他部署とはギブアンドテイク
「CFO組織と関係部署との関係性はどうあるべきだと考えますか。こちらから指示を出すべきなのか、それとも、互いにコミュニケーションとって実行していく関係性が良いのでしょうか。」
お互いにコミュニケーションをとることが大切だと思います。例えば、経理であれば、開示や決算についての責任は経理部門にあります。よく、「営業が請求書を出してこないから、締められない」という話を聞きます。もちろん提出しない営業部門にも問題はありますが、決算を締められないことは経理部門の責任です。営業から書類が出てこないなりに締める、あるいは、出てくるようにすることまでが経理部門の仕事だからです。そのためには、日常的に他部署と関係性を築いていくことが重要です。誰もが自分の仕事が一番大切で、それ以外の仕事は優先順位が下がるものです。その前提を理解した上で、依頼したりリマインドしたりすることが必要ではないでしょうか。また、ギブアンドテイクが大事なので、他部署から依頼を受けることがあれば、横柄な態度を取らず丁寧に素早く対応することも大切だと思います。
「CFO組織内での部下との関係性のあり方や育成についての考えをお聞かせください。」
社内では上司と部下でも、会社を一歩出たら人対人です。だから、あまり偉そうにするのは好きではないですね。部下を信頼して1人の人として接することが重要ではないでしょうか。とはいえ、私の管轄は、経理・経営管理、総務、審査部で、部下全員に対して手取り足取り教える余裕はないので指示は出しています。
育成は、最も難しいことですね。自分がどう成長してきたかを考えると、色々な先輩に助けてもらいながら、仕事を見つけて、やりたいことにただひたすら打ち込んできました。若い頃の3年間は、月に160時間残業し、1日だけ休むというような生活を続けていました。
1万時間取り組むと、どんなことでもその道の専門家になれるという「1万時間の法則」がありますよね。差別化という意味では、その1万時間を他の人よりはやく達成する必要があります。同じ仕事を10年かけてやる人と、5年かけてやる人がいたら、ビジネスシーンにおいては早い方がいいわけです。月に40時間残業する人は、残業しない人より3年間で1年分進んでいることになります。また、知らない仕事で結果を出すためには、効率を考えても答えは出ないので、ひたすら打ち込むしかありません。
そういうふうに考えると、やはり量が必要という単純なことなのですが、部下に同じことを強いることは、当然しません。ですから、少ない人数で凝縮して打ち込むというよりも、人を増やして体制で回していくことが大切なのかなと思います。やはり育成って難しいですよね。

期待値を上げすぎないIR
「上場会社のCFOとして企業価値向上のために注視している経営指標を教えてください。」
シンプルに、営業利益、売上、株価ですね。
「御社の場合は、不動産や固定資産はないので、「営業利益=キャッシュフロー」になるのですか?」
ほぼイコールですね。そのため、ビジネスでは、キャッシュフローを重視しています。具体的には、先にお金が一方的に出ていかないようにしています。家賃保証をスタートする際に、入居者から保証料をもらうのですが、入居者が滞納をすると、我々が代位弁済をする必要が出てきます。それを回収して、翌月また新しい代位弁済が出て、立て替えて、回収するという流れです。契約が積み上がっていくと、この代位弁済で出ていく金額がどんどん膨らんでいってしまうのです。つまり、銀行がお金を貸してくれなければ、成長が止まる。回収が追い付かなければ、会社が倒産するということです。そのジレンマから抜け出すために、キャッシュを工夫しました。
出ていく部分は、カード会社の資金や収納代行会社の資金を使い、滞納して残った分だけを我々が回収に向かうという商品を作りました。これにより、キャッシュが積み上がりやすくなりました。逆に言うと、お金が貯まりやすくなったので、投資に回したり、配当に回したりすることができています。現在の中期経営計画では、来期は40の配当性向を2027年3月期に60に上げる予定です。
「IR活動で気を付ける点がありましたら教えてください。」
基本的には嘘をつかない。話す内容をミスリードしない。あまり期待を持たせすぎないようにするということです。要は、期待値のコントロールですね。例えば、新しいビジネスがスタートする時には、大きく成長し、スピードを速く見せたいと思うものです。しかし、やりすぎは禁物です。投資家とは1回限りではなく、長くお付き合いしていきたいので、期待が剥がれて失望売りが起こらないように心がけています。
CFOに求められるスキル「楽しく」
「CFO業務を全うするために必要なハードスキルとマインドは何でしょう。」
求められるスキルは人によって違いますが、私は会計士なので、経理財務のスキルが重要だと思います。CFOにお金を引っ張ってくる能力が求められる会社もあると思います。その人がジョインする会社が求めているスキルは様々なので、唯一無二の正解はないと思います。
大切なことはマインドではないでしょうか。さまざまなことが起こって、自分の思い通りには進まないので、ポジティブな方でないと務まらないかもしれません。うちの会社は「明るく、楽しく、真剣に!」が社是です。「楽しく」を真ん中に置き、最も大切にしています。私は、限界まで働くタイプですが、楽しさがなく苦しいだけでは続けられません。明るくて、何か起こったときに「何とかなる」と思える楽観さ、これらはベンチャーでやっていくためには大切だと思います。毎日眉間にしわを寄せて仕事はできないですよね。
「ベンチャーのCFOになるためには、どんなキャリアがお勧めしますか。」
会計士も1つですね。また、証券会社、コンサル出身もいいと思います。或いは、小さい会社でいいので全体を見た経験があることも大切かなと思います。ビジネス全体、会社の業務全般をイメージできるとやりやすいのではないかと思います。
CFOの魅力は、社長と会社を大きくできること
「CFO職の魅力は何だと思いますか。」
社長と一緒に会社を大きくできることは、大変さもありますが、やはり楽しいです。会社を成長させるためにはどうしたらいいか色々と悩みますが、それができること自体も魅力だと思います。
「最後に今後の目標があったら教えてください。」
この会社を成長させたいですね。そして、先ほどの育成の話とも関係しますが、組織を強くしたいです。今は、売上100億くらいですが、500億、1000億になったときに、それに見合った組織になっている必要があります。そもそもそういった組織でなければ、目標とする売上規模には到達できないとも思います。だから、少しずつでもいいので、組織を強くしていきたいです。
目標というよりは一旦の目安として、株価を公募価格の315円の10倍、3150円にしたいと考えています。現在は、800円なので、そのためにできることを逆算して、着々と進めていきます。