役員や部下との関係性の構築
「CFOとCEOやCOOとの関係性について気を付けていたことがあれば教えてください。」
役員には、それぞれ役割がありますが、自分の役割のことだけ話していてもダメで、常に全社的な視点で考える必要があると思います。取締役のことをボードメンバーと言ったりしますが、ボードとは、その名の通り同じ板に乗っている人たちなので、連帯感を持たなくてはなりません。一方で、CFOは、CEOやCOOに対して、苦言を呈することが仕事という側面があります。思っていることを言えなくなると、存在する意味がないと思いますし、言い過ぎて関係性を壊してしまえば、それもまた意味がない。したがって、何を言うにしても、言い方や言う場所、言うタイミングなどには注意をしています。例えば、オフィシャルな会議でみんなの前で言うのか、個室で1対1で言うのか、飲みながら言うのか。
あとは、距離感という意味では、遠すぎるのはよくないですが、近づきすぎてもよいわけではないと思っています。
一定の距離を保つ方が、長期的に見て健全であり持続性が保てるのではないでしょうか。
「部下との関係性で気を付けていることを教えてください。」
まず、マツオカコーポレーション時代は、最大で全世界5,000人ぐらいの部下(主に縫製工員)がいたこともありますが、その時は、部下の名前も顔もわからず、言葉も通じないし、そもそも、会ったことない人もたくさんいました。そんな時「自分にできることは何だろう?」と自問自答したところ、「みんなに機嫌よく仕事をしてもらうこと」という結論に達しました。なので、今でも、部下のみんなには機嫌よく仕事をしてほしいと思っています。やっぱり、顔色が悪い人は仕事のパフォーマンスも悪いと思い傾向にあり、顔色のほかにも、声のトーンや、服装、歩き方などを見て心身の状態を把握しようと努めています。
ですから、自分のような仕事はリモートワークでは難しいんです。
現状TMNでは、30〜40人くらいの部下がいます。僕が直接、相対するのは4人の部長になりますが、部長職のレベルまでくる方は優秀で、年齢もキャリアも重ねている方が多いです。ですから、間違っていることがあったとしても、他のメンバーの前では指摘をしないようにしています。また、間違いそのものをズバリ指摘するのではなく、間違いの周辺を指摘して、自分で気づいてもらえるように導く、そういうコミュニケーションの仕方を心がけています。
また、TMNの大高社長もよく言う「相手へのリスペクト」の精神を重視しています。私から指示を出すことよりも、部下がやりたいと思っていることの方が、モチベーションは上がります。そのため、やりたいことを尊重し、実現できるようにサポートしています。オフについても頻繁過ぎず、放置し過ぎない頻度で、食事や娯楽、スポーツ、会社のサークル活動などその部下が楽しめそうな手段を提案して、同じ時間を過ごそうとはしています。気を遣わせない範囲で金銭面も負担します。どう受け止められているかわからないですが、断りにくい雰囲気やハラスメントにはならないように注意を払っているつもりではあります。
CFOに必要なスキルCFOの魅力
「CFOに必要なスキルやマインドはどのようなことだと思いますか。」
CFOといっても様々ですよね。英語ではChief Financial Officerなので、資金調達をし、資金を活用することで、事業をドライブさせることが本来の役割でしょう。一方で、経理部長のことをCFOと呼んでいたり、人事や総務も掌る管理部長のことをCFOと称していたりするので、日本で本当の意味でCFO制度が定着するのはもう少し時間がかかるだろうと思っています。多様なCFOがいてよいと思いますが、求められることは、「まずはひとつの分野でプロ領域を持つ」ということでしょう。プロの領域が1つでもあれば、他の分野にもその考え方が応用できると思っているからです。
その中でも、「数字を見ることができる」ことはマストです。数字を見ずに、採算性は無視したり、定量化できないといった理由をつけたりして、意思決定をするのは乱暴かと思うのです。数字から、客観的かつ合理的に最終的な意思決定をくだす必要があります。
最後に、経営はドライブしていくことが重要なので「リーダータイプの人間である」ことも必要かなと。
求められるマインドについては、イヤなことや辛いことも多いので、「前を見る」「落ち込まない」「プラスに考える」という要素は大事かもしれません。矛盾するようですがブレーキを踏む役割が多いだけに、逆に「ドライブする」という起業家マインドが最も大事で、というのも、ブレーキを踏むのは簡単で、ブレーキを踏むだけのCFOでは、攻めるべきタイミングで攻められないからです。リスクとリターンが見合うようバランスよく持ち合わせていることが重要と考えています。
「CFOの魅力を教えてください。また、CFOのそれからをどう考えていますか。」
今の日本には、CFOの役割を担う人材が圧倒的に少なく、CFOを名乗っている人でも能力が追いついていない人が多く見られます。裏を返すと、それだけ大きな役割がCFOには期待されているということだと思います。世の中には、「数字がわからない」「ルールを知らない」「慣習を知らない」「ロジカルに説明できない」というビジネスマンが圧倒的に多い。だからこそ数字が分かる、ルールや慣習を知っている、ロジカルに説明できるといったところにバリューが発揮できれば、CFOとして役割が果たせるでしょう。CFOの仕事は、苦労もありますが、とてもやりがいのある仕事です。企業は、ヒト・モノ・カネを差配します。CFOはそれらを動かして、会社全体を動かす仕事です。また、スペシャルスキルや人間関係など、非常にたくさんのことを学べるポジションでもありますので、是非多くの人に目指してほしいと思います。CFOの能力次第で会社は大きくも小さくもなります。それだけの可能性がCFOにはあると思いますよ。
「西脇さんのキャリアは多様なので本が書けますね。」
自分のキャリアの本を書くのは恥ずかしいですが、企業統治と国家統治についての考察を本に書きたいなぁとは思ってるんです。世界の歴史を学ぶのが好きで、昨年も歴史能力検定の世界史1級に合格したんですが、世界史を学んでいると、会社経営との類似性を痛感するのです。世界の歴史では、国家の衰退がつきものです。どのようなケースで国家が盛隆し、どのようなケースで衰退するのか、これを突き詰めると、会社経営ととても良く似ています。
例えば、国家のトップ(君主や王様や皇帝)は、その下に現代でいう内閣があって、国民がいます。お互いの意思をしっかりコミュニケーションして、数えきれない諸々の課題をどのように解決していくのかが国の政治力ですが、会社経営も全く同じです。
また、国民には税金を払ってもらわないといけませんが、できるだけ税金を安くしたいという思いもあるものの、安くし過ぎると予算が足りず国の政策が打てずに国家力は低下する。会社の給料も同じで、できるだけ給料を多く支給したいが、それだと会社に利益が残らず、未来への投資ができない。その塩梅はとても難しいものです。
その他、最近は戦争が少ない時代になりましたが、いつどこから攻められるかわからない自国の領土をどのように防御態勢を構築し、どの国と同盟を結んで、どの国と距離を置けばいいのか。また、領土を広げるには、どの国に攻めていけばよいのか。こういう戦略は、会社の事業戦略やマーケティング戦略に似ていますよね。
どうしたら企業が衰退し、どうしたら企業が強くなって持続的な存在になるのか。そういったことを国家の歴史に当てはめて整理していけたら面白いなと思ってます。
「西脇さんの今後の夢を教えてください。」
今後は、大きく2つの路線を考えています。
1つはプロフェッショナルCFO(経営者)として今後もどこかの事業会社で働いていくこと。CFO領域に限らず、事業推進にも興味はあるので、売上や利益を創造していく仕事にも改めてチャレンジしたいです。役職としても、副社長までは経験したことがあるので、もしチャンスがあれば、小さい会社でも50代で社長はやってみたいと思っています。
もう1つは、独立して社外のアドバイザーとなり、会社をコーチングしたり、次世代の若手を育成すること。先述の通り、学校の先生になりたかったこともあるので、教えることがとても好きなんです。実は、高校野球のコーチもやっていましたし、少年野球の監督も2チームで計7年ほどやっていました。ただ教えるにしても、実績がないと話を聞いてもらえないので、もっと実績は必要かなと思ってます。もし、3社のIPO実績があれば、伝えられる知見も増えるので、別の形のIPOには興味があります。例えば、海外市場でのIPOとか、超大型案件のIPO、本邦初のオファリング手法を用いたIPOなどです。
ただ、なかなか思っているようにならないのが人生ですし、これまでも、全く考えていないことが突然目の前に起こったり、その中でかけがえのない出会いがあったり・・・・
これからどんな人生が待っているのか、自分自身を楽しみにしてるんです。