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株式会社アンビスホールディングス/取締役CFO 中川 徹哉 氏

CFOとして社会貢献性のある事業に関わりたい。「お金のプロ」がたどり着いたお金だけでは測れない思い

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※インタビュアー/バリューアップパートナー株式会社 代表取締役 大塚寿昭
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    想像していなかった事業会社への転職

    「それが、「お金」ではなく、「命」を預かるアンビスに転職することになったのにはどういった理由があったのでしょうか。」

    職場を選ぶ際には、「命」を預かるとあまり重く考えていなかったと思います。シンプルに、社会的意義がある成長性のある会社で自分の能力を発揮したいという思いが強かったと思います。アンビスからお声がけいただいた時に、医者の友人にも評判がよく、ビジネスも面白いと感じました。そこで、社長にお会いしてみようと思いました。実際に会ってみると、社会貢献性があることは当たり前ですが、ビジネス自体もすごく面白いし成長性があると思いました。社会貢献性がある会社は利益が度外視されがちですが、アンビスは利益も出していた。素晴らしいと思う一方で、財務の専門家がいないことがわかり、自分の力を発揮できかつ成長できると思いました。また、周りに医者の友人も多く、一度は医者を志していた経験から、ビジネス内容にも違和感がなく入っていけるとも思いました。

    「その後、事業会社で大成功をおさめた中川さんが、監査法人や投資銀行の後輩に伝えたいことはありますか。」

    事業会社は本当に大変だというのがお伝えしたいことです。監査法人や投資銀行で働き詰めだと、外の世界がとても煌びやかに見えます。しかし、事業会社には事業会社で全く違った大変さがあります。例えば、仕事への向き合い方や、仕事と家庭のバランスの取り方が人によって大きく異なります。これは、どちらが正しいという事ではなく、考え方が違うという事です。投資銀行は、仕事に対してモチベーションが高い人が多いです。例えば、新聞に乗るような案件に携わりたいという理由もあれば、お金を稼ぎたい、スタートアップに行きたい、アーリーリタイアしたいといった様々な理由があります。理由は各々違いますが、それぞれ短期間で目標を達成しようと懸命に頑張っています。それに対して、事業会社は、がむしゃらに働きたいのではなく、ワークライフバランスがよいなど、家庭や生活のために働いている人が多いように思います。

    事業会社で勤務をスタートした当初、私が肩に力が入りすぎてしまっていたこともあるかもしれませんが、頑張れば頑張るほど、周りとの熱量の差が開いていってしまうように感じました。必死で良い会社にして業績を伸ばしたとしても、多くの従業員にはあまり関係がないんだろうなという感覚がありました。また、私が入社した年齢が若かったという点でも苦労しました。40代から50代の方が多く、私は若い方から数えた方が断然早く、幹部職員も全員年上でした。その中で、年齢が若いという理由だけで意見を聞いてもらえないことも多々ありました。但し、年月を経るにつれ、私から見えていた景色と他の幹部職員から見えていた景色は全く異なり、私が自分よがりなやり方で進めようとしていただけだったなと反省しました。今では、他の幹部職員とお互いサポートしながらできていると考えています。

    態度で示して信頼関係を構築する

    「その中でどうやって部下や同僚との距離を縮めていったのでしょうか。」

    人格が素晴らしい人であればそれだけで良いかもしれませんが、残念ながら私は人格者ではないので、態度で示すしかないと思いました。「なんで、この人はこんなに仕事に取り組めるかわからない」という印象を抱くくらいに働かないと認めてもらえないと思ったのです。長時間労働が素晴らしいと言うつもりはないですが、急に若くして入ってきた幹部職員が9時〜17時で働き、毎日あるべき論を話していても誰もついてきてくれないだろうと思いました。その際、大切にしていたことがあります。それは、医療業界の方は私にはない専門性があるので、その領域には絶対に踏み込まないこと。取締役という立場でも、現場の医療的ケアに口を出したことは今まで1回もありません。その点は社長含め医療業界出身の方にお任せしていました。

    一方で、それ以外のどの業界でも共通すること、例えば物品管理、人員調整、採用、入退職管理、退職率改善、無駄な事の効率化などは、どんどん実施していきました。こうした部分は医療業界だから特別ということはなく、良い会社にしていくことが私の仕事だと思っていたので、行動で見せると周囲に納得してもらいやすいと思ったからです。さらに、毎週、拠点を回って現場を知らなくてはいけないとも思いました。「現場のことをわかろうと思っているし、上から頭ごなしに言うつもりもない」ということを行動で見せようと思ったのです。現場に行っても何かするわけでもなく、現場でいつも通り仕事をして帰っていくだけです。それで何かが劇的に変わるわけでもなんでもないですが、本社でパソコンを前に同じ作業をしているよりも必ずいい、そう信じていました。そうしているうちに、現場の方から相談の電話がかかってくるようになりました。1人ずつ自分の仲間が増えている気がして、本当にうれしかったです。この施設を回るルーティンは70拠点近くまで施設数が増えた今でも続けています。

    「監査法人や投資銀行と全く違いますよね。辛くはなかったですか?」

    辛かったです(笑)。私は、人よりもプライドが高い部分があると自覚していますが、そのプライドを捨てないといけませんでした。しかしながら、それは自分自身の成長にもつながったように思います。捨ててはいけないプライドと捨ててもよいプライドがあると思うようになりました。前者は譲れませんが、後者はどんどん手放していこうと思いました。正確には剥ぎ取られたという感じかもしれません。

    「現場に行って話を聞く、改善できるポイントを探してくることを、CFOが行うとなると、かなり忙しかったのではないでしょうか。」

    現場に行くと、基本的には週末はつぶれるので、最初の3年間はほぼ休まず働いてきました。ただ、監査法人や投資銀行時代と違うところは、誰かからの指示ではなくて、自分でするべきと考えて実践しているということです。休もうと思うといくらでも休める環境の中で、自分の判断で動いているので精神的なストレスはありません。誰にも指示をされずに、自分で課題を見つけて解決できることは、こんなに楽しい事であるとも実感できました。

    株式会社アンビスホールディングス
    取締役CFO 中川 徹哉 氏
    2011年11月 在学中に公認会計士試験合格 2012年3月 東京大学法学部卒業 2012年4月 あらた監査法人(現:PwCあらた有限責任監査法人)入所 2014年7月 プライスウォーターハウスクーパース株式会社(現PwCアドバイザリー合同会社)入社 2015年4月 モルガン・スタンレー・ビジネス・グループ株式会社入社 2018年8月 Morgan Stanley ニューヨーク本社出向 2020年3月 株式会社アンビスホールディングス入社。同社執行役員CFO就任 2020年7月 株式会社明日の医療取締役就任 2020年12月 株式会社アンビスホールディングス取締役CFO就任