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石橋 善一郎 氏

【後編】FP&Aプロフェッショナルが目指したCFOへのキャリア。そして、その先に見えた自身の役割とは

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石橋 善一郎 氏
1982年富士通入社。
1990年コーポレイト・ディレクション入社。
1991年インテル日本法人FP&Aマネジャー。
1994年インテル日本法人経理マネジャー。
1997年インテル日本法人コントローラー(FP&A・FP&A統括)。
2000年インテル製品事業部コントローラー。
2002年インテル日本法人CFO(FP&A・経理・財務統括)。
2005年ディーアンドエムホールディングスCFO。
2007年から2016年まで日本トイザらス代表取締役副社長兼CFO。
現在、米国管理会計士協会(IMA) 日本支部 Presidentおよび日本CFO協会 FP&Aプログラム運営委員会 委員長。
LEC会計大学院 特任教授および千葉商科大学会計大学院・中央大学大学院戦略経営研究科・東京医科歯科大学 客員教授。
株式会社常陽銀行 社外取締役(監査等委員)。
※インタビュアー/バリューアップパートナー株式会社 代表取締役 大塚寿昭
INDEX

    日本トイザらスでの楽しさと苦しさ

    「次も再生ファンドの投資先であるトイザらスに転職されます。なぜあえて大変な会社を選んだのですか。」

    D&Mが東証一部に上場したときに、これから5年間ここで同じことをするべきだろうか、と考えました。
    そんな時、別のPEファンドから、「日本トイザらスって知っていますか? 2年連続赤字ですが、事業再生したいのでCFOとして入社しませんか」という電話があったのです。そこで、私の希望を伝えました。1つ目は、単なるCFOではなく、副社長として入ること、もう1つは、副社長CFOで成功できた暁には社長にしてもらえること。この2つに対して米国本社社長と面談をした際に了承を得たので、転職を決断しました。CFOがやるべきことはCEOの真のビジネスパートナーとして経営することです。でも、本当にしたかったのは、CEOとして経営することでした。ですから、CEOになれる可能性があるCFOのポジションに着きたいと思っていたのです。

    日本トイザらスではどのような経験をされましたか。

    日本トイザらスには、代表取締役副社長兼CFOとして入社し、CEOの信任を得て従来のCFOを超えた役割を担うことができました。店舗運営や店舗開発、サプライチェーンや物流やEコマースを担当しました。事業会社ならではの本当に楽しい経験でした。日本トイザらスは全国に160店ほどあるのですが、入社した3年間で全店舗を訪問しました。北海道や九州などへは、休みの日に自費で店舗を訪問し、店長さんと話をしました。また、日本にある2つの大きな物流センターでは、生産性を上げるためのプロジェクトの一員になって、繁忙期であるクリスマスの乗り越え方を考えたり、実際にクリスマスに応援として出荷作業に従事したりもしました。他にも、実店舗だけでは売り上げが下がっていくので、オンラインストアが必要だと考え、電子商取引のためのオンラインシステムの開発のプロジェクトのリーダーになって、ゼロから日本でシステムを開発しました。こういったことが、事業管理に携わることの本分だと思っています。

    私のCFOのスタイルは、CFOとして事業部長のビジネスパートナーになることでした。事業部長は、店舗運営の専門家、物流業務の専門家、電子商取引の専門家です。彼らとチームになって、日本トイザらスのために新しいことをどうやっていくかを考える。それが私にとってはCFOの仕事であって、事業会社における仕事の1番楽しいことでした。 一方で、難しかったことは、CFOとしての守りの役割とビジネスパートナーとしての攻めの役割をどのように両立させるかということでした。例えば、店舗開発戦略や物流戦略やEC戦略を実行するための投資を行う際に、日本子会社の代表として米国本社に投資案を提案する立場にあったのと同時に、CFO組織の一員として投資案を審査する立場にありました。CFOは企業価値を守る責任を有している一方で、CEOのビジネスパートナーとして企業価値を成長させる責任を有しています。2つの役割を持っているわけです。

    「CFOの場合、CEOとの関係で一番注意しなければならない点は何でしょう。」

    CFOにとって、CEOは最も大事なビジネスパートナーです。CEOの成功は自分の成功につながります。しかし、一口にCEOといっても様々な人間がいます。仮に、CEOと衝突してクビになったとしても、転職できるようにプロフェッショナルとしての専門性を磨き続ける必要があると思います。日本トイザらスで10年間働き続けられたのは、CEOとの関係が良かったからです。カナダ人の女性で、人格・識見ともに立派なCEOでした。彼女と一緒に仕事をすることで小売業を1から10まで勉強させてもらうことができました。CEOとの信頼関係を築くために、2つのことを心がけました。

    1つ目は、客観的な視点で事実を基に議論することです。CFOが得意なのは、数字から経営戦略についての話をすることです。物流、営業、サプライチェーン、業務部門などの部分で、数字で戦略実行のサポートするところは非常に大事だと思います。CEOにできないことをフォローすることが大切ですね。もう1つは、CEOとビジネスパートナーとして共通の目標を設定し、結果を出すことです。チームとしていかに目標を設定して、その目標に向かってPDCAサイクルを回すか。損益計算書の目標管理も大事ですが、それだけではありません。チームとして業務上オペレーションの目標も設定して、それを達成できるかどうかまで見る。例えば、人員計画もそうですし、各部門の配置人数、何カ月後にはどうなるかというところまで、全部CFOとしての視点が重要だと思います。この面でCFOを支援するのがFP&A組織なのです。

    CFOの役割と魅力

    「一言でCFOの役割を教えてください。」

    CFOの役割は中長期的に企業価値を上げることです。企業価値は事業価値の総和です。事業価値とは、事業部が生み出すキャッシュフローの現在価値です。これは、企業財務では、本質的価値と呼ばれています。CFOが本当に目指すのは、事業部が生み出す事業価値の本質的価値を中長期的に最大化することです。株主価値とその市場価値の最大化ではありません。
    企業価値をどうやって上げるかがCFOの役割の根幹にあります。

    「では、CFOの魅力はなんでしょうか。」

    1つ目は、プロフェッショナル(Professional)として自分の経験や学習から蓄積した後天的な才能を活かすことができることです。私はCFOが日本企業におけるCFOのように、ある日突然、会社の都合でなるものだとは考えません。それは実務家(Practitioner)です。CFOはFP&Aプロフェッショナルがキャリアを通じて目指すものだと考えています。私はFP&Aプロフェッショナルとしてのキャリアの途中で、資格試験やMBA取得の過程で学び続けることの重要性を実感しました。CFOを目指すキャリアは、プロフェッショナルとして学び続けるキャリアなのです。

    もう1つは、3つのC、CEO+CFO+CHROの一つである経営チームの一員であるということです。「人的資本経営」の伊藤邦雄先生のレポートには、CEO、CFOと並んで大事な3番目の役割がCHROだと示されています。他にもCがつく役職がありますが、CEOとCFOとCHROの3つのトライアングルが経営者チームの根幹です。CFOは経営者チームの一員であるということが、CFOの魅力だと思います。人的資本経営の本質は、3つのCのトライアングルで経営戦略と人材戦略を形成・実行することによって、中長期的に企業価値を成長させることです。株主価値とその市場価値の最大化を目的としてCFOが投資家と対話することは、人的資本経営の本質ではありません。

    石橋 善一郎 氏
    1982年富士通入社。 1990年コーポレイト・ディレクション入社。 1991年インテル日本法人FP&Aマネジャー。 1994年インテル日本法人経理マネジャー。 1997年インテル日本法人コントローラー(FP&A・FP&A統括)。 2000年インテル製品事業部コントローラー。 2002年インテル日本法人CFO(FP&A・経理・財務統括)。 2005年ディーアンドエムホールディングスCFO。 2007年から2016年まで日本トイザらス代表取締役副社長兼CFO。 現在、米国管理会計士協会(IMA) 日本支部 Presidentおよび日本CFO協会 FP&Aプログラム運営委員会 委員長。 LEC会計大学院 特任教授および千葉商科大学会計大学院・中央大学大学院戦略経営研究科・東京医科歯科大学 客員教授。 株式会社常陽銀行 社外取締役(監査等委員)。