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ロジスティード株式会社/常務執行役員 CFO 財務戦略本部長 本田 仁志 氏

東芝での15年間や大企業2社でのCFO経験を経てたどり着いたキャッシュフローを軸にした本質的な経営の重要性

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※インタビュアー/バリューアップパートナー株式会社 代表取締役 大塚 寿昭
INDEX

    偉大なオーナーの共有点

    「偉大なオーナー経営者の思考を間近でご覧になってきて、共通していることや気が付いたことを教えてください。」

    成功者はお金周りでの苦労を経験されている方がほとんどなので、ガバナンスを強化しつつ、コスト削減を徹底するという点は共通していると思います。不正でお金が抜かれることがないようにしっかり統制をかけますし、少しでもキャッシュアウトを減らそうとします。また、稼ぐことの大変さを理解しているので、1つ1つを積み重ね、少しでも稼ごうとすることも共通点ですね。

    さらに、現場主義ということでしょうか。柳井さんもよく現場を訪問していましたし、トランスコスモスでも奥田さんが抜き打ちで現場をチェックしていました。会社は自分が作り上げてきた子どものような大切な存在だということが滲み出ていたように思います。現場主義の徹底という意味では、ファーストリテイリングもトランスコスモスも現場の数字を直接、経営者が見て、経営者がダイレクトに現場に指示することができる情報システム基盤を作り上げている点も共通していました。

    「トランスコスモスのCFO組織はどのようになっていましたか。」

    財務と経理を兼ねた経理部があり、予算やトランスコスモス単体の決算や連結を担当していました。それとは別に、国内のグループ会社の経理や予実管理をする国内関係会社経理部という組織があった点が特徴的です。グループ会社に任せず本社で管理するというのは、先ほどのガバナンスを強化しつつ、コスト削減を徹底するというオーナーの考えが反映されていますよね。Center of Excellenceと思想は同じです。

    「その組織の中で、トランスコスモスの経営管理はどのように行われていましたか。」

    予算については、ガイドラインのようなものを作っていました。すごく成長している会社なので、2桁成長がベースで、そこから「利益率を改善してここまで持っていこう」といった大きな方針はこちらで提示して、あとは現場で埋めていくような仕組みでした。

    「月々の管理はどのようにしていたのでしょうか。」

    案件ごとに予算と実績とフォーキャストがあり、案件管理用システムにデータが集約されていました。ここでは会社の全案件ごとの売上と原価のデータが一元管理されており、そのデータを活用して、分析していました。このシステムのデータは現場、本部、本社の共通言語のようなものです。
    詳細をお話しするのは差し控えますが、現場に頑張ってもらうために、管理会計上の様々な仕掛けもありました。

    「オーナーの考え方がシステムに反映されているのですね。」

    オーナーが頭の中で管理している内容が上手くシステムに落とし込まれていたと思います。「システム」という言葉には、開発したソフトウェアと、経営システムの両方の意味が含まれます。ファーストリテイリングもトランスコスモスもオーナーの思考様式や確認したいポイントをシステム化し、そのシステムを使って現場のオペレーションを回していくことで、より深くオーナーのDNAを定着させているところが共通していました。どんなにオーナーの発言・発想を大切にしていても、システムに落とせていないと、オーナーがいなくなった瞬間に風化してしまいます。オーナーがいなくなっても回る仕組みを作ることが重要です。

    またオーナー経営者はマイクロマネジメント志向の方が多いですが、企業規模が大きくなってくると、こういったシステムがないとマイクロマネジメントを効率的・効果的に回せなくなります。効率的・効果的システムがない状態でマイクロマネジメントをやろうとすると、組織は疲弊します。例えば「Excelのバケツリレー」です。

    「トランスコスモスにおける印象深い出来事はどんなことですか。」

    忘れられないのは、入社直後に起きたリーマンショック後のガタガタ感です。2桁成長を前提としてきたので、業績の大きな落ち込みは想像していませんでした。最も辛かったのは、コーポレートベンチャーキャピタル投資です。シリコンバレーのベンチャー企業にかなりの投資をしていたのですが、リーマンショックの影響で、大幅な減損が必要になりました。その結果、コーポレートベンチャーキャピタル事業会社を清算しなくてはならなくなりました。

    一方で「災い転じて福となす」ということでコーポレートベンチャーキャピタルの清算をチャンスに変えるよう動きました。清算によって生じた税務上の繰越欠損金の活用です。回復させた利益を繰越欠損金にぶつけ、キャッシュアウトをセーブしたわけです。コーポレートベンチャーキャピタル事業を清算した際、銀行からはかなり厳しい言葉を受けましたが、繰越欠損金も使い切り、財務体質も大幅に改善させることができました。

    「大企業のCFOの方は経理や管理会計に強く、キャッシュについてはあまり触れてこなかった方が多い印象です。本田さんはどちらも長けているので、CFOとしての強さを感じます。」

    そういった経験をすることができたのは、とてもありがたいことですね。確かに一般的に日本のCFOの多くの方は、P/L中心で財務に強くない方が多い印象があります。財務と言えば、単に銀行と密なコミュニケーションをとる部門みたいなイメージもまだまだ残っている気がします。銀行は「雨が降っていないときは傘を貸そうとするが、雨が降っているときには傘を貸してくれない」ものなのですが。そういう方がアクティビストを相手にしたら食い物にされてしまうので要注意ですね。アクティビストと相対しようとするならば、彼らが、投資額に対する期待リターンとして、「どこからいくらキャッシュを捻出させようとしているのか、どこまで株価を上昇させたいのか」という彼らのロジックを理解することが必要ですが、それにはキャッシュをベースとしたコーポレートファイナンスのスキルが必須となりますので。

    ロジスティードでのCFOとしての役割

    「次のキャリアとして、ロジスティードいう大会社を選んだ背景を教えてください。」

    当時、トランスコスモスは財務体質が強化できましたので、成長戦略に舵を切っていました。当然、投資のために、キャッシュを使うのですが、会社の投資戦略と自分の考え方に大きな溝を感じるようになっていました。詳細は申し上げられませんが、その一つは通販事業への参入です。キャッシュの視点からは「在庫は罪庫」です。通販事業は過剰在庫を持った場合のキャッシュを勘案すると非常に厳しい世界なので、むしろ自社の強みを活かせる分野で勝負するべきだと考えたのです。そんな時、ロジスティードのご縁をいただきました。ちょうど佐川急便との提携の話もあがっていたタイミングで、面白さを感じ、転職することにしました。

    ロジスティードでは、どのような立場で、どんなミッションを与えられて入社しましたか。」

    ロジスティードは、22年度で売上が8000億円ある大きな会社です。その中で、まず私に与えられたミッションは大きく2つで、ガバナンス体制の強化とERP基幹システムの導入でした。

    「大企業2社のCFOを経験して、求められるスキルの共通点や相違点はありましたか。」

    結論からいうと、必要なスキルは共通のような気がしています。私が携わっているプロジェクトには、キャッシュマネジメント強化や新ERP導入などがあります。前者に関しては、手元資金を極限まで効率的に活用できる体制の構築を進めていますが、こちらは前職からの自分のテーマの一つです。後者は、先ほどの話と重複しますが、システムは経営の仕組み化なので、こちらもこれまでと同様のアプローチをしている感覚です。

    振り返ってみると、多くの日本企業の弱い点は共通しています。その弱点を解決する力を持って、上手く自分を適合させていくことが重要です。それができるように自分のキャリアを構築していく。具体的には、FP&AとTreasuryのスキルを持っておくと有効ですね。ただし、それらを仕事の中で勉強する機会は多くないのも現実です。そのため、貴重な経験ができるチャンスがあったら自ら飛び込んでいくとよいでしょう。そういう意味では、オーナー系の企業にもチャンスがあります。例えば、そこでオーナーの思考を学びながらシステム導入をしていくのも面白いと思います。

    ロジスティードの経営管理の仕組みはどうなっていますか。」

    ROIC等、BSに着目したKPIを導入しています。過去はP/L主体だったと思います。

    「現在はTOBにより世界的なバイアウトファンドであるKKRの子会社となりました。KKRの子会社になって経営管理面を含めて変化したところはありますか。」

    経営管理面については大きな変化はありません。ただ、KKRが課題だと認識している領域があれば、改善を求められことになると思います。しかし、それらは事業会社として当然取り組まなければいけないことでもあるので、特別なことではないと思っています。

    「KKRとお付き合いをしているのは得難い経験ですよね。」

    そうですね。投資家の視点を身近に感じられるのは得難いと思います。この経験は再上場後にも役立つ、会社の財産になるはずです。

    ロジスティード株式会社
    常務執行役員 CFO 財務戦略本部長 本田 仁志 氏
    1967年、東京都生まれ。 早稲田大学政治経済学部卒業後、東芝に入社。約15年間の在籍中、一貫して経理および財務領域を担当。生産の最前線現場である工場の原価担当から、全社規模の投融資管理、資金戦略策定などを経験した後、グループおよび個別事業の中期計画・予算策定等々で中心的役割を担った。 その後、不動産流動化事業で急成長中であったアーバンコーポレイションを経て、2005年にファーストリテイリングに入社。グループCFOに次ぐ立場のマネージメントメンバーとして、経営計画策定や海外グループ会社の経営管理等を担った。 2008年8月、グループ拡大を進行中であったトランスコスモスに経営企画部長として入社。その後、CFOに就任し、経営管理、経理、財務、法務、総務システム部門など幅広い部門と領域を統括した。 2019年4月より株式会社日立物流(2023年4月1日、ロジスティード株式会社に社名変更)執行役 財務戦略本部 副本部長 2023年4月常務執行役員 CFO 財務戦略本部長に就任し現在に至る。
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