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株式会社アドバンテッジパートナーズ/パートナー 早川 裕 氏

PEファンドのパートナーから見た「魅力的なCFO」 成功するCFOの素養とは?

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※インタビュアー/バリューアップパートナー株式会社 代表取締役 大塚寿昭
INDEX

    成功するCFOの共通点

    「これまで採用したCFOの中で、成功しているCFOの共通点はどういったことでしょうか。」

    前提として、ハードスキルは高くなければいけないと思います。CFOとして入社すると、社長との信頼関係構築は当たり前ですが部長クラスとの信頼関係をどう作るかも重要となります。手を動かさないタイプは見透かされますので、ある程度ハンズオン志向の方がいいと思います。また、企業の価値はどのように株主から評価されるのか、経営者視点でのその意味合いは何か、主に財務の観点から株主視点と経営視点を行ったり来たりできる方は素晴らしいですね。人柄としては、謙虚で誠実な方が成功されている印象です。おそらくそういった方は動的な思考力をお持ちで、順応性があるからではないかと思います。状況の変化に対応して、適切かつ速やかに新しい手順やスキルを習得し、機能させて、自分自身を順応させています。不確かなものへの対処する能力があるのだと思います。

    事業承継や大企業カーブアウトの場合は、謙虚に話を聞きながら現場に溶け込んで、最終的には自分のやりたいことをやってもらう方向に持っていける方が強いですね。また、他部門に対して話ができる人も成功しています。例えば、営業に対しては値決めの話、製造に対してはコスト削減の話、開発に対して投資計画の話ができる方。先ほど申し上げた、インパクトは小さくでも時間のかからないような小さな成功を入社当初から積み上げて、信頼を高めていける人は、結果的には大活躍されている印象です。

    「一方で、失敗したCFOの共通項があれば教えてください。」

    何を失敗と定義するかによると思いますが、やはり財務スキルが不足している方の場合には苦労すると思います。財務や経理の部長クラスの仕事を管理できないと、裏で見下されるという可能性もあります。仕訳も含めて全て理解していなければ、チェックをすることも物を申すこともできません。組織に対して、自分がどういった貢献ができるのかを示せずに、信頼を高められていない人も苦労されていますね。また、謙虚さに欠ける方も難しいかもしれません。
    CFOは財務経理機能だけでなく他の管理機能を含めて管理本部長といったポジションを持つ場合もありますので、やはり視野が狭いことはその方の職務遂行を難しくしてしまうことになると思います。

    プロフェッショナルCFOになるまでのキャリア

    「PEファンドの投資先CFOはプロフェッショナルだと思いますが、どのようなキャリアを積めばそこに到達できると思いますか。」

    コンサルタント時代に先輩から「コンサルティング会社に入ったのだから、プロフェッショナルという気概が必要だ。そうでないとこの仕事は務まらない」と言われたことが記憶に残っています。
    では、プロフェッショナルの定義となんでしょうか? 私は「3割バッター」と定義しています。どんな球が投げられても10回に3回はヒットが打てること。つまり、どのような経営課題を投げられても、ある頻度で課題解決に導けることが、ビジネスにおけるプロフェッショナルと定義しています。CFOとしてのプロフェッショナルも、どんな経営課題でも一定以上のクオリティで解決できることだと思います。

    CFOになっている方は、大企業の経理部や財務部からキャリアをスタートさせている方が多いですよね。そうなると、その大企業の仕組みの中で仕事をしていくことになります。CFOとしてのプロフェッショナルを目指すのであれば、どこかのタイミングで、あえてそこから少し外れてみる。例えば、大企業の中であっても子会社や他社とのジョイントベンチャーなど、少し環境が異なる場所、業務プロセスが未整備の世界に飛び込んでみる。そこで、七転八倒することによって、問題解決・課題解決の経験を積めると思います。あるいは、転職してもよいでしょう。そういう会社の場合には、財務・経理以外の総務や法務、もしくは購買も担わなくてはならないかもしれません。苦労もしますが、そういった経験をしている方は、財務・経理以外の視点で企業に対して洞察を持つことができるようになります。

    もちろん、我々の面接でも最後まで残ってきます。経験は必ず生きていきますから、どんな課題へ直面しても問題解決の機会と捉え、課題の特定、分解、分析、取るべきアクションの導出という一連の取り組みを、当事者として実施していくとよいと思います。また、他部門へ働きかけるという経験も積んでいただけると良いですね。組織を横断して、人を動かすという経験、上司や社内ネットワークを使う必要もあるでしょう。最も大事なのは説得力ある分析、数字作りだと考えています。
    MBAも視野を広げるという観点ではお勧めです。国内にも大変良質なMBAプログラムなど教育を受ける機会があると思います。ご自身の会社の常識を理解することと、世の中の常識の両方を同時に理解することも重要でしょう。

    「ベンチャーでCFOを経験していた方はいかがでしょうか。」

    経理や財務は、会社の売り上げよりも人数規模と連動して複雑性が増すと思いますから、ベンチャーの規模によりますね。例えば、300人の会社の経理を担っていた方は安心感がありますが、30人の会社の経理しかしたことがないという方は心もとないです。そういう意味では、大企業からベンチャーを経験して成果を出した方はよいですね。

    「年齢的にはどのくらいの方が多いでしょう。」

    私が担当する投資先はメーカーが多いのでキャリアを重ねている方が多いですが、アドバンテッジパートナーズが投資しているテック系、外食系やサービス系の会社であれば、40代前半、30代後半でも活躍は可能だと思います。

    「37〜40歳前後の方が、御社で採用されるプロフェッショナルCFOとなっていくためには、もう1つどのようなキャリアがあるとよいでしょうか。」

    CFOのポジションにチャレンジする前に、PEファンドに投資されている企業の財務経理部長のポジションで経験を積めると良いと思います。お勧めです。会社としての意思決定構造、ガバナンスが明確ですし、経理の面でも財務の面でも鍛えられると思います。ファンドのメンバーや社長と共に、嫌でも経営戦略や組織戦略の議論に巻き込まれていきます。そういった環境で経験を重ねていければ、次はCFOのプロフェッショナルとして活躍できるのではないでしょうか。

    「プロフェッショナルCFOという職業が発展するにはどのような環境整備が必要でしょうか。」

    難しい質問ですね。大企業同士のM&Aが活発化してもポジションは空かないので、プロフェッショナルCFOの活躍機会は増えないかもしれません。PEファンドが関係するM&A案件では、新たにCFOポジションが必要となることも多いので、そういう案件を増やしていく必要がありますね。先日あるコンサルティング会社の分析を見ましたが、2016年から2022年の日本のM&A案件に占めるPEファンド関与の割合は13%だそうです。欧米は20%に近いとのことですので、我々ももう少し頑張って、プロフェッショナルCFOのポジションを作れると良いと思っています。

    ファンドの投資先のCFOの魅力

    「最後に、PEファンドの投資先のプロフェッショナルCFO職の魅力を教えてください。」

    ダイレクトに株主と会話をして、会社経営の一翼を担えるという環境は、大変貴重な機会です。上場企業の株主は特定のケースを除き不特定多数ですので、一般的には顔が見えません。オーナー企業ですと、株主との会話はダイレクトで行うことになりますが、必ずしも一般的なガバナンスの下で業務ができるということでは無いかもしれません。PEファンドが株主の場合、CFOへの役割期待は明確で広範にわたります。基本的な経理や財務の実践はもちろん、経営管理機能・ガバナンス体制の整備もあれば、外部の金融機関とのやり取りや、よりキャッシュフローを意識した企業運営を行うべく他部門への積極的な働きかけも、更には経営戦略への貢献も期待されます。

    CFOに求められるさまざまな仕事に、実際に携われる環境だと思います。総合力が試される機会となると思います。報酬面では、通常の固定報酬や年次賞与に加え、PEファンドのEXITに連動した中期的なインセンティブが提供されることが標準なので、それも魅力だと思います。また、ファンド傘下でCFOを行ったという経歴は社外へのアピールにもなります。状況が許せば、同じPEファンドが投資をしている他の企業で活躍する道もあるかもしれません。いずれにしろ活躍の場も広がっていくと思います。

    株式会社アドバンテッジパートナーズ
    パートナー 早川 裕 氏
    1992年 早稲田大学理工学部機械工学科 卒業 2000年 米カーネギーメロン大学技術政策学研究科博士課程 修了(Ph.D) 2000年 マッキンゼー・アンド・カンパニー 入社 2008年 アドバンテッジパートナーズ 入社 ハイテク・製造業をはじめとするB2Bの分野で、成長戦略の策定と実行、営業にはじまり工場に至るまでのさまざまな機能における、KPIの策定、オペレーションの効率化、経営体制の構築などに取り組んでいる。