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ロジスティード株式会社/常務執行役員 CFO 財務戦略本部長 本田 仁志 氏

東芝での15年間や大企業2社でのCFO経験を経てたどり着いたキャッシュフローを軸にした本質的な経営の重要性

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※インタビュアー/バリューアップパートナー株式会社 代表取締役 大塚 寿昭
INDEX

    急成長の不動産業界への転職

    「CFOになることはいつ頃から意識していたのでしょうか。また、東芝を15年で卒業して、全く異なる不動産業界のアーバンコーポレイション(2008年に倒産)に転職した理由も教えてください。」

    東芝を退職する頃には、CFOに関心を持っていました。
    転職の理由の1つ目は、「自分の力を試してみたい」と思ったことです。東芝の15年間で、ある程度のスキルやナレッジを得られたと思ったので、それらを生かして次のキャリアにチャレンジしてみたいと思いました。

    2つ目は、東芝の限界を感じたことです。東芝での最後の仕事は、全社の予算・中計の取りまとめでした。全体やカンパニーごとの数字を見ていく中で、限界を感じるようになったのです。例えば、撤退ルールで定めた基準にひっかかる事業もあったのですが、いわゆる大人の事情で撤退にはならず、改善計画が出されて撤退に至らずということが続いていました。私は撤退するなら撤退し、力があるうちに事業を譲渡した方がいいのではないかと思っていました。真剣に仕事をしてきましたので、このままだと会社と一緒に自分もダメになってしまうのではないかと危機感を覚えたのです。
    そうした背景もあり、急成長している異業種の世界に魅力を感じ、37歳の時にアーバンコーポレイションに転職しました。

    「半年ほどでアーバンコーポレイションから別の会社に転職していますが、どういった理由がありましたか。」

    理由は、不動産の新興勢力のビジネスの課題がよくわかったからです。古株の不動産会社は一流の物件を持っているのでストック型のビジネスができます。更に、ここをキャッシュカウにして事業を拡大できます。それに対して、新興企業はフロー型のビジネスからスタートします。新興勢力ゆえに、権利関係が複雑になっているようないわく付きの物件にも挑んでいかなくてはなりません。そういった物件は、税務上の損金不算入の費用が多いなど、税務面から見ても難しいビジネスだということがわかってきたのです。ビジネスの質という観点で考えた時に、自分はこの世界にいない方が良いなと素直に思いました。身を引くなら早い方が良いと思い、半年で辞めたのです。

    ちなみに、アーバンコーポレイションの不適切会計の問題が2008年に起きました。私が勤めていたのは会社が絶好調だった2005年なので、退職の理由は不祥事とは関係ないことを申し添えておきます。

    誰よりもストイックな柳井さんからの学び

    「次も成長著しいファーストリテイリングに転職されます。ここに決めた理由も教えてください。」

    ファーストリテイリングには、ちょうど持株会社化するタイミングで参画しました。会社を作る、組織を作る、制度を設計する、新たな仕組みを導入するといった、経理におけるモノづくりができたら楽しいだろうなと考えたのです。実際に、持株会社の制度設計や傘下の会社の経営管理に携わることができました。

    「柳井正さんという偉大な経営者の近くで、しかも経営企画リーダーとして仕事をしたことは非常に得難い経験だと思います。印象に残っている出来事がありましたら教えてください。」

    柳井さんはすごくストイックな方です。他人に対しても厳しいですが、自分に対して一番厳しい。現状に満足せず、自分の成功を自分で否定することを徹底されていました。普段の言動からもそういったことがうかがえるので、厳しくても慕われているのだと思います。

    その意味で、私は、オーナー企業に魅力を感じます。オーナー企業では、一見すると、朝令暮改的な指示が多くなりがちです。オーナーが自分に厳しい方であればなおさらです。それについて、なぜオーナーはその判断をしたのかを自分なりに紐解くことが大切ではないでしょうか。変えるには変えるだけの理由があるはずです。その上で自分ならどうするか考えてみる。自分の考え方、受けとめ方、振る舞い方次第で、仕事が楽しくもつまらなくもなります。

    以前、ファーストリテイリングが、フランスの会社を買収した時に、フランスに拠点を置き、フランス人のCFOを雇いました。その方は、「君たちは柳井さんの言ったことにそのまま従うけれど、俺たちフランス人はそうじゃない。なぜそうするのかについて、納得しないと動かないんだ」と言っていました。私もそれが当たり前だと思いますが、往々にしてオーナー企業で働く人は、深く考えずにオーナーの指示通りにしているケースが多い。そうすると、次第に自分の思考が弱くなっていきますし、オーナーの指示が変わった時についていけなくなるというリスクもあります。

    ファーストリテイリングでの3年間で、一層そういったことを意識するようになりました。自分へのインプットを継続することにより、常に自分のスキルセットをアップグレードしつつ、「オーナーはこう考えているからこうだろう」「きっとこう考えるのではないか」といった仮説を立てて行動していました。

    オーナー企業で存在感を出す方法

    「次のキャリアとしてオーナー系企業のトランスコスモスに移ります。どういった経緯があったのでしょうか。」

    ファーストリテイリングでの学びは大きいものでしたが、大変なことも多かったです。一緒に入社した方や後に入社した方が退職していく中で、トランスコスモスから声をかけていただきました。業務内容は、コールセンターとBPOとデジタルマーケティングというBtoBで、当時の売上は1千億円後半ほどある会社でした。現在では4,000億円に迫ろうとしています。

    「11年間、トランスコスモスで勤務される中で、スビート感をもって昇進して最後は上席常務取締役CFOとして活躍されました。どのような役割を担っていったのですか。」

    正直なところ、運が良かった部分も大きかったと思います。ベースとして大切なのは、会社の弱いところを見つけて、それをサポートすることです。そして、周囲に認めてもらう。だんだんと組織で認知をされていき、仕事の幅や深さを広げていくのです。トランスコスモスは、キャッシュフロー管理に弱点がありました。私の入社以前に自社株を買うなどして、多額の借入れもありました。

    ちなみに、ファーストリテイリングも同様でした。様々な会社を買収したり、新規事業を立ち上げたりするなど、ポートフォリオが急拡大していたため、キャッシュフロー管理が不十分でした。最も売上の大きいユニクロ日本事業はキャッシュリッチな事業でしたが、その裏返しで、グループ会社のキャッシュフロー管理は決して強くはなかった。柳井さんは自分で銀行と厳しい交渉した経験をお持ちの方なので、キャッシュフロー管理の重要性を理解されていましたが、他の方はそこまで深く理解されていないようでした。そこで、キャッシュフローを重視するために、各事業会社からレポートを上げてもらうような仕組みとしたのです。

    日本の大抵の会社はキャッシュマネジメントが弱いようです。過去の高度経済成長を支えた間接金融による潤沢な資金供給の負の遺産でしょう。私の知る限りでは、いまだにPL管理主体の会社も多いと聞いています。その一方で、オーナー経営者は誰しもキャッシュで苦しんだ経験をお持ちなのではないでしょうか。それゆえ、オーナー経営者の方々はキャッシュマネジメントが会社経営の本質の1つであることを痛感されていると思います。キャッシュがなかったら会社が潰れてしまいますから、将来のキャッシュの予測ができないと銀行や債権者から信頼してもらえません。キャッシュフローの予測の観点からFP&A的な手法で貢献することも大切だと思います。私は、東芝の経験からFP&AとTreasuryの両方が自分の強みになっていました。会社の弱みに自分の強みを結びつける。これによって存在を認めてもらうことが大切だと思います。

    ロジスティード株式会社
    常務執行役員 CFO 財務戦略本部長 本田 仁志 氏
    1967年、東京都生まれ。 早稲田大学政治経済学部卒業後、東芝に入社。約15年間の在籍中、一貫して経理および財務領域を担当。生産の最前線現場である工場の原価担当から、全社規模の投融資管理、資金戦略策定などを経験した後、グループおよび個別事業の中期計画・予算策定等々で中心的役割を担った。 その後、不動産流動化事業で急成長中であったアーバンコーポレイションを経て、2005年にファーストリテイリングに入社。グループCFOに次ぐ立場のマネージメントメンバーとして、経営計画策定や海外グループ会社の経営管理等を担った。 2008年8月、グループ拡大を進行中であったトランスコスモスに経営企画部長として入社。その後、CFOに就任し、経営管理、経理、財務、法務、総務システム部門など幅広い部門と領域を統括した。 2019年4月より株式会社日立物流(2023年4月1日、ロジスティード株式会社に社名変更)執行役 財務戦略本部 副本部長 2023年4月常務執行役員 CFO 財務戦略本部長に就任し現在に至る。
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