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DIMENSION株式会社/代表取締役社長 宮宗 孝光 氏

CFOは将来の計画を数値に落とす力を持つ重責者。信頼とロイヤリティでCEOを支える

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※インタビュアー/バリューアップパートナー株式会社 代表取締役 大塚 寿昭
INDEX

    CFOに対する期待

    「CFOの重要性についてどのように考えていますか。また、投資家の立場からベンチャーのCFOにはどのような役割を期待しますか。」

    現状の日本のマーケットを考えると、IPOが私たちの回収のポイントになります。IPOに向けて、CFOは大番頭としてコミュニケーションの中心を担ってもらわないといけません。CFOがいないと上場できないといっても過言ではないくらいの重責だと思います。

    また上場のプロセスにおいて、付き合う相手や仕事内容が変わっていきます。
    最初は、アイディアや勢いで突き進めることができたとしても、次第にさまざまな利害関係者が増えていきます。監査法人、証券会社、株主、社内のメンバー、取引先、業務委託先などの利害関係者にどうやって力を貸してもらうかが仕事になっていく。社長の役割とそう変わりません。加えて、数値面を見る必要もあります。会社の血液であるキャッシュをどのようにもたらすかを考える中心人物です。実質的なコントローラーでもあり、リーダーでもある、難しい仕事だと思います。

    「投資家から見て、CFOに重要なハードスキルはどのようなことでしょうか。」

    上場のステージでは、高い水準の予算を作らなければなりませんので、将来的な計画を数値に落とす力が求められます。「この事業が、こういう理由で、こう成長していく」ということを数値化できなければなりません。さらに、それを実現するための資金を調達する必要があります。

    上場するときはロードショーという機関投資家向けの説明会を複数回開催し、会社の魅力を伝えていく必要があります。都度、相手が求めていることは異なるので、コミュニケーションの内容も変えていかなくてはなりません。コミュニケーションやプレゼンテーションスキルもハードスキルになるでしょう。

    「求められるソフトスキルについてもお聞かせください。」

    最終的には信頼される力だと思います。「この人は、大風呂敷を広げているのではなく、きちんと具現化してくれるだろう」と思ってもらえること。ただ、あまりにコンサバに見すぎると魅力的な会社には見えないので、大きな目標を掲げながら、具現化してくれそうだろうと思ってもらわなければいけません。
    言っていることと行なっていることが違って幻滅されると、付き合ってもらえなくなります。何を言っても信頼してもらえない。
    振る舞いも大事ですし、盛りすぎない、保守的になりすぎないというバランスも重要です。

    「これまで関わってきたCFOの中で、特に印象に残っている方がいたら、その方のキャリアやキャラクター、エピソードを教えてください。」

    前職の出資先の外資金融機関ご出身のCFOの方がとても印象に残っています。
    そのスタートアップはある理由で上場を延期することになってしまったのですが、その時も非常に冷静でいらっしゃり、時には社長の代理となり代替案をあげられていました。翌年にその会社は無事上場をすることとなったのですが、会社が厳しい状況の時でも逃げずに淡々と仕事をやり遂げられている姿を見て、とても感心させられたことを覚えています。

    CFOには資金調達の責任がある

    「一方で、活躍できないベンチャーCFOに共通することはありますか。」

    スタートアップでも多いパターンで言うと、資金調達をした後に退職する人です。
    会社のブランド、社長の実績、事業の魅力などももちろんありますが、CFOとしての自分に期待・信頼いただいて出資をしているので、何があってもやりきることが大切だと考えます。たとえ、上場延期になっても、解散になったり、どこかの会社に安価で買われたりしても、最後までやりきるのが仕事ですよね。しかし、現実としてはわりと辞める方も一定いらっしゃいます。どうしても辞めざるを得ない事情があるならば仕方がないと思いますが、そうでないならば、無責任にも感じてしまいます。

    「最近、投資銀行出身者がベンチャーのCFOへ転職することが増えました。彼らにはどのようなことを期待しますか。また、どんなキャラクターの人が活躍していますか。」

    色々な方の力を引き出せる人であることが重要だと思います。
    プライドが高かったり、高圧的なコミュニケーションとってしまったりすると、スタートアップとはなかなかマッチしません。スタートアップは、思いはあれどスキルや筋力がまだ成熟していない会社が多いので、相手の力を引き出せるコミュニケーションができる人が活躍できると思います。

    CEOとの関係で大切なCFOの忠誠心

    「CFOはCEOのビジネスパートナーだと思いますが、CEOからみてCFOに期待する行動や言動はどのようなことだと思いますか。」

    最も大きな期待は、自分の発想にない、会社に必要なことを提案し、実装できることです。CEOはファイナンス系が苦手な人が多いのでそこを補えると良いですね。また、必要な資金を集めきることができる人であることも重要です。さらに、メンバーから支持されて、可愛げもあればなお良しです。

    「CFOはCEOのビジネスパートナーだとすれば、CFOはCEOをどうサポートすべきだと考えますか。」

    CFOに限らず、経営幹部の方に重要なのはロイヤリティです。スキルがどんなにあっても、自分本位な人はわかるものです。そのような方がCFOだとCEOは怖くなってしまい、任せることはできなくなってしまうので、異常なほどにロイヤリティがある方だと安心できると思います。そして、CEOの独自のビジョンの実現に徹することができる人は、その方自身も独自のビジョンを持っており、代替わりしても社長を担える方がほとんどです。

    最近では大企業で、CFO経験者が社長になることや、財務部門が経営企画を担うケースが増えていますが、それもわかる気がします。CFOはファイナンスもIRも網羅的に見られないといけませんし、多くのステークホルダーとの複雑なコミュニケーションが求められるものだからです。例えばラクスルもそうした特徴がある会社ですよね。

    今後の展望

    「宮宗さんのこれからの目標や挑戦について教えてください。」

    日本からグローバルに展開するような大型事業の創出に貢献したいです。
    ここ10〜15年で、インターネット、SNS上でのインフラ事業はあっても、誰もが知っている真のインフラ事業の誕生にはつながっていないと思います。
    例えば、スウェーデンのSpotifyという音楽分野のスタートアップは、スウェーデンのVCが出資した後、アメリカのシリコンバレー系の大型VCが出資し、アメリカで上場してグローバル化していきました。Spotifyのように日本のスタートアップが日本のエコシステムの中で大きくなって、グローバルで受け入れられていく。そんな企業が1社でも2社でも現れることに貢献したいです。

    また、個々人で高い成果をあげることはもちろんですが、そのうえでチームで成果を出すことを私は大切にしたいと思っています。同じ意志を持つチームは予想以上のパフォーマンスを発揮することができると信じているので、個々が特徴を持ち、誰かが傷ついていたら手を差し伸べられるチームでありたいですね。

    また「不義理を働かない」という価値観を大切にしています。短期で収益を上げることと、不義理を働かず長期的に信頼されることは、一見対極のように思えるかもしれません。しかし、私はこの二者は両立すると思っています。今年の4月にファンドの出資者、出資先の方達を集めたイベントを開催し、ご縁についてお話しました。その会場は私が2006年に出資・支援したスタートアップの経営チームの方が支配人になられたホテルで、18年経った今でも懇意にさせていただいており今回利用させていただきました。ともに真剣に仕事をしたそのご縁がつながったということだと考えています。

    ご縁や信頼を大切に、チームで良い仕事をして、大きな事業を生み出していく。このことに、私の残りの仕事人生の時間を使っていきたいと考えています。

    DIMENSION株式会社
    代表取締役社長 宮宗 孝光 氏
    東京工業大学・大学院を卒業後(飛び級)、シャープ株式会社を経て、2002年からDIにて20年間、大企業とスタートアップの戦略策定、幹部採用、M&A、提携、出資・上場支援に従事。2019年DIMENSIONファンドを立ち上げ、2021年MBO・独立。2022年、産業革新投資機構・海外機関投資家・11名の上場創業社長などがLP出資する101.5億円のDIMENSION2号ファンドを設立。支援先のトライズ株式会社の社外取締役、日本スタートアップ支援協会の顧問を兼任。