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ロジスティード株式会社/常務執行役員 CFO 財務戦略本部長 本田 仁志 氏

東芝での15年間や大企業2社でのCFO経験を経てたどり着いたキャッシュフローを軸にした本質的な経営の重要性

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※インタビュアー/バリューアップパートナー株式会社 代表取締役 大塚 寿昭
INDEX

    CEOや部下との距離感

    「ご自身の経験から、CFOはCEOとどのような関係性を築いていくとよいとお考えですか。」

    これは常に試行錯誤しています。正解はありませんし、私がパーフェクトにできているかというと決してそうではないと思います。オーナー企業では、自分の考えを持たず、何かあるとすぐにオーナーの意見を聞きに行くタイプの人が意外に多いのです。

    オーナー企業においては、イエスマンだと存在価値がなくなっていきますが、オーナーに対して言い過ぎると疎まれるので、バランスが重要ですね。例えば、経営判断をする際に、私が良いと思っている選択肢だけをオーナーに提示するのではなく、あえて別の選択肢を入れて選んでもらうようにしていました。私の案だけを提示していたら、私が決めたことになってしまいますので、プロコンで情報を整理した上で、「整理するとこうなりました。どちらにしましょうか」と提示して、オーナーに決めてもらうのです。また経営判断の選択肢を作る際に、部下に入ってもらうと、部下の育成にも役立つと思います。

    ただ、そのようにオーナーとのやり取りに注力しすぎると、今度は自分の部下との間に距離ができてしまう危険性が出てくる。「あの人はオーナーのいうことしか聞かない」という見られ方をされてしまうのです。ですから、部下には「オーナーがこう言っているから、こうやってくれ」と伝書鳩のような指示は出さないようにしていました。「オーナーがこう言っていて、こういうことが目的だから、こう変える必要があるので、やってください」というように、理由や背景など行間を埋めるコミュニケーションを重視しました。

    「そういう意味では、部下に対しても気を遣っていたのですね。」

    中途で入社しているので、そこはずっと気を遣っています。
    部下には、今後必要になってくるTreasuryやFP&Aの部分は意識してほしいと思っています。キャッシュフロー管理強化の観点から、弊社の財務モデルを作りましたが、まずは実際に私がExcelで作成してから、展開しています取り組んだことがない人には手取り足取り教える。キャッシュマネジメントも同じで、やってみせることがすごく大事だと思います。
    また、全ての基礎となる会計領域のスキル強化も意識してほしいと考えています。税務も非常に大切です。テクノロジーに対しても貪欲であってほしいですね。

    「上場大企業のCFOとして大切にしていた行動基準や判断基準があったら教えてください。」

    私の名前は「仁」に「志」と書きます。名前の通りに、まずは「志」を大事にしたいと思っています。具体的には、キャッシュにこだわること。結果として会社の価値を高めていき、皆さんがハッピーになる。そこはぶれずにやってきたつもりです。
    もう一つは「仁」です。仁義の仁ですね。志を突き詰めてしまうと数字だけの人間になってしまうので、人に対するリスペクトや慈しみも大事にしたいと考えています。この名前を付けてくれた親に感謝しています。

    また人に対するリスペクトや慈しみが真の意味でのダイバーシティにつながると考えています。リスペクトがあるから異文化を受け入れることができるのです。「マイノリティの考え方や行動様式を理解して、受け入れるのか」、「マイノリティに会社の既存の文化に合わせることを強制するのか」ということは、終身雇用制度が崩壊しつつある中、これからの日本企業の人的資本を考えるにあたって、重要なテーマだと思いますね。

    そして、嘘はつかないということも大切にしています。“スーパー正直”に取り組む。これは、不適切会計を起こしてしまった東芝を見てきて強く感じていることです。ピュアだと思っていた諸先輩方が、上が変わって流されて、嘘をつかざるを得なくなってしまった。一度嘘をつくとずっとつき続けなくてはなりません。だから、最初から絶対に嘘はつかないと心に決めています。
    嘘をつかなくともいいよう、自分のスキルを磨き続け、いざという時のセーフティネットを自ら用意できるようにしておくことも大切でしょう。

    CFOに求められるキャッシュを軸に考えること

    「上場大企業のCFOとして重要な役割を教えてください。」

    キャッシュマネジメントが重要な役割だと思っています。P/Lを語るだけのCFOを求めるのであれば私は不要ではないかと思っています。P/Lを語るのはCEOの役割でもよいからです。私は、会社の様々なファンクションについて、キャッシュを軸に考えるのがCFOの役割だと考えています。
    具体的には、現在のキャッシュをおさえて、コントロールしていくこと。そして、先々のキャッシュがどうなっていくかを予測すること。リターンがどうかを考えていくにあたっては、FP&Aのスキルも絶対に必要です。FP&Aのスキルがなければ、投資家の意図を汲み取った、本質的な会話もできません。

    「会計のスキルも必要でしょうか。」

    FP&Aについて考えるときに、会計が分かっていないとリアルな財務モデルが組めません。また、会計知識がないと投資家とのコミュニケーションも十分にできないはずです。会計基準は複雑になる一方ですが、リース会計やのれん、退職給付会計、税効果会計などについて、きちんと理解して、モデルに落とし込んでいく必要があります。ともすると会計を軽視するような空気もあるかもしれませんが、それは間違っています。全てのベースとして会計は必要で、その上にTreasuryやFP&Aが乗る。そういう意味で、経営企画だけでFP&Aに取り組んでいる会社はうまくいかないのではないかと思います。投資銀行が作るのと同じ精度・粒度レベルの財務モデルを回すだけでは、事業会社のファイナンス部門の存在意義が問われます。実際には自社内で財務モデルを回せていない会社も多いようですが。

    「上場会社ではIRは重要な業務ですが、具体的にはどんな活動をしていましたか。また、IRに必要なスキルや心構えも教えてください。」

    私はトランスコスモスで、投資家のロードショーや投資家を回るようなIR活動を初めて担いました。トランスコスモスでは、アクティビストに文句を言われたトラウマや、業績見通しを外した時に強く社外から指摘されたトラウマによって、投資家とのコミュニケーションへの忌避感もありました。

    IR活動では、マーケットの状況、個々の事業戦略、個々の事業を束ねたグループ全体の経営戦略とそれらを踏まえた財務モデルに基づく計数計画を中心にコミュケーションをとり、株価も順調に上昇しました。
    Debt IRでは、それらに加え、繰越欠損金の活用でどうキャッシュフローを改善していくのか、格付けをどう上げていくのかといった話をしていました。その結果、格上げにも成功しました。

    「業務における失敗にどう対処しましたか。その時の気持ちも教えてください。」

    あんまり失敗を失敗と思わないようにしています。あえて言うと最大の失敗は、アーバンコーポレイションに転職してしまったことでしょうか。しかし、今となってはあれもいい経験でしたし、半年で見切りをつけた自分の判断を褒めてあげたいとも思っています。渦中にいるときは、悩むものです。しかし、私は失敗を恐れて踏み出さないよりは、思い切ってやってしまった方がいいのではないかと思うタイプなのです。失敗もリカバリーできますからね。「自分には無理」と思った瞬間に、成長は止まってしまうと思います。

    「CFO職の魅力を教えてください。」

    CFOは、会社の中で視点を置くところが他と違う職種だと思っています。CFOのFはファイナンスです。ファイナンスなので、金回りの部分に軸を置く唯一のポジションです。なぜそういうポジションがあるのかを考えると魅力がわかりますよね。例えば、キャッシュを各部門で管理してしまったら、それぞれが「このキャッシュは俺のものだ」「いや私のものだ」となって、全体最適ができません。「企業価値に直結するキャッシュをきちんと管理していく」というCFOの仕事は、非常に魅力的だと思います。責任もプレッシャーも大きいですけれどね。

    「最後に、これからやりたいこと、または夢があればお聞かせください。」

    社内でも社外に対しても、あらためてキャッシュの重要性を伝えていきたいと思っています。
    誤解を恐れずに言えば、P/Lをどう見せるかは、キャッシュから見たらどうでもいい話なのです。

    キャッシュをどう回すか、キャッシュをどう最大化するかにフォーカスを当てる。そういう会計基準でもいいのでないでしょうか。私は行き過ぎた発生主義や公正価値主義が会計を歪めてしまったのではないかと思っています。本質的には、キャッシュが回っているかどうかだけでよいはずで、それを投資家が判断すれば、すごくスマートです。そちらの方向に進んだ方が、日本も世界も健全なのではないかと考えています。

    東芝の不適切会計でもP/Lを調整していますが、キャッシュだけを追いかけていけば変調を把握できることです。そうしたことに気付かなかった日本も成熟していないと思います。
    企業経営の本質は何なのかというところに立ち戻って、そこにフォーカスをする。これにより日本を再興し、日本を強くしていくために何かできないか、そのような未来を構想しています。

    ロジスティード株式会社
    常務執行役員 CFO 財務戦略本部長 本田 仁志 氏
    1967年、東京都生まれ。 早稲田大学政治経済学部卒業後、東芝に入社。約15年間の在籍中、一貫して経理および財務領域を担当。生産の最前線現場である工場の原価担当から、全社規模の投融資管理、資金戦略策定などを経験した後、グループおよび個別事業の中期計画・予算策定等々で中心的役割を担った。 その後、不動産流動化事業で急成長中であったアーバンコーポレイションを経て、2005年にファーストリテイリングに入社。グループCFOに次ぐ立場のマネージメントメンバーとして、経営計画策定や海外グループ会社の経営管理等を担った。 2008年8月、グループ拡大を進行中であったトランスコスモスに経営企画部長として入社。その後、CFOに就任し、経営管理、経理、財務、法務、総務システム部門など幅広い部門と領域を統括した。 2019年4月より株式会社日立物流(2023年4月1日、ロジスティード株式会社に社名変更)執行役 財務戦略本部 副本部長 2023年4月常務執行役員 CFO 財務戦略本部長に就任し現在に至る。
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