千円) 流動資産 現金・預金 有価証券 短期貸付金 流動負債 短期借入金 固定負債 長期借入金 社債 合計   WACCの算出 ①株主資本コストReの計算 Rf % Rp % βl   Re   βlの計算 βu   D/E   βl   ②WACCの算出 Rd(Rd:負債の金利) % 1-T(T:実効税率) % Rd(1-T) % WACC % キャッシュフローの算出   1年目 2年目 3年目 4年目 5年目 FCF           FCF TV           Total FCF           割引係数           現在価値           株式価値の算出 有利子負債総額D   株式価値E(入力用) 企業価値   Net Debt   株式価値(結果)   ディスカウント % プレミアム % 株式価値(修正)   企業価値、株式価値の計算の際に、株式価値(結果)と株式価値E(入力用)が同じになるまで、株式価値(結果)の値を株式価値E(入力用)に入力してください。 このような繰り返しの計算をする理由は、株式価値を求める際に、WACCを使いますが、WACCを構成する株主資本コストの計算式にβが含まれており、このβが株主資本の額、つまり、株式価値から求められるからです。 上記の計算手順で、企業価値、株式価値が求まります。企業価値、株式価値は、WACCや最終年度のEBITDAなどの値に大きく影響し、注意が必要です。 次回は、今回求めた企業価値、及び株式価値が、WACCや最終年度のEBITDAなどの値がどのくらい影響するか、感度分析を使って、考察しましょう。 前の記事 次の記事
企業価値、株式価値の算出
CFO、管理本部長、経理、財務、経営企画の管理職、担当者の方々に必要な知識として、ファイナンスに焦点を当て、お役に立てる情報を記載してみました。 今回から暫くは、ファイナンスに必要な知識として、企業価値と株式価値を算出し、各々について考えてみましょう。 主な算定方法として、将来のキャッシュフローから求めるDiscounted Cash Flow (DCF)法、同業他社をベンチマークして求める類似企業比較法、取引価格を参考にする類似取引法などがあります。 今回は、企業価値と株主価値をDCF法を使った簡易的な方法と類似企業比較法の例を実際に計算しながらご紹介します。 DCF法についてのメリット・デメリットは以下のとおりです。 DCF法のメリット 将来のキャッシュフローから企業価値、株式価値を求めるので、シナジーを含む事業計画を反映できます。 事業が継続して存続する場合、つまりゴーイングコンサーン(going concern)の場合、有効な方法です。 DCF法のデメリット 事業計画の売上高、経費等の数値次第で、企業価値、株式価値が大きく変動します。 事業が継続することが前提なので、事業を清算する場合には適用できません。 企業価値は、将来のフリーキャッシュフローFCFの現在価値であり、株式価値(時価総額等の株主に関わる価値)と負債価値(借入金等の負債に関わる価値)の和となります。ここで、FCFは、以下のとおりと表せます。 FCF=経常利益+支払利息-受取利息+減価償却費-税金-運転資本増加額-設備投資額と表せるので、企業が株主や債権者に自由に分配できるキャッシュであることがわかります。 将来のFCFの算出については、事業戦略に基づき、事業計画を算定することが必要ですが、事業に関係しない投融資からのリターンは含めないことに注意が必要です。FCFの算定についてはここでは割愛し、将来のFCFから企業価値と株式価値を求めます。 それでは、事業計画の算定期間を5年と設定し、あなたの会社の5年間分のFCFを以下の空欄に入力して下さい。また、円の単位は、自由に設定して下さい。 1年目 2年目 3年目 4年目 5年目 企業価値(EV)の算出には、その他、将来の価値から現在価値に割り引く際に利用する割引率、及び最終年度以降のFCFから計算される終価(terminal value)が必要になります。 今回は簡易的な方法として、割引率には、6%、9%、12%と一般的な範囲内の値を設定し、終価には最終年度のEBITDAに、EV/EBITDA倍率を乗じた値を用います。 それでは、最終年度のEBITDAを以下の空欄に入力してください。 最終年度のEBITDA EV/EBITDA倍率は、一般的に、FCFのゼロ成長企業は5倍に近い値となり、急成長企業は10倍に近い値となります。 今回はこれらを3段階に分けて、企業価値を算出しました。 事業のリスクが大きいと将来の不確実性が高まり、割引率は大きい値を示し、企業価値は縮小する傾向にあります。 逆に、事業のリスクが小さいと割引率は小さい値を示し、企業価値は増大します。 EV/EBITDA倍率は、FCFの成長度合いを示していると考えられることから、企業価値は以下のとおりとなります。 FCFの成長 (EV/EBITDA倍率) 事業リスク (割引率R)   小 (R=6%) 中 (R=9%) 大 (R=12%) ゼロ成長 (5倍)       中間成長 (7.5倍)       急成長 (10倍)       事業リスクが小さいほど、FCFの成長が大きいほど、企業価値が大きいことがわかります。 株式価値は、企業価値から負債価値を引いたものになりますが、ここで負債を絶対値で入力ください。 勘定科目 金額 流動資産 現金・預金 有価証券 短期貸付金 流動負債 短期借入金 固定負債 長期借入金 社債 合計   したがって、株式価値は、以下となります。 FCFの成長 (EV/EBITDA倍率) 事業リスク (割引率R)   小 (R=6%) 中 (R=9%) 大 (R=12%) ゼロ成長 (5倍)       中間成長 (7.5倍)       急成長 (10倍)       株式価値も企業価値と同様に、事業リスクが小さいほど、FCFの成長が大きいほど、大きい値を示すことがわかります。 今回、割引率を設定し、終価には最終年度のEBITDAにEV/EBITDA倍率を乗じた値を用い、企業価値を算出しました。 しかし、割引率の算定には、一般には、資本資産価格モデル(Capital Asset Pricing Model、詳細は割愛します)から算出できる、加重平均資本コスト(Weighted Average Cost of Capital 、WACCと略す)を用います。加重平均資本コストの算出には、資本と負債の構成比、株価指数に対する感応度を示す変数ベータ(β)値 等のデータが必要です。また、ベータ値については、非上場企業において、対象企業と同じ業種・業態に属する上場企業の対象期間の時価総額の変動から求めるため、業界や対象期間により大きく変動します。以上のことを踏まえると、資本コストの算定にはかなりの注意が必要であることがわかります。 ここで、EV/EBITDA倍率の意味を考えます。EBITDAは、税引き前、利払い前、減価償却前の利益で、キャッシュフローを表すため、EV/EBITDA倍率は、企業価値が年間に創出される企業のキャッシュフローの何倍かを表しています。 また、EV/EBITDA倍率は、企業価値が株式価値と負債価値に帰属するため、利払い前の利益であるEBITDAで割ることに妥当性があることがわかります。終価として最終年度のEBITDAにEV/EBITDA倍率を乗じた値を用いたことについては企業価値がFCFの総和であり、EBITDAに、EV/EBITDA倍率を乗じた値そのものだから妥当だと言えます。 実際の企業価値の算定には、企業価値/EBITDA倍率は、同じ業種・業態に属する企業の平均値を使うことが多く、前述したとおり、一般的には、FCFのゼロ成長企業は5倍に近い値を、急成長企業は10倍に近い値を使います。 前述した類似企業比較法の中には、EV/EBITDA倍率を使って簡易的に企業価値を求める方法があります。 あなたの会社のEBITDAと類似企業のEV/EBITDA倍率を入力してください。 あなたの会社のEBITDA 類似企業のEV/EBITDA倍率 倍 あなたの会社の企業価値は   次回も、DCF法を使って、企業価値、及び株式価値を求める方法について解説いたしますが、割引率の計算に際し、資本資産価格モデル(CAPM)を使って、資本コストを求める方法についてご紹介いたします。 次の記事