COLUMNコラム

#IPOの記事一覧

#IPO
石橋 善一郎 氏

【後編】FP&Aプロフェッショナルが目指したCFOへのキャリア。そして、その先に見えた自身の役割とは

日本トイザらスでの楽しさと苦しさ 「次も再生ファンドの投資先であるトイザらスに転職されます。なぜあえて大変な会社を選んだのですか。」 D&Mが東証一部に上場したときに、これから5年間ここで同じことをするべきだろうか、と考えました。そんな時、別のPEファンドから、「日本トイザらスって知っていますか? 2年連続赤字ですが、事業再生したいのでCFOとして入社しませんか」という電話があったのです。そこで、私の希望を伝えました。1つ目は、単なるCFOではなく、副社長として入ること、もう1つは、副社長CFOで成功できた暁には社長にしてもらえること。この2つに対して米国本社社長と面談をした際に了承を得たので、転職を決断しました。CFOがやるべきことはCEOの真のビジネスパートナーとして経営することです。でも、本当にしたかったのは、CEOとして経営することでした。ですから、CEOになれる可能性があるCFOのポジションに着きたいと思っていたのです。 「日本トイザらスではどのような経験をされましたか。」 日本トイザらスには、代表取締役副社長兼CFOとして入社し、CEOの信任を得て従来のCFOを超えた役割を担うことができました。店舗運営や店舗開発、サプライチェーンや物流やEコマースを担当しました。事業会社ならではの本当に楽しい経験でした。日本トイザらスは全国に160店ほどあるのですが、入社した3年間で全店舗を訪問しました。北海道や九州などへは、休みの日に自費で店舗を訪問し、店長さんと話をしました。また、日本にある2つの大きな物流センターでは、生産性を上げるためのプロジェクトの一員になって、繁忙期であるクリスマスの乗り越え方を考えたり、実際にクリスマスに応援として出荷作業に従事したりもしました。他にも、実店舗だけでは売り上げが下がっていくので、オンラインストアが必要だと考え、電子商取引のためのオンラインシステムの開発のプロジェクトのリーダーになって、ゼロから日本でシステムを開発しました。こういったことが、事業管理に携わることの本分だと思っています。 私のCFOのスタイルは、CFOとして事業部長のビジネスパートナーになることでした。事業部長は、店舗運営の専門家、物流業務の専門家、電子商取引の専門家です。彼らとチームになって、日本トイザらスのために新しいことをどうやっていくかを考える。それが私にとってはCFOの仕事であって、事業会社における仕事の1番楽しいことでした。 一方で、難しかったことは、CFOとしての守りの役割とビジネスパートナーとしての攻めの役割をどのように両立させるかということでした。例えば、店舗開発戦略や物流戦略やEC戦略を実行するための投資を行う際に、日本子会社の代表として米国本社に投資案を提案する立場にあったのと同時に、CFO組織の一員として投資案を審査する立場にありました。CFOは企業価値を守る責任を有している一方で、CEOのビジネスパートナーとして企業価値を成長させる責任を有しています。2つの役割を持っているわけです。 「CFOの場合、CEOとの関係で一番注意しなければならない点は何でしょう。」 CFOにとって、CEOは最も大事なビジネスパートナーです。CEOの成功は自分の成功につながります。しかし、一口にCEOといっても様々な人間がいます。仮に、CEOと衝突してクビになったとしても、転職できるようにプロフェッショナルとしての専門性を磨き続ける必要があると思います。日本トイザらスで10年間働き続けられたのは、CEOとの関係が良かったからです。カナダ人の女性で、人格・識見ともに立派なCEOでした。彼女と一緒に仕事をすることで小売業を1から10まで勉強させてもらうことができました。CEOとの信頼関係を築くために、2つのことを心がけました。 1つ目は、客観的な視点で事実を基に議論することです。CFOが得意なのは、数字から経営戦略についての話をすることです。物流、営業、サプライチェーン、業務部門などの部分で、数字で戦略実行のサポートするところは非常に大事だと思います。CEOにできないことをフォローすることが大切ですね。もう1つは、CEOとビジネスパートナーとして共通の目標を設定し、結果を出すことです。チームとしていかに目標を設定して、その目標に向かってPDCAサイクルを回すか。損益計算書の目標管理も大事ですが、それだけではありません。チームとして業務上オペレーションの目標も設定して、それを達成できるかどうかまで見る。例えば、人員計画もそうですし、各部門の配置人数、何カ月後にはどうなるかというところまで、全部CFOとしての視点が重要だと思います。この面でCFOを支援するのがFP&A組織なのです。 CFOの役割と魅力 「一言でCFOの役割を教えてください。」 CFOの役割は中長期的に企業価値を上げることです。企業価値は事業価値の総和です。事業価値とは、事業部が生み出すキャッシュフローの現在価値です。これは、企業財務では、本質的価値と呼ばれています。CFOが本当に目指すのは、事業部が生み出す事業価値の本質的価値を中長期的に最大化することです。株主価値とその市場価値の最大化ではありません。企業価値をどうやって上げるかがCFOの役割の根幹にあります。 「では、CFOの魅力はなんでしょうか。」 1つ目は、プロフェッショナル(Professional)として自分の経験や学習から蓄積した後天的な才能を活かすことができることです。私はCFOが日本企業におけるCFOのように、ある日突然、会社の都合でなるものだとは考えません。それは実務家(Practitioner)です。CFOはFP&Aプロフェッショナルがキャリアを通じて目指すものだと考えています。私はFP&Aプロフェッショナルとしてのキャリアの途中で、資格試験やMBA取得の過程で学び続けることの重要性を実感しました。CFOを目指すキャリアは、プロフェッショナルとして学び続けるキャリアなのです。 もう1つは、3つのC、CEO+CFO+CHROの一つである経営チームの一員であるということです。「人的資本経営」の伊藤邦雄先生のレポートには、CEO、CFOと並んで大事な3番目の役割がCHROだと示されています。他にもCがつく役職がありますが、CEOとCFOとCHROの3つのトライアングルが経営者チームの根幹です。CFOは経営者チームの一員であるということが、CFOの魅力だと思います。人的資本経営の本質は、3つのCのトライアングルで経営戦略と人材戦略を形成・実行することによって、中長期的に企業価値を成長させることです。株主価値とその市場価値の最大化を目的としてCFOが投資家と対話することは、人的資本経営の本質ではありません。
#IPO
渡邉 淳 氏

多様な経験から辿り着いた「誰かの役に立ちたい」という思い。学び続ける先に待つものとは?

ゼロからの会計士受験への挑戦 「高専卒業後、富士通に入社してエンジニアとしてのキャリアをスタートしていますが、その後、1回目のキャリアチェンジで公認会計士の勉強を始めます。これはなぜですか。」 正直にお答えすると、自分がエンジニアとしてまったく使い物にならなかったからです。典型的な大企業勤務のダメなサラリーマンでした。3年間で富士通を退職し、エンジニア職ではない仕事をしたいと思いましたが、世の中そんなに甘くありません。そこで、資格を取得してやり直そうと考えました。難関資格で、高専卒でも受験ができ、かつ興味が持てたのが公認会計士資格でした。書店で、資格の大辞典のような本を見つけ、そこに「難易度は高いが、給料もよくて会社の経営に物申すことができるすごい資格」といったことが書かれていて惹かれました。周囲に会計士はおらず、7科目中1科目も学んだことがない、本当にゼロからのスタートでしたが、チャレンジしてみようと思いました。 「受験勉強は辛くなかったですか?」 暗黒時代ですよね。最初の1年間は、毎日勉強しかしていませんでした。実は富士通に勤めている時から、妻と付き合っていて、受験勉強を始める時に妻の両親に「富士通を辞めて、公認会計士試験にチャレンジします。合格したらもう一度ご挨拶に来ます」と宣言していました。受からないといけない状態に追い込まれているので、1年で受かろうと本気で頑張りました。1年目は不合格で2年かけて合格しました。 「合格後は青山監査法人に入所されていますね。エンジニアから会計監査業務への戸惑いはありませんでしたか。監査法人では主にどのような仕事をしていましたか。」 私の場合、キャリアアップではなくて、ゼロからのやり直しでしたので、謙虚な気持ちで入っていくことができました。また、エンジニア職の経験はたった3年でしたので、戸惑いも一切ありませんでした。入社してすぐは、上場企業と外資系企業の財務諸表監査が多かったです。何年か経つと、監査に加えて、デューデリジェンス、上場支援、決算早期化プロジェクトなども担当するようになりました。 IPO審査を深く知るために証券会社の引受審査部に出向 「監査法人に在籍しながら野村證券の引受審査部に出向されますが、その理由を教えてください。また、引受審査部ではどのような仕事をしたのでしょうか。」 監査法人のイントラネット(社内掲示板)に、「野村證券に出向したい人を1名公募します」と掲載されていて、立候補しました。応募は7〜8名で、その中から選んでくださったと聞いています。それまで何年かIPO準備会社の支援をしていたのですが、上場するどころか上場に近いところまでも進まない会社が多かったのです。また、成功事例に携わった経験がない自分が指導をすることに不安や虚しさを感じていました。やるべきことを伝えられても、どのレベルまでやれば合格できるかを伝えることができなかったからです。証券会社の引受審査部は、まさに上場できるか否かを判断する部署です。そこで経験を積めば、自信をもって「ここまでやれば上場できます」と言えるようになるだろうなと。 また、IPOの最大手の野村證券という点も魅力に感じました。引受審査部での仕事は大きく分けて2つあります。1つはIPOと上場市場変更の審査です。これらは1年近い期間をかけて、じっくり会社全体の審査をします。もう1つはPOファイナンスといわれる上場企業の増資や社債の売出しなどについての審査です。こちらは2週間などの短期決戦です。どちらも数件を同時並行で担当します。2年間という短い期間でしたが、自分が担当した会社だけでなく、相当数のIPO審査の事例をみることができ非常に勉強になりました。かなり忙しかったのですが、期間が決まっていたこともあり、率先して出来るだけ多くの仕事を受けるようにしていました。 「IPO周りの何でも屋」IPOコンサルティング会社での経験 「2回目のキャリアチェンジで、監査法人を退所してIPOコンサルティングの会社ラルクに入社します。その理由を教えてください。」 証券会社から監査法人に戻って、1年で退職しています。恩もありますし、IPOについての力が磨かれた手応えもあり貢献できると考えていたので、しばらくは監査法人でIPO支援を行う予定でした。しかし、出向から戻る前くらいから監査法人の関与先でいくつかの会計不祥事が起きてしまい、IPO関連の仕事が一気になくなってしまったのです。そんな時にラルクの鈴木(博司)社長に出会います。ラルクは会計士、かつ、証券会社か証券取引所でIPO業務を経験している人しか採用しないという専門家集団でしたが、私もその条件に当てはまっていたこともあり、何度もお誘いをくださいました。当初は、「まだ監査法人でやることあるので」と断っていたのですが、鈴木さんに「IPOコンサルタントを始めるには若いほうがいいよ」と口説かれて、「確かに」と納得し転職することにしました。今、振り返ると、良いタイミングで転職できたと思います。 「IPOコンサルティング会社では、どういう業務を行いましたか。」 IPOコンサルの多くは、決算業務を支援する、開示書類を作成する、上場申請書類を作成する、内部監査をする、規程を作るなど、上場準備でやるべきことのうち特定の領域を支援している会社が多いようです。ラルクは、先ほどもお話ししましたがコンサルタントの質にこだわり、「IPOに向けては大概のことであれば解決の仕方を知っています」というスタンスでサポートしていました。IPOは、他がどんなにうまくいっていても、1つの項目で躓いていたら落とされるというトータルで判断される世界。ラルクは、上場できる可能性がそれなりにあるが、何かが引っかかって苦しんでいる急病人に緊急出動して対応するような仕事でした。なんとか審査に合格できるよう、足りないものを一緒に埋める職人です。 上場審査に向けての書類づくりや審査対応のサポートなどがメインですが、審査で問題になっていることについて経営者と議論することもあれば、管理系人材の採用なども。足りないパートへの対応を何でもやりました。管理系人材の採用に関しては、人材エージェントへの手配や求人票の作成、面接などもけっこうやりました。上場プロジェクトメンバーに退職者が出て、「良い人を採用してくださいね」とお願いしても、なかなかうまくいきません。それならば入り込んで採用までサポートしようと思い、やってみたらうまくいったのです。人材採用の難しさも理解できました。私は、手伝うことで、喜んでもらえる、成果が出ることであれば、辛い役回りでも引き受けるべきであると考えていました。 その一方で、支援先に対しては、ノウハウを全部差し上げて自立してもらうことを目標としていました。上場のための特有の作業であれば我々が行えばよいのですが、上場後も上場企業として続いていきますので、それ以外の会社としての機能は支援先自身に身につけてもらうというスタンスでした。こういった点もラルクの特徴かもしれませんね。 ラルクでの仕事は、監査法人での会計まわりの経験と証券会社でのIPO審査の経験を総動員して取り組むため難易度は高かったのですが、感謝していただけてやりがいを感じました。自身もこれが天職だと感じた瞬間がありましたし、妻からも「IPOコンサルの仕事が1番向いてるように見えてたよ」と言われたことがあります。