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ジャフコグループ株式会社/社外取締役/監査等委員 田村 茂 氏

銀行での海外勤務やMBA取得を経てベンチャーへ挑戦。CFOから社長へと駆け上り、すべての経験がつながった社外取締役の現在

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※インタビュアー/バリューアップパートナー株式会社 代表取締役 大塚 寿昭
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    社外取締役の役割とは

    「長く社外取締役を務めてきた田村さんは、社外取締役の役割はどんなことだと思いますか。」

    本来、社外取締役の役割は、「経営を監督し、経営陣に対して適切な助言を行い、企業価値を高めていくこと」です。まさに教科書に書かれているような、この本質的な役割を、しっかり果たさなければならない――そうした思いが、今では以前にも増して強くなっています。というのも、8年前にジャフコの社外取締役に就任した当初、「日本の社外取締役は、高額報酬に見合う貢献をしていない」という違和感を強く抱いていました。だからこそ、「私はそうはなりたくない」という気持ちで、本来の社外取締役の仕事ではない、営業協力や人材紹介をしたり、知見のある投資案件については積極的にアドバイスをするようにしました。しかし、そうした“プラスアルファ”がどれだけ利益貢献になったとしても、本来の社外取締役の責務を軽視してはならない、という思いが年々強くなってきました。経営の現場では、時に「どう判断すべきか」、難しい局面に直面します。

    実際、ジャフコでも3年前に、有名アクティビスト投資家による株式の買い占めという大きな出来事がありました。彼らの要求は、ビジネススクールの教科書に載っているような、極めてロジカルな正論で――「資本効率を高める」、「PBRは最低でも1倍に」、「余剰資金は株主に還元する」といったものです。結果的に、これを機に経営陣は新たな企業価値向上策を打ち出しました。それ以前から、私たち社外取締役も株価に対する問題意識は持っていましたが、経営陣に対する信頼感から、株価意識を強く主張することはなかったと反省しています。
    この一件を経て改めて思ったのは、「報酬に見合う本来の責任とは何か」ということでした。営業協力や人材紹介などで“ちゃんと働いている”つもりでいても、それは本来の役割ではない。まずはきちんと監督責任を果たし、そのうえで必要に応じてプラスアルファの支援を行う――それが、社外取締役としてあるべき姿だと、今では確信しています。

    「社外取締役の魅力も8年前から変わりましたか。」

    8年前の私は、社外取締役を“めちゃくちゃ時給のいいアルバイト”だと思っていました(笑)でも今は、そんな気軽な立場ではないと理解しています。経営陣が“答えのない問”と向き合っている時こそ、社外取締役は自分の考えを持ち、第三者としての視点で判断しなければなりません。
    実際、著名な海外アクティビスト投資家から、「この問題について、社外取締役はどう考えているのか?」といった手紙を受け取ったこともあります。また、最近は私が機関投資家とのSR(shareholder relations)ミーティングに同席する機会も多く、企業の透明性や説明責任がこれまで以上に問われる中、社外取締役の発言や行動も周りから見られているのだと感じます。

    社外取締役は「いつ辞めてもいい」が重要

    「社外取締役をつとめる上での心得はありますか。」

    私が社外取締役を務めるうえで一番大事だと思っているのは、「いつ辞めてもいい」という覚悟です。ジャフコで4年目くらいまでは、経営陣から「うるさい社外取締役だと思われたくない」という気持ちがどこかにありました。ジャフコの社外取締役の仕事は、社会の役に立てて、自分の学びにもなって、本当に魅力的です。若い経営者からも一目置かれますし、社長とは本音で話せる関係でした。だからこそ、「あまり言い過ぎてもな…」と遠慮していたところがあったと思います。
    でも、ここ数年でその思いは変わりました。今期再任されたので、2年後は任期満了で通算10年となります。自分としては、ガバナンスの観点からも、もう延長すべきではないと思っています。残り2年、“何を言ってもクビにはならない”この立場こそ、一番いい仕事ができるタイミングです(笑)。

    社外取締役について、「誰かいい人いませんか?」と言われたら、いつも私は相反する2つのアドバイスをしています。1つ目は、あまり歳をとった人はやめておいた方がいい。3期通算6年間を前提にすると、65歳の人は71歳になってしまいます。必ずしも65歳と71歳で同じ能力を発揮で出来ませんし、高齢になると他に仕事もなくなるので、どうしてもそのポジションにしがみつきたくなるものです。2つ目は、金銭的な面から社外取締役でいたい人はやめておいた方がいい。自分の会社が上場したり売却されたりして、ある程度お金と時間に余裕がある方であれば、言いたいことを言ってクビになっても困りません。
    まとめると、50代まででお金に困っていない人が社外取締役には最適です。さらに、経営の王道がわかる人。必ずしも王道経営をしなくてもいいのですが、「本来はこう考えますが、なぜそうしないのですか?」と経営陣に嫌がられても、繰り返し問いかけられる人がお勧めです。

    CFOに求められるスキル

    「ベンチャー2社のCFOを経験し、責任を全うするにはどんなスキルが必要だと思いますか。社長から見てどんなCFOが理想でしょう。」

    当然ながら一定の会計知識や金融知識、数字に対する強さは必須です。しかし、それ以上に重要なのがコミュニケーション力です。仮に社長との関係は悪くないとしても、他部門と上手く連携出来ないCFOでは、組織の中で信頼を得るのは難しい。当然、CEO候補には推せません。昔に比べて、CFOに求められる専門知識の難度は上がっているかもしれませんが、それでも他の役員といつでも“明るく”議論できる能力が、今の時代のCFOに最も求められる資質ではないですか。

    「その考えに行き着いたのは、CFOを経験されたからでしょうか。社長を経験されたからでしょうか。」

    CFOも社長も経験したからこそです。正直なところ、メンバーズやアプリックスでCFOを務めていた頃の自分は、社長から見て理想的なCFOではなかったはずです。自分が実際に社長になってみて、「CFOにはこうあってほしい」と心から思えるようになりました。

    「CFOの社長との距離感、接し方はどうあってほしいと思いますか。」

    社長との距離感や接し方は、その社長の能力次第だと思います。もし、社長の能力が非常に高ければ、CFOは言われたことをやるだけでも十分かもしれません。しかし、完璧な社長なんて、実際にはいません。だからこそCFOは、社長にとって「自分では気づかない(または見たくない)ことを指摘してくれる存在」でなければなりません。もちろん、「はい」と素直に受け入れてくれる社長ばかりでもありません。CFOが何か意見すれば、「そうか?」と反論されることもあります。それでも、信頼関係があれば、後になって冷静に考えてくれるものです。「社長は聞いてくれないから」と諦めてしまうCFOでは、全く責任を果たしていませんね。

    CFOの魅力

    「CFO職の魅力はどんなことでしょうか。」

    CFOというポジションに、「自分はトップではないけれど、裏方として人や組織を動かす」という魅力を感じる人は多いでしょう。かつての私もそうでした。ただ、今は少し違った見方をしています。私が強調したいのは、CFOとは“CEOを目指す人にとっての登竜門”だということです。営業力に秀でた人、技術に明るい人、管理畑で成果を出してきた人――CEOに至るルートはさまざまですが、CFOもその一つだと、これまでの経験から強く感じています。

    「現在、ベンチャーのCFOに一言伝えるとしたらどんなことでしょう。」

    「いつでもCEOの代わりをつとめる覚悟でやって下さい」

    「ベンチャーのCFOになろうか悩んでいる人に一言伝えるとしたらどんなことでしょう。」

    ベンチャーのステージやご自身の経験にもよりますが、チャンスがあるのなら是非チャレンジして下さい。もし、外資系企業の一部門でのトレジャラー(財務責任者)と、ベンチャー企業CFOという選択肢があるなら、少なくとも若いうちは、ベンチャーCFOを選ぶほうが、より大きな経験と成長機会が得られると思います。

    「最後に今後やりたいことがありましたらぜひお聞かせください。」

    関与する企業には、どんな形でも力になりたいといつも考えています。いま社外取締役を務めている会社の一つは、正直かなり危なっかしいところもありますが、経営者もビジネスモデルもとびきりユニークで、そこがまた魅力です。私はそういう “クセのある” 会社が大好きなんです。この歳になると、報酬や肩書き、世間の評価は二の次。困ったときに真っ先に相談してもらえる存在である――それこそが、私にとって一番の喜びです。

    ジャフコグループ株式会社
    社外取締役/監査等委員 田村 茂 氏
    1985年4月 ㈱横浜銀行入行 2000年6月 ㈱メンバーズ入社 経営管理部長兼公開準備室長 2000年8月 同社 管理担当取締役(CFO) 2002年9月 ㈱アプリックス入社 経営管理本部長(CFO) 2003年6月 オリックス㈱入社 投資銀行本部プリンシパルインベストメント バイスプレジデント 2005年8月 医療産業㈱(現 ㈱MICメディカル)入社 上席執行役員社長室長 2006年8月 同社 取締役副社長 2010年6月 同社 代表取締役社長 2014年10月 同社 取締役会長 2015年5月 ㈱メディアドゥ 社外監査役 2015年6月 燦ホールディングス㈱ 社外監査役 2017年6月 ジャフコ グループ㈱ 社外取締役/監査等委員(現任) 2018年11月 ㈱コーチ・エイ社外取締役 2024年5月 ㈱UMITO社外取締役(現任) 2024年7月 ㈱レイヤード社外取締役/監査等委員(現任)