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投資家インタビュー
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DIMENSION株式会社/代表取締役社長 宮宗 孝光 氏

CFOは将来の計画を数値に落とす力を持つ重責者。信頼とロイヤリティでCEOを支える

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※インタビュアー/バリューアップパートナー株式会社 代表取締役 大塚 寿昭
INDEX

    成長企業の共通点は経営者の独自のビジョン

    「多くの経営者と対話・支援してきた経験から成長している企業の経営者の共通項を教えてください。」

    伸びている企業に共通していることは、経営者個人の経験から捻り出された独自のビジョンを持っているという点です。
    一方で、業績や組織力が伸び悩む企業は、社長になることが目的の人が社長になってしまったケースが多い印象です。そうすると、どうしても業務においても既存の取り組みの延長ばかりになってしまいます。本来ならば、お客様にどういった価値を提供するのか、上場企業ならばどう株主に還元していくかなどの考えを持つべきですが、そうではなくて、任期中に問題なく過ごすということを重視してしまうのです。

    「組織における社長の主な役割はビジョンを示すことなのですね。」

    自分の本心から叶えたい独自のビジョンを語ること、それを具現化していくことですね。
    社長が心から叶えたいと思っているのかどうかは必ず伝わります。本当に思っていなければ、社長が「右に行こう」と言っても、半年後には、右に進んでいない状態が生まれます。また社長自身がぶれてしまうこともあるでしょう。私もスティーブ・ジョブズの「Change the World」という言葉だけならいくらでも言うことができますが、それを具現化することは難しい。
    また、本当にやりたいことがある方はご自身オリジナルの言い回しをするとも思っています。私が「独自の」という言葉を使うのは、そういう意味も込めています。

    DIMENSION立ち上げとMBO

    「5年程前に、CVC(DIMENSION)を立ち上げます。その目的を教えてください。」

    2019年10月にドリームインキュベータの100%子会社として、DIMENSIONを設立し、1号ファンドを組成しました。
    当時のドリームインキュベータは、他社を買収したり、100%子会社を作って新規事業を立ち上げたり、経営資源を投入して成長事業を作ろうとしていました。また、スタートアップ環境も大きく変化しており、2012年の資金調達額は600〜700億円ほどでしたが、現在は8000〜9000億円と上昇していました。そこで、社外からも出資者を募ってファンドにすることで、大きな金額を投資できるようにした方が良いのではないかと考え、私が取締役会で起案して自分で担当することになりました。

    「その後、ファンドごとMBOで独立されましたが、どのような思いや決意があったのでしょう。」

    会社の経営陣が変わり、方針が変わったからです。
    DIMENSIONファンドを立ち上げた後、2020年6月の株主総会で、創業者の堀さんと2代目の社長が退任しました。次の世代として3人の取締役が選ばれ、今後はコンサルティングをメインに事業を組み立てたいということになりました。そこで、上場している子会社やDIMENSIONファンドも切り離していく方針になったので、2021年9月末にMBOをしたという経緯です。

    「一国一城の主になって新しい事業をスタートする際に不安はありましたか。」

    全くありませんでした。ただ、1号ファンドの出資者の方には、ドリームインキュベータの傘下ではなくなることについて、時間をかけて丁寧にご説明しました。そもそもの条件が変わるので、ご納得いただけるようにコミュニケーションを重ねていきました。

    DIMENSIONの特徴

    「DIMENSIONはどのような領域・ステージのベンチャー企業に投資をするファンド運営会社ですか。また、これまでの投資実績を教えてください。」

    元々はインキュベーション会社ですから、その思いは大切にしたいと考えています。ドリームインキュベータは、先輩方の努力もあり、真面目に出資・支援している会社だと知ってもらっていたのでその価値をそのまま継承していきたいとも考えています。前職では、148社への出資のうち28社がIPOをしており、当時のIPO環境から考えるとすごいことだと思います。DIMENSIONでもしっかりと向き合える会社に絞って出資し、丁寧に支援していきたいですね。

    もう一つ、シード・アーリーかレイターのみに出資を行い、ミドルには出資しないという点も特徴です。シード・アーリーは、経営資源や他の支援もまだそこまで多くないため、我々の支援が価値を発揮できることが多いです。ミドルについては、シード・アーリーで出資した応援者がいらっしゃるので、その方達に引き続き支援をしていっていただきたいと考えているため、出資を行いません。レイターについては、我々は前職の経験を基にした大企業とのネットワークがあるので、上場後に事業連携をするなど、また異なる付加価値を提供できると認識しています。
    事業分野でいうと、バイオ系だけは事業内容的に理解が難しいので、出資対象外としています。前職ではバイオ系にも出資して何社が上場していますし、資金ニーズがあることもわかっているのですが、現状出資は行っていません。

    「5年間、DIMENSIONを運営してきた実績を教えてください。」

    1号ファンドは、24社に出資して、2024年5月末時点で3社上場しています。うち1社は初値1,070億円で上場したカバーという会社です。業界的にいうといわゆるホームランディールになります。今後さらに上場する会社が出て、1号ファンドは出資先の4割が上場を達成できると予想しています。
    2号ファンドは、2022年に101.5億円でファンドを組成しており、新規に出資・支援を進めています。20社以上に出資し、早速IPOが近い会社も何社かあります。

    投資方針は「真摯に経営に向き合う」チームかどうか

    「投資方針を教えてください。」

    上記の領域、ステージというところ以外ですと、「真摯に経営に向き合っている」経営者・経営チームへ出資を行いたいと考えています。私たちは、将来の日本をリードする起業家や社会的に意義のある事業の育成を行いたいと考えているため、市場規模・マーケットの大きさももちろんのことですが、独自のビジョンを持ち成長を止めない起業家や経営チームかどうかというところはとても重要になってきます。

    また、コミュニケーションの相性が合うかどうかも非常に大切です。
    僕らはファンドなので、いつかはお戻ししなければならないお金を預かっています。いずれは持っている株式を売却しなくてはなりませんが、それを是としない起業家の方には出資できません。また、ファンドの出資者から一定のリターンも求められているので、「上場時はこの金額になると予想するので、この倍率のところで出資したい」というように私たちが想定する倍率感と、出資先が想定する倍率感にズレがあっても出資はできません。
    また、私たちにも得意なこととそうでないことがありますので、最初にお伝えした上で、合う・合わないを判断していただいています。

    「あるVCの方が、「最後は好きか嫌いかだ」とおっしゃっていました。」

    わかります。言葉が強いですが、結局はその会社と心中できるかどうかだと思います。残念ながら100社中100社が上場するということはなく、いくつかは難しい判断を迫られるシーンがあります。そんな時でも私たちは寄り添っていたいと思っています。

    それには、的確なコミュニケーションが双方で取れることが重要になります。コミュニケーションに会社やトップの質感が現れますから。出資する時だけでなく、その後のコミュニケーションも継続的に確認しています。例えば、「1年後にこういった状態であれば追加出資します」と伝えていたとして、それを満たせなかったときに乱暴なコミュニケーション取ってしまう会社とのその後の付き合いは難しいですよね。もっというと、そういった点が、会社が成長しない要因の1つにもなりうると考えています。

    「スタートアップのCEOの見極め方がありましたら、ぜひ教えてください。」

    仕事をしている中で、内面が表れてくると考えています。例えば、メンバーへの接し方や言葉の使い方、メンバーが問題ある振る舞いをしたときにどう応対するかなど。私は、前職がある方の場合には、前職で一緒に仕事をした方に話を聞くようにしています。一緒に仕事をしたことがある方の話は参考になることが多いです。ただ、完璧な方はいないですし、進化する方もいるので、難しいところですよね。
    DIMENSIONの場合も、ファンドの出資者の方には私自身の仕事ぶりなどを前職の社長に聞いてもらい、出資を決めていただきました。

    DIMENSION株式会社
    代表取締役社長 宮宗 孝光 氏
    東京工業大学・大学院を卒業後(飛び級)、シャープ株式会社を経て、2002年からDIにて20年間、大企業とスタートアップの戦略策定、幹部採用、M&A、提携、出資・上場支援に従事。2019年DIMENSIONファンドを立ち上げ、2021年MBO・独立。2022年、産業革新投資機構・海外機関投資家・11名の上場創業社長などがLP出資する101.5億円のDIMENSION2号ファンドを設立。支援先のトライズ株式会社の社外取締役、日本スタートアップ支援協会の顧問を兼任。