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それからのCFO
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渡邉 淳 氏

多様な経験から辿り着いた「誰かの役に立ちたい」という思い。学び続ける先に待つものとは?

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※インタビュアー/バリューアップパートナー株式会社 代表取締役 大塚寿昭
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    東大EMP、コーチング、寄付……CFOのその後

    「4回目のキャリアチェンジでは複数の社外取締役や監査役に就任して活躍されています。さらに、投資家としてベンチャー企業に出資したり、複数のNPOに寄付されたりもしていますね。このようなキャリアは、いつ頃からイメージしていたのでしょうか。」

    こういう活動の仕方をイメージしてきたことはなく、行き当たりばったりで歩んできたらたまたまこうなっただけです。正直、キャリアチェンジという意識もあまりないです。
    ただ、経済的にゆとりをもって活動できているのは、エラン入社時に付与されたストックオプションと現物株のお陰です。エランをぜったいによい会社にするということを決意し、ある意味そこで勝負をかけたんです。4年間は短く見えるかもしれませんが、もの凄い濃密な期間でした。だからやり残したという気持ちもありませんし、今でも株主としてエランを応援しています。

    「東京大学のEMP(エグゼクティブ・マネジメント・プログラム)にも通学して、ワインエキスパートの資格も取得されていますね。それぞれの目的を教えてください。」

    この2つも、特にやりたかったことではなかったんです。ただ、良い人生を送るために何をしようかと考えていた時に出会ってスタートしました。私は大学卒でもなく、一般教養がないことがコンプレックスだったところ、「時間とお金がある渡邉さんにいい学びがある」と勧められ東京大学EMPに興味を持ちました。他の受講生は全員が高学歴エリートという環境で不安がありましたし、授業は難しくてついていけないこともありましたが、飛び込んでみたことで視野が一気に広がりました。また20人弱の少人数クラスということもあり、今後ずっと付き合っていける素晴らしい仲間と出会えたこともとても良かったです。
    ワインエキスパートについては、エラン在籍中にある方から言われた「ワインを勉強すると人生が豊かになる」というひと言がきっかけで学び始めました。試験勉強は暗記することが多く大変でしたし、受験が終わったらほとんどの知識は忘れてしまいましたが、夫婦での食事の楽しみが増えたり、資格をきっかけとした出会いも増えたりと、本当に豊かになったと感じています。

    「2020年に経営心理士、2022年にコーチングについても学ばれていますね。」

    1人で活動するようになり、色々な方と話したり、相談いただいたりする機会が増えました。「もっとうまく相手の役に立てたら」「もっと相手の話を聞き出す力があったら」と思うことが多かったので、経営心理士やコーチングは学んでおいて損はないだろうと思いました。コーチングは、答えを教えたり、アドバイスをしたりするのではなく、一緒に考え、相手の視点を広げるような役割です。コーチングを学んだ際は、学びながらお試しでコーチ役をしたのですが、そこで改めて分かったニーズもあり、学んで良かったと思っています。昨年の後半あたりから、ひっそりと経営者向けのビジネスコーチ・経営コンサルを始めました。積極的に営業をしているわけではなく、本当に相性の良い方だけに提案しています。これらにも、これまでのCFOを含む経験が繋がっています。

    「さまざまな会社やNPOに寄付しているのはどのような思いからですか。」

    2020年のコロナ禍の緊急事態宣言で日本中、世界中がパニックになった時に、「自分はこのままなにもしなくていいのか」「自分は安全な場所にいるけれど本当にそれでいいのか」と迷ったんです。病院に行って手伝うことはできないけれど、何かしたいと思った時に、たどりついたのが寄付でした。でも、どこに寄付したら良いかもわからず、Facebookで「寄付をしようと思うけれど、寄付する先を知りません。どういうところに困っている人がいますか」と投稿したんです。そしたら知り合いが、「こういうところに寄付しませんか」と紹介してくれて。それらに寄付したのがスタートです。2020年は1,000万円ちょっと、その後もそれなりの金額の寄付を続けています。我が家には子供がいないので、お金をため込んでも意味ないんですよ。それなら誰かの役に立てたらというだけですね。

    CFOのその後のチャンス

    「渡邉さんの経験からCFOのその後にはどんなチャンスが待っていると思いますか。」

    たまたまのご縁で社外役員やベンチャー投資などやっていますが、どちらもCFOの経験が活かせていると思います。実際に企業の中で経営やファイナンスに携わった経験を提供すれば喜んでもらえます。それと、しばらく前から、報酬は少額なのですが、NPO法人のアドバイザーをやっています。実は、NPOにおける経営課題は、ベンチャー企業とかなり共通点があります。NPOの課題は、寄付金集め、そして、組織が大きくなったら組織作りです。寄付金集めはベンチャーでいう売上作りと資金調達です。NPOの代表に、「こういうことをやるとよいのでは?」とアドバイスすると喜んでいただけます。CFOの方の将来としては、NPOのサポートの道もあるかもしれません。経験を活かしたアドバイスはとても喜ばれます。

    私の場合はまだ51歳なので、私がCFOのその後について話すのは恥ずかしいのですが、あえてCFOのその後ということについて考えてみると、経験豊富で経済力を得たCFOの方であれば、その経済力を活かしたチャンス、例えば、起業・投資・社会貢献などの道があると思っています。資金力がある状態で起業すれば大きなアドバンテージになりますし、投資家としても活躍できるでしょう。寄付やその他で社会貢献するのもよいと思います。CFOの後進育成もよいですね。CFOやファイナンスの領域に絞らず、異なる領域に飛び込むのも面白いと思います。

    「これからやりたいことがあれば教えてください。」

    本当に困ってしまうのですが、やりたいことがないんですよね。でも、一生が終わる時にいい人生だったと思えたら良いですね。そのために、寄付も含めて、気になったことは後回しにせずに今やってみようと思っています。若い人をサポートすることも今ならできるので関わっていきたいですね。現在もよく行っていますが、誰かと誰かを引き合わせるということも続けていきたいです。 フラフラしていると、定期的に面白いことや人に出会います。大切なことは、そういうチャンスに気付けるか、そして、行動できるかではないでしょうか。思い描いても人生はなかなかその通りにはいかないので、偶然の出会いを大事にしていきたいですね。

    渡邉 淳 氏
    1992年4月 富士通株式会社に入社、配属は移動通信端末開発部(エンジニア職) 1995年5月 富士通株式会社を退職し、公認会計士資格試験勉強をスタート 1997年10月 公認会計士第二次試験に合格、青山監査法人(現 PwCあらた有限責任監査法人)に入社 2003年7月 監査法人から野村證券株式会社へ出向 引受審査部に配属され株式上場(IPO)審査業務等に従事(2年間) 2006年4月 株式会社ラルクに入社、IPOコンサルティング業務に従事 2008年5月 同社取締役就任(2011年8月より株式会社エランのIPOプロジェクトを支援) 2014年5月 株式会社エラン取締役CFOに就任(2014年11月 東証マザーズ上場、2015年11月 東証一部市場変更) 2018年3月 株式会社エラン取締役を退任、翌月に公認会計士渡邉淳事務所設立(現任) 2018年7月 ENECHANGE株式会社 社外取締役 2018年12月 株式会社H&Hホールディングス 社外取締役(現任) 2019年2月 株式会社ALiNKインターネット 社外監査役 2022年3月 アライドアーキテクツ株式会社 社外取締役(監査等委員)(現任)