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株式会社パワーエックス/執行役CFO 藤田 利之 氏

心に火が灯り挑戦したベンチャーのCFO 事業会社やFASでの知見が結実した成功への道

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※インタビュアー/バリューアップパートナー株式会社 代表取締役 大塚寿昭
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    いち早く飛び込んだスタートアップCFO

    「29歳で監査法人を退職し、上場を目指す株式会社フレームワークスというベンチャー企業に取締役CFOとして入社します。当時は、大手監査法人からベンチャー企業に転職をするという挑戦的なキャリアを歩む会計士は少なかったと思いますが、どのような目的で入社したのでしょうか。

    当時は、普通に監査法人に入社したらパートナーを目指す時代でしたし、実際、私の友人の大部分は、パートナーになりました。監査の対象会社も拡大していましたし、コンサル業務も拡大傾向にありました。私自身も、苦労はしながらも、前職での経験も活きて、監査法人での勤務は大変ながらもやりがいのあるものでした。また、今ほどベンチャー企業の印象はよくなく、ただの中小企業の言い方を変えただけ、という認識が多い状況でした。当然、大手監査法人を辞めて、待遇面も悪いベンチャー企業に転職するという人はほとんどいない時代でした。

    ただ、私は、サイバーエージェントが東証マザーズに上場したニュースを見た時に、「社長になることは難しいけれど、社長と一緒にやっていくナンバー2としての立場であればできるのではないか」「うまくいけばすごいチャンスがあるのではないか」と考えました。公認会計士の試験の合格にも苦労し、就職にも苦労した自分が監査法人で出世することの限界もあると思えたことと、まだ、誰もやっていないタイミングだからこそ、自分でも可能性があると考えたのです。

    実は、ずっと三国志の漫画が好きで、諸葛亮孔明のような軍師に憧れているところがありました。いつかは、若くて優秀な経営者をサポートしたいという気持ちがありましたが、この時、急にそのことを思い出しました。
    結局、自分のように頭がいいわけでもなく、器用なわけでもない人間が、人より少しでも大きなリターンを得るには、リスクがあるところにいち早く入って、なんとか結果を残すしかない、という考えになり、まさにベンチャー企業のCFOポジションは、周囲でまだ誰も挑戦していないところでした。

    「リスクよりもメリットのほうが大きいと考えたわけですね。」

    そうですね。これまで苦労した中で自分自身のことを理解し、得意なこともわかり、一方で苦手だからこそ早めに克服したいことも、わかってきました。ここで、ベンチャー企業のCFOとなり、IPOを実現できれば、公認会計士として今一つ自身が持てなかった自分を、一気に克服できる、とも思いました。
    結局、私にとっては、この転職は、リスクよりも自分にとってはメリットのほうが大きいと考えたことになります。

    4年後にはマザーズに上場しますが、その間にもピンチや苦労もあったのではないかと思います。どのようなご苦労がありましたか。

    入社していたフレームワークスという会社は、海外で当時はやり始めていた倉庫管理ソフトを日本版にローカライズしたパッケージソフト開発の会社でした。当時は、ERPやSCMというパッケージソフトが日本に多く入ってきたばかりの時代でした。
    現状のような、SaaSでの提供ではなく、パッケージソフト及びカスタマイズの開発の売り切りビジネスが大部分の売上でした。積み上げ型の売上がサポート収入しかない中では、事業計画や予算の策定の予測も難しく、実績をあわせていくことは非常に難しい状況でした。

    それ以外でも、初めての取締役の経験でもあり、自分でも頑張っているつもりが、かなり空回りをしていた面もあったと思います。
    最も苦労したのは、これまであまり経験してこなかった、人事制度の構築運用、事業計画の策定、あと総務業務などです。なんとなくあるべき業務を想像しながら、手探りで業務をおこなっていました。
    正直、ERPやSCMの市場トレンドの中で、事業計画通りの売上がなんとか実現でき、かなり運よく上場することができた、と思っています。

    ファイナンスの思考を身につけたFAS

    「その後、上場会社から一転、ファイナンシャルアドバイザリー会社の大手KPMG FASに移ります。その目的を教えてください。」

    たまたま、いい流れの中で上場を果たしましたが、上場してすぐ、業績面が厳しくなりました。そこで、製品戦略の見直しが必要ではないか、ということで社長に対して様々な提案をしました。私自身、いろいろ主張した中では、製品の責任者もさせてもらいましたが、結果を残せなかったですし、自分にはもう次の成長の手の打ち方がわからない状況になりつつありました。当時の社長は、M&Aで事業拡大を図ろうとしていましたが、私自身賛成できず結果、辞任を選択しました。

    今回の辞任を通じて、私自身、もっと会社の攻めに必要な戦略やマーケティングの知識、M&Aや事業再生の知識、そしてファイナンスの知識・経験を高める必要があると考えました。これらの経験ができる職場でかつ、公認会計士としての知見も行かせるということでいろいろ考えた結果、KPMG FASに転職することにしました。

    「結局7年間KPMG FASで勤務することになりますが、ここでは主にどのような仕事をしていたのでしょうか。」

    リストラクチャリングの部署に入社しました。再生企業の財務デューデリジェンス、事業計画の策定支援から始まり、その後は、主に投資ファンドや外資系投資銀行の自己勘定投資の買収案件のアドバイザリーの業務に従事しました。
    その他、買収後のPMI(M&A後の統合)も経験し、また子会社にコンサルティング会社が出来たことで、コンサル業務も経験できました。これまでの事業会社や監査とは異なる経験であったり、新聞の一面記事になるような案件にかかわれたことはいい刺激にはなりました。

    「そこでの経験、身に着けたスキルはどういったことでしょうか。それはCFOとしての役割を果たすうえで重要なスキルになっていると思いますか。」

    某外資系投資銀行に派遣に近い形で業務をおこなった期間が半年くらいありました。そこで、一緒に投資案件の検討にかかわらせていただいたことが、一番、経験としては記憶に残っています。もちろん、投資サイドの仕事自体をすべてしたわけではありませんが、それでも投資側のロジックや資金使途に応じた調達の一端を垣間見ることができたことは大きな経験とはなりました。この経験は、CFOを行う上で、大きな経験となっていると思います。

    「また、KPMG FAS時代にMBAも取得なさっています。FASの業務は過酷だと思いますが、それを続けながらMBA取得を目指したのはなぜでしょうか。」

    確かにFASの業務は激務ですが、リーマンショック後は仕事が少し落ち着いた時期があったので、MBAの勉強をするができました。M&Aや事業再生に関わってきてはいるものの、体系的に学んだことがなかったので、学んでみようと思いました。
    ただ、正直、私のような事務たたき上げの人間にとって、学校で学べることは専門性が高すぎる内容であったり、やや期待していた内容とは異なっていたこともあり、今後のCFOとしての知識・経験として必要だったかといえば、そこまでではない気がします。

    株式会社パワーエックス
    執行役CFO 藤田 利之 氏
    1995年11月 株式会社ソニークリエイティブプロダクツ入社 1996年9月 監査法人トーマツ(有限責任監査法人トーマツ)入所 2000年9月 株式会社フレームワークス入社 2000年12月 同社取締役管理本部長 2005年4月 株式会社KPMG FAS入社 2009年4月 同社シニアマネージャー 2012年4月 株式会社レアジョブ入社 2012年6月 同社取締役 2015年6月 同社取締役副社長 2021年10月 株式会社パワーエックス入社