IPOの成功要因
「入社した年にマザーズ上場を果たし、その1年後には東証一部に上場します。ここまで見事に計画通り進んだ理由を教えてください。」
ラルクでの支援開始が2011年8月、入社したのは2014年5月、マザーズ上場は2014年11月です。ほぼオンスケジュールで上場することができました。野村證券の公開引受の担当者が、私が知っている方でやりとりがスムースだったことも大きいと思います。IPOプロジェクトは、ゴールからの逆算思考でリソース配分やタスク管理をすることがカギになります。私は、プロジェクト発足時から関わっていたこともあり、それがうまくできたのだと思います。エランはもともとIPOを意識していた会社ではなかったので、簡単なプロジェクトではありませんでしたが、経営者の強烈なリーダーシップで、一丸となって進められた点も成功の要因となりました。自分の配下に優秀で信頼できるいいメンバーがいてくれたことも要因だと思います。
社長との関係性を深めた1on1
「社長との関係性についてのエピソードがあれば教えてください。」
IPO審査の中でいくつかのピンチがありました。櫻井さんに「頑張ってはいますが、もしかしたらIPOが遅れる、もしくはIPOできない可能性もあります」と報告したときのことです。「渡邉さんが全力を尽くしてダメならばそれでいいよ。今は上場する時ではないということ。任せるよ」と言ってくださったんです。責任の重さも感じましたが、自分を信頼して託してくれているという心意気に打たれ、気合いが入ったことを覚えています。櫻井さんは、天才的なリーダーだと思います。また、今でいう1on1のようなスタイルで、毎週月曜日の午前中1〜2時間、2人で話す時間を設定し本音で語り合いました。
私の前週の活動報告、今週の活動予定などを話してフィードバックをもらったり、社長に動いてほしいことを依頼したり、双方の認識している経営課題について議論をしたりしました。考えが合わないときは、お互いになぜそう考えるのかを聞き続けました。経験、スキル、仕事のスタイルが異なるので、相手のロジックを聞くのが楽しく、とてもよい学びの場になりました。徐々にお互いの思考アプローチがインストールされたように思います。櫻井さんからは、「ものすごい面倒くさい人だった」と冗談で言われることがありますが、すごくその時間を大切にしてくださっていました。
「相性が良かったのですね。」
エランにいる間に、さまざまなことを櫻井さんから教わりましたし、櫻井さんもすごいスピードで上場企業の経営者としてのスキルを身に着けていきました。おかしな表現かもしれませんが、まったく輝いていない石を大きな光り輝くダイヤに磨きあげるような役割ができたことを誇りに思います。櫻井さんはオープンなマインドで何でも議論ができて、組ませてもらうパートナーとして幸せだったと心から思っています。最近、友人の経営者やCFOと話をすると、経営者とCFOの関わり方の話題になります。どちらも相手に対する不満を持っていますが、よく話を聞くとたいていの場合はコミュニケーション量の不足が原因です。どちらも「思った通りに動いてくれない」「相手側に問題がある」と言いますが、理解し合おうという意識が弱すぎるのではないかと思います。
CFOに必要なスキル
「CFOとしてエランの4年間を人生の中でどう総括しますか。」
エランに在籍していたのは4年ですが、最後の1年はCFOから外れて別の部署を担当したので、CFOとしての在籍期間は3年間です。CFOという肩書きではありましたが、実質的には管理部門すべてに関して何でもやる管理部長だったと認識しています。
人事や総務、場合によっては、営業や現場の進め方についても口を出していました。IPOをゴールに設定にするCFOもいるようですが、私はそれではダメだと心に誓い続けて仕事をしていました。IPOをゴールにすると、短期的な問題にしか向き合わず、時間をかけてでも対応すべき中長期的な問題を先送りしたくなります。当時のエランにもそんな問題がありましたが、先送りせず真正面から対応していました。その例として挙げられるのが、人事制度の再構築です。あと数年なら当時の人事制度でなんとか運用できたとしても、その後に大問題になることがわかっていたので早々に再構築を図りました。
他にも黙っていれば短期的には大きな問題にならないことでも問題提起し続けました。振り返っても、あれが4年間だったのかと思うくらいに大変で濃密な期間でした。正直、精神的にも肉体的にも辛かったです。会社は、マザーズIPO、東証一部への市場変更を果たし、東証一部上場企業としてそれなりに落ち着いたといえる状況になり、自分の中での達成感を感じました。エランの中で働いたのは4年間ですが、コンサルとしてのその前の3年間もありますので、7年間関与したことになります。出会った当時はとても上場会社になるとは思えない会社でしたので凄い経験をさせてもらったと思います。「自分が抜けてもなんとかなる状況にはしました。かなり疲れたのでしばらくは休もうと思います。」と伝え、強く慰留され心苦しい面もありましたが退任させてもらいました。
「渡邉さんにとってCFOとはどんな存在ですか。また、CFOに一番必要なスキルは何でしょう。」
私は活躍したCFOではないので、CFOについて語る資格はないと思っています。長年CFO職を務めている方の足下にも及びません。その上で、CFOというよりは、管理部長としてそれなりにやってこられた理由は2つあると思います。
1つは、監査法人の監査、証券会社の上場審査、上場コンサルでの経験です。かなりの数の上場準備企業や上場企業に関わることができました。取締役会議事録や各種の経営管理資料を読み込むことも仕事でしたが、それが糧になったと思います。単純に上場するために何をすればよい、してはいけないというだけでなく、様々な経営課題やトラブルに対してどう対応するのかをずっと見てきましたから。「いずれこういう問題が起こるだろう」という予測もできますし、「こういう問題が起こったらこう解決する」という解決策もインストールされていました。もう1つはコミュニケーションです。私は、常にどうしたら周囲の方々にのびのびと気持ちよく仕事をしてもらえるかを考えて動いてきました。櫻井さんも好きなWin-Winの考えで仕事をしていかないとうまくいかないと考えています。トップや役員会のメンバーとのコミュニケーションも大切にして、私が動いてもうまくいかない場合は、社長に動いてもらうようにお願いすることもありました。