COLUMNコラム

投資家インタビューの記事一覧

投資家はCFOにどんなことを期待しているのか。 ベンチャーキャピタル、バイアウト・ファンドの投資家から聞きました。

i-nest capital株式会社
代表パートナー 山中 卓 氏

「多様なVCが多様なスタートアップを育てるエコシステムの発展に寄与したい」、その思いにたどり着く道程とは

「業を興したい」という思いを持ち銀行からVCへ転身 「山中さんは東京大学卒業後、日本興業銀行に就職します。それから9年後にベンチャーキャピタルに転職しますが、そこに至るまでの経緯について教えてください。」 私は、大学卒業後の1994年に日本興業銀行(現:みずほ銀行)に入社しました。バブルの時代、1990年は日本興業銀行の時価総額が世界1位だったのです。ジャパン・アズ・ナンバーワンの頃ですね。しかし、その後、銀行業界全体が下り坂の時代に突入します。私が勤めていた1994年から2003年までは、坂道を下っていった9年間でした。入行してしばらく経つと公的資金が入り、2000年にはみずほグループになりました。私に限らず、興銀に入行した人は行名のとおり、業を興したいという気概を持っていたと思いますが、当時は業を興すというよりは、金融庁の監督に従って公的資金を返済していかなくてはならないという時期でした。 そんな時、興銀で机を並べてお世話になっていた先輩が、みずほ証券とNTTドコモとインターネット総合研究所という3社のジョイントCVCであるモバイルインターネットキャピタルに出向しました。そして、その先輩にお誘いいただき、私も転職することにしたのです。ちょうど1999年にマザーズ市場ができて上場が身近なものになってきていました。私が転職した2003年はまだVC業界は小さかったのですが、業を興すという仕事は、まさにこの業界でこそできるのではないかと思い、転職を決意しました。 「モバイルインターネットキャピタルはどのような特徴があるベンチャーキャピタルでしたか。」 IT系を中心にオールステージに投資をしているVCです。NTTドコモが、iモードで世の中を席巻していた頃に、携帯電話を使った次のサービス、次のソリューションを開拓していこうという趣旨で作られました。社名を変えた方がいいのではないかと議論された時期もありましたが、変えずに今に至っています。 「モバイルインターネットキャピタルでは、転職して12年で社長に就任されていますよね。」 私がモバイルインターネットキャピタルに転職した時は30歳前で、当時、一番若いキャピタリストでした。そこから経験を積み、12年後に社長に抜擢いただき、3年間社長を務めました。また、日本ベンチャーキャピタル協会(JVCA) 理事もさせていただきました。モバイルインターネットキャピタルで、キャピタリストとして一から育てていただいたと言っても過言ではありません。 独立後の1号ファンドでは5社がエグジット 「その後、2019年に現在のi-nest capitaを創業されています。その経緯を教えてください。」 3年間社長を経験すると、独立して自分で会社を経営してみたいと思うようになりました。そうは言っても、独立するにもトラックレコードが必要です。12年かけて自分自身のトラックレコードができたこと、社長としてファンドの運用経験を積めたことから、「タイミングがきた」と感じ、独立することにしました。私のわがままでの独立なので、申し訳なさも感じていました。しかし、結果的にはみずほグループにもNTTドコモにも、i-nest capitalのファンドにご出資いただいているんです。本当にありがたく、今も恩返しをするために活動しています。 「i-nest capitaの特徴を教えてください」 i-nest capitalでは、成長領域を広く捉えていきたいと考えており、IT系の企業が中心ですが、それ以外の先端技術の会社やメーカーなどにも幅広く投資しています。ステージはオールステージです。現在は、1号ファンドを組成して3年半が経ちました。39社に投資をしており、そのうち5社がエグジットしています。3社がIPO、2社がM&Aですね。全体で73億円のファンドで、現時点で投資しているのは6割弱です。その投資額は、エグジットした5社でほぼ回収できています。この実績を踏まえて、現在は2号ファンド設立の準備をしているところです。 ベンチャーキャピタリストの魅力と苦労 「山中さんはベンチャーキャピタリストとして20年のキャリアをお持ちですが、その魅力と大変さをお聞かせください。」 新たな産業を生み出し、育てていけることが魅力です。私もだいぶ年齢を重ねましたので、投資先の起業家はほぼ年下の方になりました。ベンチャーキャピタリストは、次の世代を担う企業を育てて、次の世代の方々を応援するという、夢がある素晴らしい仕事だと思います。日本には、これまでも素晴らしい企業がたくさんありましたが、新陳代謝をしていってこそ、次の活力が生まれてくると考えています。それが次の世代に対する責務だと考えて、頑張っています。 大変さについては、なんといってもファンドレイズ(ファンドの資金調達)ですね。お金をお預かりできないと仕事が始まりません。「お金を出してください」「はい、出します」と、そんな簡単な話ではありませんからね。ファンドレイズの期間は、ファンドレイズのことが片時も頭から離れません。これを果たさなければ組織は解散となり、従業員全員が路頭に迷うことになります。この業界に入るまでは、ファンドレイズがこんなにも大変だとは思ってもみませんでした。 「山中さんの投資基準を教えてください。」 最終的な判断基準は、ファンドの期間内に目標以上のリターンを得られると我々が評価した会社であることです。具体的な目標は、ホームページにも記載していますが、「投資回収倍率(MoC)3倍以上、IRR20%以上(グロス)」です。目標以上のリターンを得られると判断するための要素として重視しているのは、社長、経営チーム、取り組んでいるテーマなどです。レイターステージの会社であれば、ある程度事業が成り立っていることが証明されていますので、計画の確度を見ます。この条件で投資をして、IPOまでたどり着けるのか。たどり着いた時に、目標以上のリターンを得られるのか。ステージが進めば進むほど、投資の条件面をしっかり見ていく必要があります。一方で、シードやアーリーステージの会社は、株価(時価総額)は低いです。その株価で投資をして損をするということは、事業全体が上手くいかないということです。ですから、株価の水準よりも社長、経営チーム、取り組んでいるテーマに対する評価の比重が高くなります。 「投資において社長やCFOがどんな方であるかは、大切なポイントなのですね。」 比重として大きいです。社長には、人を巻き込む力が重要です。その一方で、完璧な人間はいませんので、投資という視点では、CFOの存在も重視します。CEOの右腕として、特にレーターステージではどんなCFOの方がいるのかも判断材料になりますね。 「これまでの投資の中で、印象に残っているベンチャーはありましたか。」 私は100社以上に投資をしてきましたので、たくさんの思い出があります。いい思い出も多いですが、「こんな目に合うのか」という痛い思い出もあります。 最近の良い例としては、カバーというVTuberのプロダクション会社が印象に残っています。我々が投資した3年前の段階でも非常に熱量の高い会社でした。しかし、オンライン中心の新しいビジネスモデルであり、ファンの熱量が高い分、これまでのファンが批判者となり炎上に繋がる場合もあるといった難しさもありました。こうした難しさを内包しながらも、今年3月に非常に素晴らしいIPOをされました。改めて、新しい領域にチャレンジすることは、リスクもありますが、大きなリターンが得られるものだと感じました。振り返ると、私自身は、VTuberに詳しいわけでも、投げ銭としてお金をつぎ込んだ経験もありませんでしたので、インサイトが足りなかった側面もありますが、逆に客観的に見ることができたという利点もあったと思います。
株式会社アドバンテッジパートナーズ
パートナー 早川 裕 氏

PEファンドのパートナーから見た「魅力的なCFO」 成功するCFOの素養とは?

PEファンドに入社するまで 「アドバンテッジパートナーズで活躍されている早川さんですが、現在に至るまでの経歴を教えてください。」 私のキャリアは少し変わっているかもしれません。大学ではロボット工学を学び、独立系のシンクタンクに就職しました。当時、理系はそのまま大学院に進むか、大学の推薦で大手のメーカーに就職するケースが多かったと記憶しています。シンクタンクでは、原子力エネルギーに関する各国の安全規制動向の調査や事故事例の調査分析などを担当しました。エネルギー政策の分野は、技術だけでなく、政治も経済も、社会心理学だって絡んできます。次第に、そういった学問を多面的に学び、さまざまな事象を理解したいと思うようになったのです。そして、理系と文系をまたいで勉強ができるアメリカのカーネギーメロン大学の大学院に進学することにしました。シンクタンクで働き始めて4年目のことでした。 大学院では技術政策を学び、その分野で博士号を取得しました。そのままアメリカでアカデミアのキャリアを目指していましたが、コンサルティング会社のマッキンゼーから声をかけていただき経営コンサルタントの世界に入りました。マッキンゼーでは主に製造業やハイテク企業に対するコンサルティングプロジェクトに参加していましたが、キャリアの後半になると、PEファンドから依頼を受けて、事業会社の事業デューデリジェンス(DD)の仕事が増えていきました。株主の視点でも経営に関与できるPEファンドの仕事に興味を持つようになり、すでにマッキンゼーの先輩や同僚が活躍していたアドバンテッジパートナーズに2008年に転職することにしたのです。8年間勤務したマッキンゼーを退職しました。アドバンテッジパートナーズには主に投資先の企業価値向上プロジェクトを担当する役割で入社しましたが、2015年頃からは投資全体に関与するようになりました。当時も今も私が担当する投資先企業は製造業が中心です。 「組織で勝つ」という意識の強さが特徴 「アドバンテッジパートナーズは日本のPEファンドを牽引してきた独立系の大手投資ファンドですが、どのような特徴を持った会社でしょうか。」 日本で一番古いPEファンドの一つで、社員数も投資件数も多いので、業界のリーダーであるという自負があります。特徴としては、経営支援に重きを置くという姿勢を持っていることが挙げられます。経営管理の強化やコスト削減活動に加え、売上拡大など成長支援の取り組みを大切にしています。事業モデルの変革も必要あれば積極的に行います。売上拡大は、コスト削減よりも難易度が高いと思います。どうやって営業活動を活性化させるか。新たなお客様をどう開拓するか。値段をどう適正化するか。デジタルを使ったマーケティングや営業をどう進めていくか。あれやこれやと会社の方と議論させていただきます。事業モデルの変革とは、例えば、製品の売り切りモデルからサービスも含めたリカーリングモデルへ転換していくといったことが挙げられます。 PEファンドは金融機関に分類されると思いますが、我々はコンサルティング会社のような性質を持っていることも特徴の1つです。つまり、「組織で勝つ」という意識が高いです。自分の案件を担当することで成長するということだけではなく、社内で実施される組織横断的な活動への貢献も求めています。各案件で得た経験や知見を社内で共有し、それをまた別のメンバーが担当の投資先で活用する。どんなに優秀な人でも、1人のインプットとアウトプットの量には限界がありますので、組織で勝っていくことが重要だと思っています。さまざまなバックグラウンドを持ったメンバーが集まっていることも特徴です。シニアメンバーはコンサルティング会社出身が多いですが、組織全体としては、投資銀行出身者、FAS出身者、VC出身者など多様です。案件を多面的な視点で成功に導くということが大事ですが、各個人のスキルアップの観点でも異なるバックグラウンドを持っている者が集まっていることは重要です。近年ではプロフェッショナルメンバーの女性比率も高まっています。 投資の3つのポリシー 「これまでの投資対象と投資実績を可能な範囲でご説明ください。」 アドバンテッジパートナーズとしては、多様な業種業態に投資をしてきました。中でも、消費財、小売りやサービス業界が多く、例えば、クラシエや牛角、成城石井、コメダ珈琲、石井スポーツ、やる気スイッチ、キューサイなどが挙げられます。上場企業投資チームの方は、フジオフードシステムや物語コーポレーション、ルネサンスへの投資・経営支援などの実績があります。 「その中で、早川さんはこれまで特にどのような業種・規模感の会社に投資してきたのでしょうか。」 私自身の投資経験は、これまでの専門性が生きる領域ということもあり、ハイテクや製造業の企業が中心です。具体的には、自動車関連部品、厨房機器、産業機器や電子部品・デバイス、機械、プラスティック成形などです。投資担当先の規模感は、現在投資中の会社に限ると小さい方は売上100億円程度、大きい会社の場合には1000億円弱といったところです。 「早川さんの投資スタンスについてもお聞かせください。」 私が大事にしているポイントは3つです。1つは、技術でもサービスでも品質でも良いのですが、他社に真似されない、その会社にしかない要素があるかということです。私はいつも、「なぜこの会社はお客様から注文がもらえるのか? なぜ他社ではなくてこの会社なのか?」を理解するように心がけています。その理由を突き詰めた時に、この会社にしかない要素があり、だからこの会社に発注せざるを得ないということが見えてくれば、この会社には競争優位があると判断します。また、その競争優位を生み出すリーダーシップや組織能力も理解したいと思っています。 もう1つは、詳細な顧客セグメンテーションをして、市場を絞った上でのシェアが高いことです。性別や年齢などの在り来りなセグメンテーションではなく、できる限り詳細に分解されたセグメンテーションでのシェアを重視しています。マクロでみると世界シェア一桁%の会社も、サブセグメントで見るとシェア50%ということがあります。そして、なぜシェアを取れているかには必ず理由があります。その理由は、他社に真似できない要素を持っているということに行き着くので、1つ目のポイントと同義といえば同義なのですが、この観点も大切にしています。 そして最後に、その市場、特にその会社が属するサブセグメントは成長するか、という点も検証します。 「投資を決める際に、前職のマッキンゼーのようなコンサルティング会社にも入ってもらうことはありましたか?」 事業DDをコンサルティング会社に支援いただくことはよくあります。私も実際コンサルティング会社ではDDプロジェクトに関与しておりました。PEファンドの立場として大事なのは、コンサルティング会社に事業DDをお任せしてしまうのではなく、この観点で検証してほしいという、論点を明確にすることと考えています。5年間という投資期間もしっかり意識してもらうことも重要なポイントとなります。投資直後の100日計画の作成や実行、投資後しばらくしてからも特定の課題があって会社の方々だけでは解決が難しいと考えれば、コンサルティング会社の支援を仰ぐことは良くあります。