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株式会社アドバンテッジパートナーズ/パートナー 早川 裕 氏

PEファンドのパートナーから見た「魅力的なCFO」 成功するCFOの素養とは?

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※インタビュアー/バリューアップパートナー株式会社 代表取締役 大塚寿昭
INDEX

    投資先のCFOの採用

    「投資先のCFOの採用にあたって、ケース面接やリーダーシップスタイル診断を実施するなど、独特な手法をとられている印象があります。その理由を教えてください。」

    我々が投資を検討する際には、経営陣から提示された事業計画やDDの過程・結果で得られた知見を総合し、この会社は5年後にどのような会社になっていただくべきか、設計図を描きます。その設計図を我々は投資テーシスと呼んでいるのですが、CFO採用に当たっては、その設計図を、有望な候補者の方には秘密保持契約(NDA)を結んだ上で共有します。候補者の方に、どのような点に課題を見出し、どのように解決の道筋を考え、その方がどのような貢献ができるのかを考えていただき、我々と議論させていただいています。それをケース面接と呼んでいます。どれだけ当事者として課題を認識でき、解決する手段をイメージできるか。議論を通して、お任せできそうな方かを確認させていただくのです。

    リーダーシップスタイル診断は、主にその方の内的動機に着目した診断をしています。内的動機とは、「特段気にしていなければ、素の振る舞いとして自然に出てしまう行動の源」です。朝起きてふっとやってしまう行動、とでも表現できるかもしれません。経験を積むにつれて後天的に修正することはできます。しかし、状況が複雑になればなるほど、素の自分の行動が出やすくなると思います。そこをきちんと把握しておきたいのです。正にその方のリーダーとしてのタイプを理解しようとしています。その方が何に喜びを感じるタイプなのかを知り、投資先の状況と我々の投資テーシス、経営陣のカラーから考えてフィットすると考えられる方かどうかを見させていただいています。

    例えば、主張することを重視して人を率いるタイプなのか、他者の話を聞いて咀嚼して提案する参謀タイプなのか。あるいは、新規アイデアを出すことに喜びを感じるのか、みんなで決めたことを着実に実行することに力が湧く方なのか。他にも、世の中の規範を重視するのか、革新的なのか。新規事業に力を入れていきたい会社と、再生フェーズで決められたことをやりきっていかなくてはならない会社では、マッチするCFOのタイプは異なります。どういった内的動機を持ったCFOに入ってもらうことでどんな相乗効果を狙うか。それを考えるための参考にするのです。ちなみに、診断結果は候補者にも共有されるため、採用の結果に関わらずその方のキャリア形成に対して有益なアドバイスになっていると考えています。

    「貴社が作成するCFOのスペック表はいつも明確ですが、これにはどのような理由があるのでしょうか。」

    言語化は大変重要です。「何となく」「イメージ的には」というレベルではCFOサーチはできません。今このようなステージにある会社を、5年後にはこのような形に変革していきたい、そのためにはCFOに求めるタイプはこうであり、必要なハードスキル、ソフトスキルは何か。これらについて、社内だけでなく、エージェントの方とも共通認識を持っておく必要があります。それによって、候補者とのやり取りにも首尾一貫性が担保されると思います。

    事業承継、カーブアウト、事業再生、タイプ別CFOスペックとは

    「タイプ別(事業承継、カーブアウト、事業再生)に求められるCFOのスペックを教えていただきたいです。まず、事業承継案件にはどのような経験、スキル、人柄の方がふさわしいと思いますか。」

    事業承継案件の管理面の課題を単純化すると、管理機能が必ずしも整っていないということだと思います。極論すると、オーナー経営者の見たい数値さえ見えれば良いということで、管理機能としての業務プロセスの整備が進まずに時間が経っているケースが多いです。財務や経理数値の精度が必ずしも高くなかったり、業務プロセス上のけん制機能が弱かったりします。したがって、CFOは、管理機能・業務プロセスの構築・改善、会社の方も巻き込みながらリードできる方がふさわしいですね。
    また、組織の素性として最終意思決定者であるオーナー経営者への依存度が高く、経営幹部であっても主体的に意思決定できない傾向もあります。権限規定がある場合でも形骸化しているケースもあります。権限規定の整備も重要ですが、組織的な意思決定の仕組みを作っていく必要があります。更に、それぞれの役職者が課題の当事者として意思決定していけるようにうながすトレーニングをすることも重要です。事業承継案件のCFOはやるべきタスクが多いと思います。

    「ゼロベースで仕組みや経営管理体制を作っていくベンチャーのCFO経験者は、そういったスキルがあるかもしれませんね。」

    まだ会社の形が定まらない時期からCFOとして組織作りに貢献してきた経験があるとすると大変期待できます。
    人を採用し業務プロセスを作っていく経験はあまりできませんので良い経験だと思います。

    「ただ、そうは言ってもオーナーの話も聞かないといけないですよね。」

    もちろんそうです。これまでオーナー経営者が培ってきた企業文化、組織文化がその会社にはあります。なぜ会社の意思決定の仕組みがそうなっているのか理由があるのです。その背景も理解した上で改善をしていかないといけません。オーナー経営者の引退に絡む案件の場合は、社内の昇格もあれば、外部から新社長を紹介するケースもあります。いずれにしてもオーナーのお話をしっかり理解し、その上で新社長とCFOで会社組織の改善に取り組んでもらえばよいと考えます。

    「毎月の事業計画の予算を回していくことは重要ですか。」

    もちろん重要です。事業承継案件では、中期経営計画を作っておらず年度予算しかないケースもあります。中期経営計画の策定をリードすることもCFOの重要な仕事です。DDの過程で我々が作成した5年計画について会社と意見を交換するのですが、そこでもCFOの役割が大切になってきます。「アドバンテッジパートナーズはこう言っているけど、会社としてはこうです。従ってこういうのはどうでしょうか」というように中継役になっていただきます。

    「カーブアウト案件はいかがでしょうか。」

    大企業カーブアウトでよくある事象は、経理機能は会社にあっても、財務機能は会社にないというケースです。また、財務だけでなく、法務・知財、購買や人事機能も親会社側にあるという状況も経験したことがあります。出来上がったビジネスプロセスを使いこなすという観点で優秀な方であっても、そもそものビジネスプロセスを作ってスタンドアロン化することに戸惑ってしまう方もいると思います。そういった不足している業務プロセスの独立・スタンドアロンをリードできる方がふさわしいですね。
    さらに、その新しく作り上げた業務プロセスを使い、独立企業としての経営管理・ガバナンスの実践も大事になります。これは、大企業グループの一部ではなくなった独立企業としての心構えが出来ていくプロセスにもなります。ソフト面でのリーダーシップも求められるのです。

    中途採用が多くない会社のカーブアウトの場合は、外部採用のCFO以外は、全員生え抜きというケースもあります。その場合は、小さくてもよいので早めに成果を示し、組織に受け入れてもらうことも重要でしょう。外部採用のCFOは、組織の上からも下からも注目されますので、ビジネスパーソンとしての人間力・総合力が試されると思います。大企業には、当たり前ですがスマートで優秀な方が多いです。ただ、大企業には大企業の論理があって、CFOが「これをやります」と言っても、表面上は問題がなさそうに見えても動いてくれないということはあるかもしれません。社長と社員の関係性はすでにできているので、新たなことに取り組まなくても社長からは評価してもらえるからです。

    そのため、「私が入ってきたらこういう良いことが起きるよ。あなたの仕事も楽になるんですよ」ということが伝わるように、小さくても良いですので早めに成果を出すことを意識するとよいでしょう。少ない労力で結果を出せる部分から取り組んで成果を出す、よくロー・ハンギング・フルーツという言い方もありますが、そういったものを刈り取っていくのです。
    もちろん我々も支援をしてCFOを孤立させないようにサポートします。フレッシュな目で会社を見てもらいながら、うまく融合してもらえるようにヒントをお示ししたり、コミュニケーションを取ったりしていきます。

    「再生案件はいかがでしょうか。」

    再生案件は最近アドバンテッジパートナーズとしては手掛けていませんが、再生計画にしたがって、決めたことを確実に実行していく徹底性、実行を迫る強さを持った方にご活躍いただける領域だと思います。再生のフェーズは、キャッシュフローがどんどん減っていく状況と思いますので、決められた時間の中で、決められたことをやり切れる方がいいと思います。

    「場合によっては、社員に退職をうながすこともありますよね。」

    再生案件の場合はそのようなケースもあるのでしょう。CFOとしては厳しい判断を会社に突きつける場合もあると想像します。そういったこともいとわないリーダーシップスタイルをお持ちの方に入っていただくと思います。先ほどのリーダーシップスタイル診断の中に「好印象欲」という項目があります。みんなに感謝されたい、いい人だと思われたいというある種の欲求です。実は私もその傾向があるのですが、好印象欲を持っている人は、誰かに感謝されると居心地が良くて、逆に嫌われると本当に居心地が悪くなってしまうのです。素の状況では嫌われることを避けるので再生案件には向いていません。再生案件においては、そういった性格を強くお持ちの方はCFOとしては向いていないと思っています。

    株式会社アドバンテッジパートナーズ
    パートナー 早川 裕 氏
    1992年 早稲田大学理工学部機械工学科 卒業 2000年 米カーネギーメロン大学技術政策学研究科博士課程 修了(Ph.D) 2000年 マッキンゼー・アンド・カンパニー 入社 2008年 アドバンテッジパートナーズ 入社 ハイテク・製造業をはじめとするB2Bの分野で、成長戦略の策定と実行、営業にはじまり工場に至るまでのさまざまな機能における、KPIの策定、オペレーションの効率化、経営体制の構築などに取り組んでいる。