入社から上場までピンチ続きの教育ベンチャー
「FASを卒業して、12年ぶりにベンチャーに戻っていらっしゃいます。上場を経験した会計士でファイナンスにも強いとなると中堅の上場会社のCFOの道もあったのではないかと思いますが、あえてリスクのあるベンチャー(レアジョブ)を選んだ理由を教えてください。また、入社時はどのようなお立場だったのでしょうか。」
FASに入社した当時は、これまでにIPOの経験を一度したので、今度は、中堅の上場企業や再生企業のCFOになることも面白いと考えていたのですが、KPMG FASで中堅企業のM&Aに関与し、企業再生にも関与した経験から、自分には、新しいチャレンジをするまだ何もないスタートアップで会社の仕組みを作りあげるほうが、向いていると感じました。
一方で、一度、IPOの経験はしていたので、次のチャレンジとして、次の目標を果たせると思える会社に入社することを考えていました。
1.東証マザーズではなく、東証1部までやりとげること
2.前回がBtoBビジネスだったので、今度はBtoCがメインビジネス
3.前回は自分が社内的には若いCFOだったが、今後は若いCEOを支える立場になること
4.ビジョンやミッションに共感できること
その中で、オンライン英会話のレアジョブを選びました。レアジョブの入社時には、まずリードインベスターのVCの面接と筆記試験があり、その後、レアジョブの共同創業者二人との面談がありました。入社時の条件として、報酬はある程度支払うが、これまで会社としてキャリア採用をしたことがないため、CFO候補の平社員からスタートしてほしいといわれました。
正直、上場企業のCFOの経験もある中で、まさか平社員から入社という提案は想定していませんでしたが、それでCFOに選ばれないならそこまでの実力ということだと割り切って入社しました。
「入社早々、会社の破綻の危機を迎えます。藤田さんはそのピンチをリーダーとして乗り切りましたが、どう対処したのでしょうか。その成功要因やそこから得られたものはどういったことだったのでしょうか。」
問題は山積みだったのですが、最初に浮上したのは、フィリピンの子会社の決算・監査がうまくいっていないという問題でした。こちらは入社そうそうフィリピンにも行き、監査法人側との調整も経て、なんとか入社1ヶ月で事なきをえました。
次に、フィリピンから帰ってきたすぐに、今度は個人情報の漏洩問題が発生しました。一度サービスを止め、セキュリティの脆弱性診断と改善をし、徐々にサービスを再開せざるを得ない状況でした。その間に、競合はキャンペーンで顧客獲得を早め、フィリピンの講師にも貸付や報酬の前払いを行うなどの対応をしました。加えて、資金繰りも悪化し、借入に奔走しました。
入社早々、とても厳しい時期ではありましたが、これらのトラブルの対応を全社的に評価され、入社して3ヶ月後に平社員から取締役CFOに就任することとなりました。その後は、社内での信頼度が高まり、IPOに向けた改革は非常にやりやすくなりました。
「その後、短期間でマザーズに上場します。どのような苦労があったか教えてください。」
情報漏洩の問題後、この原因となった経営者層のセキュリティを軽視し、業績重視の姿勢にITエンジニアの多くが退職してしまいました。体制の再構築に半年程度を要しました。
加えて、アベノミクスによる強烈な円安により業績が悪化しました。レアジョブのビジネスは、フィリピンの講師に外貨で講師料を支払わなくてはなりませんので、円高に向いたビジネスです。急激に円安になり、採算性が悪化したため、急遽、増資をし、サービスの機能追加と合わせて価格を価格の引き上げを行いました。
なんとか、こういった課題を解決しながら、主幹事証券の審査を終え、あと、2週間後に東証申請を行う段階で、また、トラブルが起きました。
IPOに向けてフィリピンの顧問税理士や監査法人を個人事務所から大手事務所に切り替えたところ、過去の税金の計算が大幅に間違っていたことが発覚し、過年度修正が必要になりました。また、フィリピンの講師の源泉徴収の扱いもかなりグレーであることが発覚しました。フィリピンの制度がそもそも不整備で解釈の余地が大きすぎたことと、私自身もフィリピン側は完全には見きれていなかったことが原因でした。
IPOを延期するかどうかの決断が必要でしたが、やらなければならない手続きは見えていましたので、このままIPOを目指すことにしました。過年度修正の結果、直前期が債務超過になったり、多くの問題がありましたがなんとかやり切りました。過去3年分の書類、監査を全てを是正し、1ヶ月遅れで東証申請し、期越え上場が可能な最終日で上場を果たすことがなんとかできました。
「入社から上場までずっとピンチ続きだったのですね。」
そうですね。なぜ上場を急いでいたのかというと、競合先が急速に伸びてきていたからです。資金力では敵える相手ではないので、上場企業のブランドで、個人向けの英会話サービスだけでなく、法人研修や学校・学生向けサービスを強化し、事業ポートフォリオの再構築をしていく必要があったためです。
「その後、CFOから取締役副社長として事業寄りの仕事をするようになりますが、それは希望なさったのでしょうか。CFOとは全く異なる役割ですが、大変ではありませんでしたか。取締役副社長になり意識の変化はありましたか。」
副社長になった経緯は、社長交代が起きた時点でした。社長が会長に、副社長が社長に昇格する際に、私もCFOから副社長になってはと取締役会で社外取締役から提案をいただき、就任しました。
CFOの時から会社経営全体を意識していたので、取締役副社長になったからといって、意識の変化はありませんでした。ただ、CFOというとどうしても保守的で、守りのイメージが強い中では、対外的には、副社長の方がM&Aや提携の案件に早い段階から入りやすいという利点はありました。