COLUMNコラム

それからのCFO
検索キーワード
元アマゾンジャパンCFO、元クラークスジャパンCEO/宮増 浩 氏

日系企業から外資系企業、そしてCFOからCEOへ。大きく変わっていった目に見える景色

4/4 ページ

※インタビュアー/バリューアップパートナー株式会社 代表取締役 大塚寿昭
INDEX

    CFOからCEOになるために

    「CFOからCEOになる例は少ないと思います。どうすれば宮増さんのようにCFOからCEOになれるのか、CFOとしてどんな準備をしておけばよいかを教えてください。」

    自分なりのやり方、快適なスタイルを見つけると良いと思います。僕の場合は、たまたまデータ主義、現場主義のスタイルに行き着きましたが、自分が興味を持ったり、信念や自信を持てるスタイルならなんでも良いと思います。ただ、そのスタイルは、人から教えられたり、本やSNSで発見したりするものではなく、日々の業務経験やその葛藤の中から湧き出てくるようなものが良いと思います。
    もう一つ上げさせていただければ、効率性を求めないこともアリだと思います。前述の通り、当時の業務に直接関係しない連結決算・移転価格や、経営・戦略等に興味を持ち独学をしたことは、数年後、それが業務に役立つ事がありました。無駄が、時間の経過と共に、無駄でなくなった不思議な経験でした。

    「現在CFOやCEOを目指している方にCFOの魅力とCEOの魅力をそれぞれお聞かせください。」

    CFOの魅力は、事業と財務の両方を見ることができることです。事業と財務は裏表一体の関係です。財務だけ見て満足する方もいるかもしれませんが、事業も一緒に見ると面白さが倍増します。よく「数字の裏には、必ず人がいる」と言いますよね。そこまで見られるCFOの業務は面白いです。
    CEOの魅力は、自分の判断が会社の業績に直結することです。例えば、1年が終わって業績を見ると、「あのとき、こうしていればこうなっていたな」とか、「あのときの判断はこうしておけば、さらに良かったな」ということがはっきり分かるのです。これはCFO時代にはできなかったことです。緊張感はあるけれど、その分、やりがいが大きいのです。また、CEOになると一緒に働く人の数が増えます。多くの方とやりとりする事はとても面白いです。

    「CEOとCFOのポジションがあったらどちらを選びますか」

    絶対CEOです。僕の周りにも何名かCEOとCFOの両方を経験した方がいますが、全員がCEOを選ぶと言っています。

    CFOとCEOに必要なスキル

    「CFOに必要なスキル(ハードスキルとソフトスキル)は何ですか。」

    ハードスキルについては、財務会計と管理会計の基礎知識は不可欠です。業務上、数値について説明をする機会が多くなりますが、その数値の理論や背景を正確に理解していないと、説明に説得性を欠いたり、重要な判断を間違えるリスクが高まります。さらにこれらの業務の実務経験があれば、なお良いと思います。

    ソフトスキルについては、説明機会を求められたときに、「数値がこうなっています」、「その要因はこうです」のレベルで説明を終えるのでなく、「背景や理由はこうです」、「対処としてこういうものが考えられます」のレベルまで説明をすることが望ましいと思います。前者のレベルは、往々にしてレポートを読めばわかるものであり、その情報を使う人にとって有用性は低く、ある意味、無責任な発言とも捉えることが出来ると思います。後者のレベルになって始めて有用性が高く、CFOとしての存在価値が現れると思います。

    「また、CEOについても必要なスキル(ハードスキルとソフトスキル)を教えてください。」

    ハードスキルについては、環境、市場、顧客等のマクロ的な情報と、自社の活動、業績等のミクロ的な情報を複合的に判断し、具体的なアクションを決断し、より良い経営を目指す事と思います。変化の激しい現代の環境では、木を見て森を見ずのような近視眼的な経営は、リスクが高いと思います。

    多国籍企業で働く場合は、日本以外の国についても知っておくといいと思います。僕の働いた多国籍企業でも、その会社やブランドのポジションや、消費者の嗜好は国によって微妙に違っておりました。日本固有のプログラム等を実行するときや、国籍や背景の違う上司や関係者を説得する場合は、その様な情報がとても効果的でした。CEO時代は、英国、米国、中国、シンガポール、香港、フランス等に出張しましたが、仕事の合間や帰途につく前に、主要な商圏、店舗、商品、消費者等を見て回りました。

    ソフトスキルについては、なんと言っても組織や関係者に影響を与え、自分の意図する方向に彼らを動かす影響力が必要と思います。僕のとったやり方は、前述のデータ主義、現場主義でした。他に気をつけた事は、良い情報のみならず悪い情報の開示も進めること、僕自身への反論や批判も含め自由な発言を促すこと、勤務形態の自由度を高くすることでした。

    「CEOとして社員、部下に接するときはどのようなことを心がけていましたか。」

    僕はドライな性格で、口下手ですが、なるべく本音の会話を心がけました。内容は、なるべく話しづらいこと、ややこしい話、悪い話を取り上げる様にしました。話しやすいこと、簡単な話、良い話はメールや電話でもさっと済ましてもあまり大きな問題は出ませんが、逆の場合は、直接会って、表情を見ながら、本音の会話する方が良いと思いました。この部分を、曖昧な形で放置したり、部下の方達に任せるのは、組織の長として避けるべきと思っておりました。

    現在の活動と今後の展望

    「現在はどのような活動をしていますか。そして、今後の夢をお聞かせください。」

    現在60歳なので、外資のローカルCEOやCFOのポジションの需要はほとんどありません。僕が勤めた企業を振り返ると、本社の経営陣や各国の同僚達は、ほとんどが40代後半から50代前半で、会議で集まるといつも僕が最年長でした。この傾向は、新興企業では特に顕著で、経営陣の若年化はさらに進んでいると聞きます。年齢、性別、国籍、背景等による差別の撤廃がさけばれる一方、このような現実問題は受け入れなければなりません。

    そこで、CEO、CFOの一段上の取締役、監査委員会関連のアドバイザリー業務を始めました。アシストシンコー時代の2年間、親企業のアシストテクノロジー社の取締役会に出席し、又、東京アメリカンクラブで6年理事を務め、米国流の取締役を学びました。それは、時折ニュースをにぎわす不祥事や「見ざる聞かざる言わざる」と呼ばれるような姿勢とは正反対のもので、実質的な統制を行い、企業価値に貢献するものでした。これを日本で広げられればと思っています。

    又、余った時間で、暫定CEO、CFOやテニス・フィットネスの指導、アンチエイジングの研究を進めています。
    ご興味があれば、Linkedin からのご連絡をお待ちします。

    ※石橋善一郎 氏
     「それからのCFO」のコラムにも掲載中。
     職業人団体や会計大学院・経営大学院でCFOを目指すプロフェッショナルへの啓蒙及び教育活動をなさっている方。 

    元アマゾンジャパンCFO、元クラークスジャパンCEO
    宮増 浩 氏
    1986年 キャノン株式会社 入社 1997年 インテルジャパン株式会社 入社 2001年 MSCソフトウェア株式会社 アジアパシフィックCFO 2005年 アシストシンコー株式会社 CFO 兼 SVP 2007年 アマゾンジャパン株式会社 CFO 2011年 千葉商科大学会計大学院 客員教授 2012年 ナイキジャパン合同会社 売上総利益FD 2014年 クラークスジャパン株式会社 CEO