ベンチャーの魅力とCFOに必要なスキル
「吉田さんは2社続けてベンチャーを経験しますが、これからベンチャーを目指す方に向けて魅力を教えてください。」
粗削りというか、まだ形になっていない状態から、上場というゴールに向けて組織を形作っていくプロセスはおもしろいと思います。ただし、上場はゴールでもありますが、新たなスタートでもあります。会社は生き物ですから多様な変化があり、ベンチャーはその変化をおもいきり楽しむことができます。雰囲気、人、数字、そういった変化を総合的に経験できることは魅力ですね。それに、1つの課題を解決しても、次から次へと課題が出てくるので、アドレナリンが出続ける。大変ですが、刺激的ではあります。ジオコードは、2019年10月中旬、最終的にいちよし証券に主幹事証券を引受けていただき、翌2020年11月に上場します。当時は、東証の審査がギリギリ2か月でできたこともあり、いちよし証券との契約から1年1か月と10日で上場することができました。審査期間中は、本当に必死の日々が続き、徹夜をすることも少なからずありました。直近の上場という目的が明確だったため、走り抜けることができたのだと思います。「その先に何かがある」と思うと、人間は頑張ることができるんですね。
「ベンチャーのCFOに必要なスキルを教えてください。」
ハードスキルでは、例えばその一例として、会計基準に基づいて会計上の論点を整理したり、監査法人と協議して方向性を決めたり、判断したりできる力は非常に重要だと思います。全ての分野を網羅できなくても、リスクを感じ取れる感覚を持っているとよいですよね。知識の詳細な部分は次第に薄れていってしまうものですが、時間が経っても必ず残る基本となる幹の部分はある。それを大切にしたいです。現在、監査法人に在籍されている方であれば、「監査が嫌い」と思わずに、しっかり考えながら業務にあたっていれば、後で応用が利く力をつけられると思います。また、私の場合は、FASで経験した契約書チェックが、総務の仕事で役立っています。ソフトスキルとしては、社長や従業員と対人関係を築き、コミュニケーションを取っていく力が重要です。
例えば、従業員に対して、いきなり「これをやって」と命令口調で指示することはありません。相手のキャラクターや状況を把握した上でのコミュニケーションを大切にしています。誰かに何かを伝える時は、メールやチャットなど記録として残り、後から確認できる手段で伝えることが多いですが、状況によっては口頭でも重ねて伝えてコミュニケーションエラーが起きないように心がけています。さらに、メールやチャットの文章は、丁寧な文体で書くようにしています。こちらは簡潔に書いたつもりでも、受け手からすると棘のある言葉に感じられてしまうケースも少なくありませんからね。そうなると、余計なハレーションが起きてしまいます。
常に丁寧に書くスタイルにしておけば、それが染み付き、負担には感じなくなります。そういった手間はかけた方が良いと考えています。私は喜怒哀楽が激しくなく、怒るタイプの人間ではありませんが、必要なことは冷静に論理的にしっかりと伝えてメリハリをつけるようにしています。また、基本的にビジネスはスピードと段取りが鍵になると考えていますので、人間関係や意見合意の調整などには非常に気を遣っています。極論を言うと、いかに効率的かつ円滑に物事を進められるかに帰着すると思いますが、そこに人間の感情が絡み合ってきますので、あらかじめできる気遣いはしておいて損はないと思って、心がけるようにしています。
「社長(CEO)とのコミュニケーションも重要ですが、どのような関係性を築いていますか。」
ジオコードの原口社長との相性はとてもよいと思っています。平均すると少なくとも月に1回は食事をしています。会社のこれからについてなど話が尽きなくて、つい夜遅くまでお酒を飲んでしまうこともありますね。社長のアイディアを尊重しながら、「こうした方がいいのではないか」と自分の考えも伝えるようにしています。会社のあるべき方向を見定めて、必要なコミュニケーションはしっかり取りながら動くように心がけています。
「例えば、社長が「今度、こういう会社を買いたい」と提案してきたとします。しかし、吉田さんから見て絶対やめた方がいいと思う場合はどうしますか?」
実際にそういうケースはあって、結構断っています(笑)。その際、単に「ダメ」と言うのではなく、「こういう理由だから難しいと思います」と伝えます。それでも納得に至らない場合には、社外役員の方たちも含めた場で議論をすることもあります。

CFOの魅力
「CFO職の魅力を教えてください。」
一つは、CFOのFはファイナンシャルであるように、数字で語れる、数字を拠り所にして、きっちりと物事を進められるところが魅力だと思います。数字に基づいて、会社経営を引っ張っていくことができるのです。CEOがいてのCFOポジションだと思いますが、CFOは決してバックヤード業務だけを担当するのではありません。会社の動き全体を見ながらビジネスを進めていけるところに醍醐味があるのではないでしょうか。当然それには責任も伴うので、苦労と楽しさは表裏一体ですけれどね。
「吉田さんの場合は、取締役CFOなので、監督とプレイヤーを兼ねています。その場合のジレンマのようなものはありませんか?」
会社の規模感から言うと、そのぐらい両立しなくてはならない立場だと思います。大きな組織になると、また状況は変わってくると思いますが。
「ここまで話を聞いてきた通り、吉田さんは何度も方向転換をしてきました。そこには怖さやリスクもあったと思いますが、なぜその一歩を踏み出すことができたのですか。」
自分の強みや弱み、やりたいことが、会社が必要としていることとマッチしているかどうかは冷静に分析しているつもりです。今の会社に入社する前に、数多くの会社のトップの方々にお会いさせていただく機会がありました。その中で「本当にこちらの会社にお世話になっていいのか」と多面的に考えて、最終的に今の会社に入社することを決めました。そういう意味では、リスクはなかったように思っています。何事も人生すべてが履歴として残ります。自分自身が選んだ道なので、それをどう正解にするかを考えることが大事なのではないでしょうか。
「次の一歩を踏み出そうという人が目の前にいた時に、吉田さんにはその人に対してどんなアドバイスをしますか? 」
その人の表面的な年齢というよりも生物学的な体力面や家庭環境にもよると思いますが、それらが障壁とならない人であるならば、どんどん挑戦していくべきだと思います。「面白そう」「興味がある」といった人間としての直感に頼って良いと思います。もちろん、直感の前に十分なリサーチも必要だと思いますが、直観力は、おそらく人間が様々な情報を処理した上で出てくる結論なので、一定のバイアスがかかる余地はあるかと思いますが、意外と正しいと思うんです。道を選択した後は、常にモニタリングして、もし間違っていると思ったのならば、そこで微調整すればいいのです。ご家庭がある方は、家族ときちんと協議をしてから一歩を踏み出した方が良いとは思います。後から「ああじゃなかった。こうじゃなかった」となるよりは、事前にクリアにしておく方がスムーズです。その後は、目の前のことを受け止めて、逃げずに処理していけばいいのだと思います。
「これまで転職する時の基準はありましたか?」
事業会社で言うと、社長とお会いした時に、お金の匂いがするか、すなわちビジネスからキャッシュフローが生まれてくるか、ビジネスとして成り立つかはきちんと見るようにしていました。ビジネスそれ自体というよりはその雰囲気があるかどうかを重視しました。ビジネスの基本はやっぱりお金。その点は、保守的に見ていました。
「最後にこれからやりたいことがありましたらお聞かせください。」
直近では、現在の会社で、事業拡大に向けたしっかりした仕組みづくりをすることが自分に与えられた課題だと思っています。そして60歳以降は、私の経験を後輩の方々の役に立ててもらえたらと思っています。もしチャンスがあれば、自分で事業をやってみるのも面白いかもしれませんね。実家も祖父が創業して父親が2代目、親戚も社長だらけという環境で育ったので。この先、やりたいことをするためには、体もきちんと鍛えておかないといけませんね。