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リガク・ホールディングス株式会社/専務執行役員CFO 三木 晃彦 氏

大手外資系企業と日系企業でのCFO経験 唯一無二の存在が語る経営の醍醐味とは

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※インタビュアー/バリューアップパートナー株式会社 代表取締役 大塚 寿昭
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    56歳にして、初の日系企業に転職

    「56歳の時に日本の大手メーカーに転職します。外資系企業出身の方が55歳を過ぎても日本の大手企業に転職できるモデルケースになったのではないでしょうか。転職できた理由は何だと思いますか。」

    多くの日系企業は変革を求めていると思います。収益性は欧米系の企業より低く、特に海外投資家からは、改善が求められています。そうした中で、私の大手外資系グローバル企業での管理会計における経験と実績が、期待されたのだと思います。特に入社した日本板硝子社(NSG)は、日系企業でありながら海外での事業規模や社員数の方が大きいので、外資系企業でのマネジメント経験者へのニーズがあったのだと思います。
    高齢化が進む日本においては、55歳を過ぎた人材でも企業からのニーズは少なくないでしょう。大切なことは、企業から必要とされる実績を積んでいて、変化に柔軟に対応する自信があり、継続したスキル研鑽への意欲があることではないかと思います。

    「日本板硝子での責任業務内容を教えてください。そこでは外資系での経験・スキルがどう生かされていますか。」

    最初の2年は英国に赴任し、グループ全体の月次業績レポーティング、予算・予測・中期経営計画策定の役割を担いました。日本板硝子は、売り上げ規模が2倍以上ある英国のピルキントン社を買収した会社で、日本板硝子グループの主要なファイナンス機能が英国にあったためです。新しい会社、新しい国、新しい業界、というチャレンジではありましたが、外資系企業で培ってきた管理会計の経験とノウハウ、英語力、そしてグローバルで通じる会計資格があったので、臆することなく臨みました。

    日本に帰任してからの2年間は、アジア地域の経理統括の役割を担いました。これまで管理会計の仕事が多かったのですが、制度会計、税務、内部統制に時間を使うことが多くなりましたね。決算、監査、開示業務を経て、IRと連携し決算発表を準備していく等、本社におけるファイナンス部門の役割を初めて経験しました。また内部統制に関しては、以前の外資系企業での経験や著作等を通じて得た知見を、大いに活用することができました。

    新たな挑戦「IPO」に踏み出す

    「現在はリガク・ホールディングスで専務執行役員CFOとして活躍なさっています。リガクとはどんな会社ですか。また、CFOとしてどのようなミッションを与えられ、その達成にどう経験とスキルが生かされると考えていますか。」

    リガク・グループはX線を中心とした分析装置メーカーで、グローバルのトップ・プレイヤーです。X線と言えばレントゲンのイメージが強いですが、X線回折や蛍光X線による半導体・電子材料、ナノテクノロジー・新素材、ライフ・サイエンスなどの分野での分析・測定技術は、多業種における研究開発、品質管理などの目的で高い需要があります。約70年前に日本で立ち上がり、オーナー企業として成長してきた会社で、現在はIPOを目指しています。

    私はリガク・グループのCFOとして、グループ全体の経理・財務の責任を担っており、IPOに向けても多くの準備を行っています。日本発のグローバル・カンパニーとして、会社が中長期的に成長することへ貢献することが、大きなミッションです。
    この役割において、今までの経験を生かせる機会は多いと思います。例えば、大手外資系企業で培ったグローバル経営管理の手法、M&Aや小規模の会社で経験した経理・財務組織の立ち上げと変革、日系企業で学んだ本社ファイナンス部門の機能、複数の国や業種の会社を経験したことによる多様性への対応などです。そしてIPOやIRを含めたグローバルCFOとしての役割は、これまでのスキルと経験をフル稼働して挑む、初めての機会となります。

    CFOの魅力

    「CFO職の魅力をぜひお聞かせください。」

    財務データという客観的事実から問題を把握し、適切なアクションを推進し、ビジネスに貢献できることは、CFO職の魅力の一つだと思います。会計は世界に通じる「言語」でもあるので、グローバルに活躍する機会も得られます。

    そして最大の醍醐味は、以下の側面から企業価値の向上に貢献できることです。
    ①管理会計・財務施策等を通じて、会社の業績と安定性を向上させること
    ②投資家への対応を通じて、株価の向上に寄与すること
    ③制度会計・内部統制等を通じて、会社の基盤を強固なものにすること

    「CFOに必要なスキルは何だと思いますか。外資系企業と日本企業で共通するものと、相違点を教えてください。」

    株式会社の歴史的背景からと思いますが、外資系企業、特に米国系企業の方がCFOの役割が幅広く、日系企業の方が他組織に分散されている傾向があると思います。とは言え、本来、外資系企業でも日系企業でもCFOに必要なスキルは共通していると思っています。
    必要なハードスキルは管理会計・制度会計・税務・財務のリテラシー、英語力、テクノロジーを活用するスキル、そしてビジネスの知識ではないでしょうか? ソフトスキルは、事業部と良いパートナーシップを実現しようとする姿勢、コミュニケーション力、自分を問題の中心におく意識、独立した視点で判断する意識、そして特に大事なのは、企業価値を向上させようとする思考だと思います。

    「CFOとして、CEOやCOOとどのように向き合ってきましたか。」

    ファイナンスの専門性をもったビジネス・パートナーという姿勢で向き合ってきました。このパートナーシップの中には、支援、管理、牽引の関係が生じ得るのですが、独立した視点で対峙することが、付加価値を高めると思っています。

    「部下のマネジメントで気を付けていたことがあれば教えてください。」

    複数の会社での経験から、キャリアに対する個々のニーズを把握し、それに見合ったアプローチを柔軟に行うことが大事だと思っています。1stラインだった時は、仕事・仕事以外を含めてスタッフとの1 on 1コミュニケーションに多くの時間を使っていました。部門長になってからは、各スタッフにできるだけメッセージが届くよう、全体ミーティングを多く行うようにしています。勿論、必要に応じてスキップ・インタビューを行い、個別の状況を把握するように努めています。各社員のキャリアを検討する、人財会議にも力を注いできました。最近特に意識しているのは、多様な価値観への対応です。
    組織の人たちの成長とキャリア・アップを支援し、モチベーションを高めて貰えることが、マネジメントの最も重要な役割だと思っていますので、今後も継続して努力していきます。

    「日本企業の経営管理についてご意見をお聞かせください。」

    日本企業の経験が少ないため適切な意見であるか分かりませんが、曖昧さや属人的な管理手法が少なくないと感じます。また言うべきことを言わないカルチャーも、あるように思います。そうした点においては、外資系企業のオープンさという良い点を、積極的に導入して良いと思います。
    一方で、日本企業には短期よりも中長期を重視し、人や過程を大切にする文化があり、これは良いことだと思います。外資系企業に多い短期志向のカルチャーに、気付かぬうちに染まっていた自分を見直し、成長させてくれる機会だと思っています。

    「最後に三木さんの今後の目標や夢を教えてください。」

    リガク・グループの中長期的な成長に寄与することです。シンプルではありますが、今までの経験と習得してきたスキルを総動員し、新しいことに取り組み、グローバル企業のCFOとして成果を出していくことは、とても大きな目標です。
    また会計分野のアカデミアやプロフェッショナル団体との継続した活動と学びから、実務に幅と奥行を持たせると共に、人的ネットワークを一層充実させたいですね。本日の機会もこうしたネットワークがあったおかげで実現しましたし、かけがえのない財産だと思っています。

    リガク・ホールディングス株式会社
    専務執行役員CFO 三木 晃彦 氏
    慶應義塾大学経済学部卒。 日本IBM(株)に新卒で入社し、予算管理(米国駐在を含む)、価格設定、事業部CFO等を務める。 その後、レノボ・ジャパン(株)の取締役CFO、ピアソン桐原(株)のCFO兼COO、日本IBM(株)(理事として再入社)で2つの事業部CFO、日本板硝子(株)の執行役員としてグループ業績管理(英国駐在)と経理部アジア統括を務める。 2022年6月に株式会社リガクに入社、8月より現職。 日本における米国公認会計士の団体である一般社団法人JUSCPA(Japan Society of U.S. CPAs)の理事。
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