COLUMNコラム

CFOインタビュー
検索キーワード
tripla株式会社/取締役CFO 岡 義人 氏

先を予測し、挑戦し続けたすべての経験が現在のCFOの道を作った

3/4 ページ

※インタビュアー/バリューアップパートナー株式会社 代表取締役 大塚寿昭
INDEX

    コロナ禍でのIPOへの道のり

    「いつ頃からCFO職として入社しようと考えていましたか。」

    現職には、2020年5月に入社しています。オファーをお受けしたのが2020年3月30日。この頃は著名芸能人がコロナで亡くなられた直後でもあり、まさに、新型コロナウイルス感染症が今後、日本でも本格的に蔓延してくと言われ、街から人が消えて行っていました。マスコミ報道等もすごく、世界が闇に包まれていくような感覚で、当然、旅行業界は大打撃を被るであろうと言われているようなタイミングでした。コロナ禍が最も厳しかったタイミングで旅行業へ行くことが怖くなかったと言えば嘘になります。あえてこの時期にこの業界に行くことに関して周囲の批判もありました。ただ、新型コロナウイルス感染症はたいへん怖い病気ではありましたが旅行自体を消滅させるような病気ではなく、ある程度時間は掛かったとしてもいずれ市場は回復すると思っていました(今となればそのように考えるのは当然と思われるかもしれませんが、当時は40万人が亡くなると言われ、元に戻ることが考えられないような空気感も漂っていました)。

    2020年春時点では、コロナに関する情報はまだとても少なかったですが、海外のニュース等も読み、一時的にひどい状況には陥るでしょうが、必ず回復すると確信できました。その回復のタイミングに上場をピタッと合わせることができれば、話題性も出るかもしれない、そうすればいいデビューになるのではなかろうかとも思いました(これは確信ではなく想像でしたが)。
    さらに、経営陣が豊富な経験を有しており、社外からの支援も厚く安定感を感じたことも決め手となりました。財務状態も拝見し、コロナ禍が継続したとしても乗り切ることは可能で、難局を乗り越えることができたら、後はスムーズにいくのではないかと思いました。ただ、そうは思っていても実際に業界に身を置いてみると、体感としての恐怖は想像以上にあったので、入社直後から財務面の手当は開始しました。

    「コロナ禍で上場を果たされましたが、最も苦労されたことはどんなことでしょうか。」

    最も大変であったことの1つは採用でした。
    特に管理系の人はリスクを嫌うので「誰がそんな厳しい業界に行くか」と思われたのでしょう。
    オファーレターにサインしてくれた責任者クラスの方でも、そこから2ケ月経過して入社直前になって「やはり行くの辞めます」と断られたことがありました。2度目の緊急事態宣言発令の影響で、ご家族から旅行関係の会社に行くことを猛反対されたとエージェントから伺いました。2カ月間ロスしたわけです。理路整然と考えればIPO達成は十分に可能であることを訴え続けましたが(結果、達成しましたし)、当時の社会環境では、雰囲気で嫌気されることが続きました。また一から採用を始めて、本当にギリギリというタイミングで複数名に入社してもらうことができました。結果オーライですが、当時はかなり焦りました。

    また、予算策定の難易度は非常に高かったです。
    コロナ禍での予算策定は、どこのタイミングで社会が落ち着き、回復していくのかという時期の前提を置く必要があります。この想定は非常に難しいものでした。また、Go Toキャンペーン等の需要喚起策の実施は事業には追い風でしたが、アップダウンが激しくなり、より予測の難易度を上げました。それでも、上場企業になる企業として、予算管理は適切に実施する必要があったため、社内外で数えきれないほどのミーティングをして、緻密に調整していきました。状況が状況でしたので同情はして頂きましたが、結果を出すということにはシビアに見られました。

    その後、結果的に、管理できる状態を作ることができました。 また、IPO準備は長きにわたる一大プロジェクトで、相当な工数を奪われます。特に、直前は厳しいものになります。これは他社でIPOを経験されたCFOの方とお話ししていても同じように仰る方が多いです。直前で期限が差し迫っている中、審査書類の作成、Iの部や成長可能性資料の作成・更新、Valuationやロックアップの交渉等の業務が同時多発的に降りかかって来ます。並行して通常業務もあります。

    「2022年11月の上場は岡さんの筋書きどおりでしょうか。」

    私としては当初想定に近い形となりました。
    ここに間に合わせるために相当な準備をして来たつもりではありましたが、IPOには一般論として、アンコントローラブルなことがたくさん起こりますので、運も大きかったと思います。旅行市場では人もだんだんと活動的になり始めてはいましたが、2022年春時点ではデータ上はまだ厳しい状況でした。ただ、初夏くらいから少しずつ回復の兆しが見え始めました(観光庁の統計上で開示されています)。

    証券審査の実質的な完了は7月下旬でしたので、初夏から宿泊市場が回復して来たことには、大げさかもしれませんが、天が味方してくれたように感じました。その後、10月くらいからインバウンドも戻り始めるのですが、ちょうど10月下旬にロードショーだったので、そこからの期待感を醸成することができる良いタイミングになったように個人的には思いました。
    コロナ禍が始まった2020年3月末に入社の意思を固めたときから、コロナ禍が明けるタイミングに上場を合わせられたらいいなと思い描いていたので、そういう意味では筋書きに近い形になりました。

    tripla株式会社
    取締役CFO 岡 義人 氏
    広島県出身。 慶応義塾大学在学中に公認会計士試験に合格し、在学時よりトーマツで勤務。 その後、ソフトバンク株式会社にて経営企画業務に携わった後、スタートアップにて取締役CFOとして財務、管理全般を担当。 2020年5月のコロナ禍中に旅行業界に転身し、2022年11月に東証グロース市場に上場を果たす。