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石橋 善一郎 氏

【後編】FP&Aプロフェッショナルが目指したCFOへのキャリア。そして、その先に見えた自身の役割とは

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※インタビュアー/バリューアップパートナー株式会社 代表取締役 大塚寿昭
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    「CFOのその後」は啓蒙活動

    CFOのその後を意識し始めたのはいつ頃からですか。」

    日本トイザらスで働いていた10年間は、日本トイザらスのCEOになるのが目標でした。
    私にとっての「CFOのその後」はCEOだったのです。CEOを目標にして、「経営者としてCFOとして、企業価値を上げる」という自負を持って、事業に関わることが楽しかったのです。しかし、入社以来、一緒に働いてきたCEOが引退してカナダに帰ることになった時に、米国本社における後継のCEOの選考で私は選ばれませんでした。もう1人の候補者がCEOになったので、退職する道を選びました。外資系日本法人のCFO経験者が、日本の上場企業でCEOになる選択肢はありませんでしたので、その時点で残されていた選択肢は、他社でもう一度CFOになることです。しかし、すでに50歳代後半という年齢を考えると、CFOとして同じことを繰り返すという選択肢に将来への夢を見ることはできませんでした。

    一方で、CFOをやりながら、もう何十年もFP&Aという概念がない日本社会に「これでいいのだろうか」と問題意識を抱き続けていました。CFOという名称はようやく広がりましたが、FP&Aは管理会計の研究者の人たちにさえ知られていません。インテルでは1990代にCFO組織の真ん中にFP&A組織がありました。私のこれまでの経験を伝えることが、日本社会には必要かもしれないと思うようになったのです。そこで、自分にとっての「CFOのその後のその後」を考え始めた時に頭に浮かんだのが、CFOを目指すFP&Aプロフェッショナルへの啓蒙および教育活動でした。具体的には、職業人団体における啓蒙活動と会計大学院・経営大学院における教育活動です。日本では、FP&Aを専門とするプロフェッショナルとして支援する職業人団体が存在していませんでした。

    また、日本の会計大学院や経営大学院は、日本企業の経営管理組織の状況を反映してFP&Aを専門とするプロフェッショナルを育てようとしていなかったのです。そこで、プロフェッショナルとして啓蒙活動・教育活動を行うために、青山学院大学会計大学院の修士課程に入学し、財務会計・管理会計を学び直しました。半年ほど試験勉強をして、米国管理会計士協会(IMA : Institute of Management Accountants)が新たに開始したCSCA(Certification in Strategy and Competitive Advantages)資格を取得しました。また、FP&Aプロフェッショナルを支援する米国の職業人団体であるAFP(Association for Financial Professionals)が開始したFPAC(Certified Corporate FP&A Professional)資格も取得しました。50歳代後半に会計大学院で学び、新たな資格試験に挑戦したことが、現在のキャリアの入り口になりました。

    そして、現在、私は3つの活動を行っています。
    ① 職業人団体における啓蒙活動
    現在、日本CFO協会とIMAの日本支部で、FP&Aを中心にしたCFOを日本社会で育成する活動をしています。日本CFO協会(※)では、FP&Aプログラムの運営委員会の委員長として3年ほど活動しています。日本CFO協会はCFOの育成を目的として20年ほど活動しています。現在、日本企業においてCFO組織の中にFP&A組織をインストールし、FP&Aプロフェッショナルを育てることに取り組んでいます。以下のURLをご覧ください。2020年度に日本CFO協会とAFPの提携を支援し、「FP&A実践講座」および「FP&A検定」を立ち上げました。2021年度に「FP&A実務勉強会」を開講しました。今年度は、「FP&Aセミナー」および「FP&A研究会」を開始します。また、IMA日本支部(※)では、プレジデントとして活動しています。IMAは米国では100年以上続くFP&Aプロフェッショナルを支援する職業人団体です。40歳でU.S.CMA資格を取得し、20年以上にわたり、IMAの会員として活動してきました。2018年から2年間、IMA米国本部においてグローバルボードの理事を務めました。2022年の秋に日本支部プレジデントに就任しました。是非、以下のURLをご覧ください。日本支部主催でFP&Aに関する無料の公開ウェビナーを開催しています。過去に開催したウェビナーの録画を無料で視聴できます。

    ※日本CFO協会 https://www.cfo.jp/   
    ※IMA日本支部 https://tokyo.imanet.org/home?ssopc=1

    ② 会計大学院・経営大学院における教育活動
    2017年度から早稲田大学会計大学院で「管理会計英文外書講読Ⅰ・Ⅱ」と一橋大学経営大学院で「CFOと企業価値」という科目を教え始めました。2019年度には東北大学会計大学院国際会計政策コースで、管理会計と企業財務に関する3科目を英語で教える機会を戴きました。
    今年度は4つの会計大学院(早稲田、東北、LEC、千葉商科)と3つの経営大学院(一橋、相模女子、中央)で、FP&Aに関連する科目を10科目教えています。時間はかかりますが、受講者の方々から日本企業の将来のCFOが生まれることを期待しています。

    ③ 書籍の執筆活動
    啓蒙活動の一環として、書籍の執筆活動も行っています。2019年に『CFOの履歴書』を執筆して以来、『CFO最先端を行く経営管理』、『FP&A入門』、『CFOとFP&A』(すべて中央経済社)を1年1冊のペースで執筆しています。また、日本CFO協会から2022年度に『FP&A検定公式学習ガイド』を出版しました。今年度から、AFPのFP&Aガイドの日本語版を3部作のシリーズで出版します。

    石橋 善一郎 氏
    1982年富士通入社。 1990年コーポレイト・ディレクション入社。 1991年インテル日本法人FP&Aマネジャー。 1994年インテル日本法人経理マネジャー。 1997年インテル日本法人コントローラー(FP&A・FP&A統括)。 2000年インテル製品事業部コントローラー。 2002年インテル日本法人CFO(FP&A・経理・財務統括)。 2005年ディーアンドエムホールディングスCFO。 2007年から2016年まで日本トイザらス代表取締役副社長兼CFO。 現在、米国管理会計士協会(IMA) 日本支部 Presidentおよび日本CFO協会 FP&Aプログラム運営委員会 委員長。 LEC会計大学院 特任教授および千葉商科大学会計大学院・中央大学大学院戦略経営研究科・東京医科歯科大学 客員教授。 株式会社常陽銀行 社外取締役(監査等委員)。