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石橋 善一郎 氏

【前編】FP&Aプロフェッショナルが目指したCFOへのキャリア。そして、その先に見えた自身の役割とは

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※インタビュアー/バリューアップパートナー株式会社 代表取締役 大塚寿昭
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    インテル米国本社で事業部コントローラーに

    「インテルの米国本社で働いていらっしゃいますが、日本法人から米国本社へ異動するケースは多かったのでしょうか。」

    そんなに多くはなかったですね。私がインテルの日本法人に入社したのが1991年で、米国本社に異動したのが2000年です。
    日本法人で勤務した9年間で日本法人のCFO組織から米国本社で働く権利をもらえたのは私を含めて3人でした。1990年代は、インテルの中で日本市場は重要な位置付けにあったので、将来の日本法人の幹部を育てたいという思いから本社で働く機会を作ってくれたのでしょう。さらに、ラッキーなことに米国本社で、マイクロプロセッサを企画、開発するマイクロプロセッサ事業本部のコントローラーとして働く機会を得られました。500名ほどのエンジニアがいる事業部で、エンジニアたちは、新製品を開発したり、既存製品をアップグレードしたりする10個くらいの新製品開発プロジェクトにアサインされていました。そうした研究開発部隊の事業部コントローラーなることができたのです。

    事業部コントローラーとしての役割

    「インテル本社の事業部コントローラーの経験の中で一番伝えたいことを教えてください。」

    インテルは、マイクロプロセッサの会社です。ムーアの法則(※)にあるように、新しい半導体を使って、より良いマイクロプロセッサを製造し続けていかなくてはなりません。どのような新製品をいつまでにリリースするべきかというロードマップがあり、それに沿って何にどれだけ投資するかを判断していきました。私は事業部CFOとして、毎週火曜日、朝から晩までエンジニアたちの議論に参加して、「こちらのロードマップならば、ここがうまくいく」「この製品の機能は、コストが問題だ」といった議論をしていました。
    帰国後にゴードン・ムーアさんが来日された際の夕食会で当時の経験をお話したのは、良い思い出です。
    ※ムーアの法則:インテルの創業者のひとりであるゴードン・ムーアが1965年に自らの論文上に示した法則。1個の半導体集積回路に搭載されるトランジスタの個数が毎年2倍になるとし、この成長率は少なくともあと10年は続くと予測した。1975年には、次の10年を見据えて、2年ごとに2倍になるという予測に修正。彼のこの2年ごとに2倍になるとの予測は1975年以降も維持され、それ以来「ムーアの法則」として知られるようになった。

    事業部コントローラーには、2つの役割がありました。
    1つは短期的な立場での役割です。毎月状況をモニタリングして今期の目標とする営業利益を達成するために必要なアクションを取ります。もう1つは長期的な立場での役割です。3年後、5年後に目標とした姿にまで成長させるために、ロードマップに沿って正しいタイミングで新製品を市場に出すために、研究開発費などの資源配分を決めています。 短期的な視点と長期的な視点をバランスよく見ないといけないという意味で、事業部コントローラーの責任は重いものでした。直接の部下は10人ほど。全員が、経理業務、財務業務ではなく、FP&A業務を担当しています。本社には経理業務や財務業務を担当している社員はいますが、研究開発部隊である事業部なのでFP&Aとしての役割が求められます。10人のうち、5人が短期的な業務、他の5人が長期的な業務に従事していました。

    「そこで経験したことで一番伝えたいことは何でしょうか。」

    「グローバル企業におけるFP&A組織の根幹は、事業部レベルにおけるFP&A組織にある」ということです。
    CFO組織の一員として、自分のキャリアという視点ではロールモデルになるような人たちがいる本社CFO組織を見ます。
    しかし、CFO組織において企業価値を生み出しているのは事業部レベルにおけるFP&A組織なのです。インテルの例でいえば、研究開発部隊や営業組織でFP&A業務に携わっているメンバーです。なぜならば、企業の価値は事業部の生み出す事業の価値の総和だからです。そして、それは事業部の事業戦略がきちんと回っていることによって生まれます。ですから、CFOを目指す人々に、CFO組織の1番大事な役割が事業部レベルにおけるFP&A組織にあるということを、お伝えしたいです。

    株式価値やその市場価値を上げるために、CFOは投資家を見て行動します。しかし、これは、本当の意味での企業価値を上げる仕事ではありません。CFOの最も大事な仕事は、事業部レベルでFP&A組織が事業戦略の形成・実行の当事者としてビジネスパートナーになるように、本社から支援することです。その結果として、事業価値とその総和である企業価値を長中期的に上げることができるのです。このことについては、CFOをされている方が100名いたら100人みんなが感じていることです。でも、それを言葉にして伝えられるCFOは限られています。ましてや、実際に行動で示しているCFOは本当に少ないです。

    石橋 善一郎 氏
    1982年富士通入社。 1990年コーポレイト・ディレクション入社。 1991年インテル日本法人FP&Aマネジャー。 1994年インテル日本法人経理マネジャー。 1997年インテル日本法人コントローラー(FP&A・FP&A統括)。 2000年インテル製品事業部コントローラー。 2002年インテル日本法人CFO(FP&A・経理・財務統括)。 2005年ディーアンドエムホールディングスCFO。 2007年から2016年まで日本トイザらス代表取締役副社長兼CFO。 現在、米国管理会計士協会(IMA) 日本支部 Presidentおよび日本CFO協会 FP&Aプログラム運営委員会 委員長。 LEC会計大学院 特任教授および千葉商科大学会計大学院・中央大学大学院戦略経営研究科・東京医科歯科大学 客員教授。 株式会社常陽銀行 社外取締役(監査等委員)。