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それからのCFO
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元アマゾンジャパンCFO、元クラークスジャパンCEO/宮増 浩 氏

日系企業から外資系企業、そしてCFOからCEOへ。大きく変わっていった目に見える景色

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※インタビュアー/バリューアップパートナー株式会社 代表取締役 大塚寿昭
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    リスクをとって選択した外資中小企業のCFO経験

    「なぜインテルを4年で辞めて中小企業の外資(MSCソフトウェア)に転職したのですか。」

    インテルは、組織のピラミッドが決まっており、上の方が詰まっていたので、その方々が辞めたり転勤にならない限り昇格できなかったからです。日本の場合は、ローカルのCFOの下に、コントローラー、その下に管理会計・財務会計、財務の各マネージャー、それらの下にシニア、スタッフというようなピラミッドが決まっていました。

    何社か面接を受けて、いくつかのオファーをいただきました。一つは、インテルと同業種、同規模の会社で、1段階昇格となる経理マネージャーのポジションでした。もう一つは、インテルより規模の小さいMSCソフトウェアという企業のもので、ポジションは2段階昇格となるアジアパシフィックCFOのものでした。前者は、ローリスク・ローリターン、後者はハイリスク・ハイリターンなので、選択に迷いました。僕は当時既に30代半ばになっており、あと何回CFOのオファーがくる可能性があるかと考えたら、数回しかないだろうと思いました。それならば、リスクをとってCFOに挑戦してみようと決めました。

    「MSCソフトウェアでは、CFOとしてどのような仕事をしたのでしょうか。大企業から中小企業に転職して感じたこと、苦労したことがあれば教えてください。」

    まず、対象となる国が、日本に加え、中国、韓国、台湾、オーストラリア、シンガポール、マレーシア、(のちに、香港、インド)となり、複雑さが増えました。また、業務範囲も経理だけではなく、営業管理、法務、人事、ITに広がりました。
    初めに気付いたのは、小さな規模の会社でも、やるべきことは大企業と比べさほど変わりないという事です。例えば、財務会計においては、売掛金を回収し、買掛金を支払い、固定資産を登録し、財務諸表にまとめ、監査を受け、米国本社に報告します。これらの作業の処理件数は少なくなりましたが、作業の内容はほぼ同じでした。
    次に気付いたのは、その作業を行うシステムやプロセスが、大企業と比べて整備されていないことでした。特に、米国会計基準による連結決算に関するものが弱かった印象を持ちました。丁度、米国本社がオラクルERP導入を始めたので、プロセス作りとシステム導入というインフラ作りを最初に進める事にしました。

    プロセス作りは、インテルで学んだものを参考にしながら、各国の財務会計責任者と現地会計・税法基準と米国会計基準の差を明確にしながら文書化を進めました。その情報を用いながら、ERPシステム導入の要件定義をまとめてゆきました。この作業は、膨大な時間がかかり、結局、日本で数ヶ月、各国に数週間滞在を繰り返し、全部で約一年かかってしまいました。最後の山は、アジアパシフィック各国の米国会計基準の財務諸表を、日本で一次連結決算を行うことでした。関係会社間の売掛金・買掛金消去、未実現利益消去、為替換算、その他の調整等、細かい作業をシステム内でなるべく自動処理できるようなシステム設定をしました。インテルでの自主学習がなければ、とてもつとまらない作業でした。

    「地域によって違いが大きいですよね。」

    おっしゃる通りです。まず各国の会計基準・税法が、米国会計基準とそれぞれ異なります。次に、各国の財務会計責任者の知識・経験レベルも違い、能力の高い方には大まかな指示で事足りますが、そうでない方には詳細な指示や確認が必要になります。最後に、各国の商慣習も異なり、契約書の内容、検収の要件、売掛金の回収期間、値引き、そのライセンス・保守売上への分配等、決算に直接影響を及ぼすため、正確な処理が求められました。

    文化の違いにも気づきました。例えば、韓国では年功序列を重んじたり、中国では人間関係が重んじられたり、オーストラリアでは欧米風のマナーが求められたり、各国はかなり違うのだなと思いました。当然、各国の食事は異なりますが、中国の拠点のあった北京、上海、成都、広州間でも大きく異なり、これにも驚きました。今まで日本と米国、一部の欧州しか知らなかった自分の視野の狭さを痛感したと同時に、アジアパシフィックの奥深さや魅力を感じました。

    「1年で仕組みを作るとはすごいですね。」

    僕のみならず、各国の財務責任者、売上管理責任者等にとっても大変な一年となりました。一方、メリットは、これらの方々と僕が現地会計基準・税法と米国会計基準の差を明確に理解し、それらがどうERPシステム設定に反映されているかが理解できるようになったことです。その後の決算作業は、短縮、改善され、監査での質問・指摘事項も大幅に減りました。
    ただ、一番大きかったのは、一緒に汗水垂らしながら末端の作業をしたため、お互いの理解が進み、チームワークな様なものが芽生えたことでした。この後、僕はこの後約3年勤務する事になりますが、お互い楽しく仕事ができるようになりました。これは何よりの成果物でした。
    後に、いくつかの国で、移転価格監査が入りましたが、これもインテル時代の自主学習が役に立ち、大きな問題なく対処することができました。

    「MSCソフトウェアでは大きく会社に貢献していらっしゃいました。退職した理由はどんなことだったのでしょう。」

    当時のアメリカのソフトウエア業界は、M&Aが盛んになっており、垂直統合や水平統合の様なものが行われていました。MSCソフトウエア社は、二社ほど買収し、規模を拡大しましたが、最後には別会社に買収されてしまいました。本社のCEOやCFOも退職し、僕も時間の問題と思い、転職活動を始めました。せっかく良い関係を築いたスタッフと別れることが、一番残念でした。

    利益に直接貢献することがミッションのAmazonCFO

    「その後、アシストシンコーという日米ジョイントベンチャーの会社を挟んで、アマゾンジャパンのCFOに就任します。会社規模が大きくなり重責となりましたが不安はありませんでしたか。また、どんなミッションが与えられていましたか」

    アマゾンジャパンは、規模が巨大とも言えるくらいあったので、そこで働く事の不安はありました。ただ、ハイリスク・ハイリターンは慣れてきていたので、挑戦する事にしました。
    入社後、米国人の上司から、9割を管理会計、1割を財務会計にフォーカスするように言われました。とは言え、財務会計は、複雑な取引、決算、報告、監査、税務等があり、実務上、手を抜くことはできません。必然的に、勤務時間は長くなりました。また、その上司から、管理会計については、(他人の意見の)承認や調整だけでは、不十分で、売上利益に貢献するアイデアを自ら策定し、組織を動かし実行し、実績を上げなくてはならないと言われました。

    「CFOが利益に直接貢献しなくてはいけないのですか?」

    そうです。前職では、財務会計5割、管理会計5割で時間配分し、管理会計については、承認、調整を主体におこなってきました。自分ではそれが普通と思い、上司や会社からも一定の評価を得ていたので、この違いに驚きました。そして、自分の管理会計のレベルを何段階か引き上げなければ生き残れないと思いました。入社前に言われていれば、心の準備ができていたかもしれませんが、入社後だったので既に時遅し、とにかくやってみるしかないと覚悟を決めました。

    「宮増さんは具体的にどのような利益貢献をされたのでしょうか。」

    詳細について述べることはできませんが、無料配送、メディア商品の購入価格、配送センターの再配置等についてです。どれも過去や類似する膨大なデータを分析し、仮説を立てながら、提案を具体化してゆきました。実施前には、テストを繰り返し、又、予期せぬことが起きた時の為の代替案も用意しました。最終的には、米国本社に出張し、上司や関係者から承認を得て、実施に漕ぎ着けました。

    「ビジネスモデルが大きく変わる提案ですね。宮増さんのこれまで経験してきた業務と大きく異なっているように感じました。」

    はい、正直、Amazonで生き残る為に、自分の過去の知識と経験を総動員して、やっと実現できた感じです。同時に、会社の業績に大きく影響の与える管理会計の面白さや奥深さに気づきました。実際、Amazonでは、ローカルのCFOからローカルCEOになったケースがいくつもありました。僕はAmazonでは、ローカルCEOになることできませんでしたが、残りの職歴は、この部分を追求したいと思いました。

    「AmazonのCFO組織について教えてください」

    縦のラインと横のラインがある典型的な多国籍企業のマトリックス組織です。縦のラインは、例えば、事業部や機能毎になっています。横のラインは、地域で区切られています。ですから、上司が2人いる仕組みになっています。

    「CFOとしてCEOとの関係性で注意していたことを教えてください。」

    異質な答えかもしれませんが、僕の場合、一貫して社内政治には関わらないようにしてきており、Amazonでもそれを続けました。正直、CEOから嫌われようが好かれようがどちらでも良い。ただ、正しい情報を提供したり、質の高い分析や提案をすることには人一倍気を付けていました。幸い、Amazonは社内政治がほとんどなかったので、これは僕にとって幸いでした。

    「外資の場合のCFOとCEOの関係は、上司と部下の関係でしょうか? 対等でしょうか?」

    ビジネスパートナーとしては対等でした。ローカルのCEOの方が僕を評価し、僕は彼の評価をしました。彼の上司も、僕の上司も、シアトルにいる別々のバイスプレシデントの方でした。ただ、アメリカ本社では、CEOがCFOの上司であり、ビジネスの最終判断もそのように行われていました。

    元アマゾンジャパンCFO、元クラークスジャパンCEO
    宮増 浩 氏
    1986年 キャノン株式会社 入社 1997年 インテルジャパン株式会社 入社 2001年 MSCソフトウェア株式会社 アジアパシフィックCFO 2005年 アシストシンコー株式会社 CFO 兼 SVP 2007年 アマゾンジャパン株式会社 CFO 2011年 千葉商科大学会計大学院 客員教授 2012年 ナイキジャパン合同会社 売上総利益FD 2014年 クラークスジャパン株式会社 CEO