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株式会社パワーエックス/執行役CFO 藤田 利之 氏

心に火が灯り挑戦したベンチャーのCFO 事業会社やFASでの知見が結実した成功への道

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※インタビュアー/バリューアップパートナー株式会社 代表取締役 大塚寿昭
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    再びCFOに挑戦したいと思わせてくれたパワーエックス

    「10年間走り抜いたレアジョブを卒業して、今度は創業したての現職、パワーエックス社に移ります。これまで以上に大きな夢を掲げたベンチャーですが、その分大きなリスクもあります。なぜあえてそのようなベンチャーを選んだのでしょうか。」

    レアジョブでは、当初、目標としていた東証1部上場も果たし、10年の区切りで退任をしました。退任後は、1年間は非常勤取締役で残り、その他顧問などをして1年くらいは常勤の仕事は持たず充電期間としながら今後のことを考えようと思っていました。
    そのため、転職活動も基本的には行っておらず、充電期間として、ゴルフをやったり、ワインの勉強をしたり、フルマラソンの参加を決め、練習したりしていました。そんな中、友人から、パワーエックスの創業者に紹介される機会があり、CFO的なサポートをしてくれないか、との話をいただきました。

    事業の構想の動画や説明を聞いた時に、こんな壮大なビジョン、ミッションを考えるスタートアップの経営者が日本にいることに心が震えるものがありました。正直、自分には荷が重い役割だと思いましたが、立ち上げ期に少しでも手伝えればと思って関与した結果、今に至るというのが実情です。レアジョブを辞めた時は、もうCFOをやりたくなるような、燃えられるようなベンチャーへの出会いはないと思っていたのですが、パワーエックスはそれを払拭する刺激を与えてくれました。
    結局、私の充電期間自体は、3ヶ月で終えましたが、これも縁だと思っています。

    「壮大な構想を掲げて約150億円を調達してきましたが、その間はピンチの連続だったと思います。この1年半ぐらいを振り返り、それを乗り越えるに必要なスキルは何だと思いますか」

    資金調達できた理由は、会社の壮大なビジョンとそれを実現できると思わせる社長の魅力、そして、実際にこれまでに組織を作り、プロトタイプを作り、製品の予約残を積み上げと、有言実行を続けていることによる会社への信頼感によるものだと思っています。大きなビジョンを掲げると、もちろん、集める金額やビジネスの難易度も高くピンチも多いですが、応援してくれる人も多いということを感じています。
    とはいえ、会社が売上もなく、構想の状態から関与した経験は初めてで、CFO自ら経費や給与の振込から始め、資金調達、監査対応、組織作り、ガバナンス体制の構築などをゼロから行っていくのはかなり大変でした。製造業も過去の監査経験くらいしかない中で、今のビジネスのスピードは、優秀な人材が集まってきているおかげで全てギリギリでなんとかなっているという感じです。

    必要なスキルということですが、常に情報収集し、勉強し続けるしかないように思っています。時代の移り変わりは早く、過去の知識がすぐ陳腐化してしまいます。なかなか本では得られない知識も必要なので、最新の情報を知っている人たちに会いにいったり、自分で周辺の情報からロジックを考えたりするしかないと思っています。
    また、資金調達の大きさに目が行きがちですが、戦略、財務、組織の3つがうまく回らなければ、会社はうまくいきません。その意味では、やはり会社は人ですので、組織デザインと採用力がビジネスの成功確度を上げるうえで最も重要なことだと思っています。

    社長や部下との良い関係性とは

    「会長、社長との関係で気を付けていることやスタンスがありましたら教えてください。」

    私はどちらかといえば、自分が合わせるタイプですので、上司なる人がどういう考え方をしているのか、を理解し、相手に合ったコミュニケーションをとるように心がけています。また、同じ人であっても、聞きたい場面、内容、タイミングがあるので、それらを踏まえながらコミュニケーションをとっています。相手に聞いてもらえないタイミングや状況に、自分の思いだけを伝えてもほとんど響かないものです。

    一方で、単純なイエスマンにならないことは心がけています。しっかり聞いてもらえる状況やタイミングで、必要なことはしっかり伝えていくということを心掛けています。問題があるにもかかわらず、言わなかったことによる後悔だけはしないように心がけています。

    「部下との関係性で気を付けていたことがあったら教えてください」

    基本的には、どのポジションもその役割におけるプロフェッショナルであるべきだと考えていますので、部下の方に対してマイクロマネジメントはしません。部下の方には、その人が自分で考えるための考え方や、材料、特に、未来の話、会社全体の話、関連しそうな話や私が何を考えていることなどを話すようにしています。やはり、最後は、部下が自分で考えられる状況を作りたいと思っています。そうでないと、主体的に動けるようにならないですし、仕事がつまらなくなってしまうと思っているからです。人は、主体的に考えて仕事をして、初めて、頑張れ、成長し、自ら責任も取れるようになる、と思っています。

    CFOに必要なスキルと魅力

    「CFOにとって一番大切なスキルとマインドを一つだけ教えてください。」

    私は、CFOという呼称の立場に方でも、実際には様々な立場があり、会社のビジネス環境上でも、大きく異なると思っています。それは、上場前も上場後も常に資金調達が必要なビジネスか、そうでないか、とか、業績の安定度とか。ただ、私自身は、財務や経理、その他の機能面より、経営者の経営のパートナーでいたいと常に思っています。そのために、隣で経営に関するありとあらゆる議論ができる人を目指しています。必要なことといえば、経営者マインドだけだと思っています。ただ、それは私の場合で、自分らしいCFO像を持ち、そのために必要なスキルやマインドを持てればそれでいいのではないでしょうか。

    「そのためには色々な知識や経験を積んでいく必要がありますね。」

    そうですね。常に、社長の立場なら、どう判断するのだろう、という仮説をもって、その答え合わせをしながら、経験値を高めています。そのためには、知識というよりも難易度の高い意思決定の回数に多くかかわっていくしかないと思っています。

    「CFOの魅力も教えてください。」

    スタートアップにおける資金調達環境が大きく変わったことで、より大きなお金を集めて、大きなビジネスを描くことができる環境になってきていると思います。このため、CFOへの期待値はどんどん高まっているのではないでしょうか。単純に金額を多く集めるだけでなく、資金使途に合わせて、どれだけ資本コストの最適化が図れるか、が重要になってきています。特に、資金使途となる戦略との整合性は極めて重要ですので、戦略と財務の両面にかかわるCFOの責任は非常に大きく、一方でそれが魅力であると思います。

    「これからも藤田さんから目が離せませんが、10年後は何をしていると思いますか。また夢がありましたら教えてください。」

    まだまだ、成功するには課題が山積していますので、今は、パワーエックスの成功のことだけを考えようとも思っています。ただ、パワーエックスのような会社が、上場も含めて成功できることを示すことが新しい時代を作ることにつながると思うので、頑張っていきたいと思っていますし、それが実現できれば、また面白い10年後が見えてくる気がしています。

    株式会社パワーエックス
    執行役CFO 藤田 利之 氏
    1995年11月 株式会社ソニークリエイティブプロダクツ入社 1996年9月 監査法人トーマツ(有限責任監査法人トーマツ)入所 2000年9月 株式会社フレームワークス入社 2000年12月 同社取締役管理本部長 2005年4月 株式会社KPMG FAS入社 2009年4月 同社シニアマネージャー 2012年4月 株式会社レアジョブ入社 2012年6月 同社取締役 2015年6月 同社取締役副社長 2021年10月 株式会社パワーエックス入社