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リガク・ホールディングス株式会社/専務執行役員CFO 三木 晃彦 氏

大手外資系企業と日系企業でのCFO経験 唯一無二の存在が語る経営の醍醐味とは

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※インタビュアー/バリューアップパートナー株式会社 代表取締役 大塚 寿昭
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    M&Aでレノボ・ジャパンのCFOへ

    「その事業部で大きな出来事が発生し、三木さんの人生が大きく動き出します。その経緯を教えてください。」

    PC事業部のCFOになってから約2年後に、IBMはPC事業を中国のレノボ社に売却しました。IBMはより高度な技術で差別化を図れる事業に集中し、PC事業は中国市場で大きなシェアを持ち、世界進出を計画していたレノボ社に移すことが、両社にとってメリットがあるという判断に至ったためです。私はPC事業部のCFOでしたので移籍することになり、初代のレノボ・ジャパンCFOとなりました。

    「ここからの5年間ほどは、どのようなことがありましたか。」

    当初はインフラやブランドなどのPMI(Post Merger Integration)が中心でした。日本においては、ほぼすべてのマネジメントがIBMから移籍した人達でしたので、IBM PC事業部のカルチャーが色濃く残っていましたね。しかしその後に他社から多くのマネジメントが入社し、様相は一変しました。IBM時代の経営管理手法も変わり、PC事業を更に成功に導くための手法を、多様な経験を持つプロフェッショナルから学んでいくことになりました。
    一方でIBMという世界トップクラスのブランドのPCから、当時はまだブランドが殆ど認知されていなかった中国企業のPCになったことで、厳しい状況になることもありました。

    「そのような苦境を乗り越えていったのですね。」

    買収から数年後、中国レノボ社の人たちがグローバルの経営に深く関わるようになりました。最初はこうした目まぐるしい動きに戸惑いましたが、変化に対する耐性が培われてきたのか、変革を楽しめるようになりました。当時の社長が新たなカルチャーの構築にとても力を入れられ、製品、営業、マーケティングなど多くの部門での努力も次第に実を結び始め、売上やシェアが上がっていきました。

    「レノボにいた5年間でどんなスキルが身に付いたと思いますか。」

    激動の日々でしたが、多くの学びと成長の機会を与えてくれました。例えば、「Attention to detailの重要性」、「変化の中に、新たな機会が生じる」、「多様な文化やバックグラウンドのある人たちとの協業」、「データをもとにした、迅速な意思決定」、「B/Sへのフォーカス」などです。

    「この期間にも執筆されていますよね。」

    IBMのPC事業部にいた時に、米国でSOX法が導入され、その法制度を日本IBMにも導入するプロジェクトに深く関わりました。そしてレノボ・ジャパンにいた時に日本でもJSOXが導入されることになりました。以前、米国公認会計士のガイドやグローバル会計に関する本を一緒に書いた米国公認会計士ソサイエティの仲間から、「JSOXに関する本を書かないか?」という声がかかり、米国SOX法対応の経験を基に執筆し、共著で出版させていただきました。SOX法への対応をドラマ仕立てで書いた、ユニークな専門書となりました。

    管理会計の仕組みを構築したピアソン桐原での経験

    「その後、異業種の外資系企業に転職しています。どんな立場でどのような仕事に携わったのですか。」

    日本IBMのPC事業部とレノボ・ジャパンでの合計7年間、CFOの役割を担ってきたので、今後の具体的なキャリアを考えるようになりました。そんな中、英語教育の本の出版を主体としたイギリスのコングロマリットであるピアソンの日本法人であるピアソン桐原から、CFOとCOOを兼ねたポジションで機会を頂きました。英語教育には興味がありましたし、本の出版にも著作を通じて関心を持っていました。全く違う業界、欧州の会社、CFO以外の役割もあるなどの理由から、変化を求めて転職する道を選びました。

    ピアソン桐原では、CFOとして決算、予算・予測の策定、業績報告、内部統制、信用審査、経理業務の外部委託化などを行いました。COOとしては、印刷コストの低減、受注・出荷・物流の管理、在庫管理、出版企画のレビューなどに携わりました。
    これまでの会社では、経理の仕組みや組織ができあがっている中で、仕事をしてきました。しかし、ピアソン桐原には管理会計の体制がほとんどなかったため、データの収集から作成、分析、親会社の経営陣へのプレゼンまで、たくさんの作業を自分で行いました。物理的にかなりしんどかったですね。ただこの経験により、ビジネスをモデル化することができ、その後の予実管理、予算策定等の効率化を実現できたと思っています。

    7年ぶりのIBMで高難度の事業部CFOを経験

    「ピアソン桐原に約2年勤務の後、日本IBMに再就職します。その経緯をご説明ください。」

    IBMでアウトソーシング事業に携わっていたころにお世話になった人たちから、お声をかけていただきました。ただピアソン桐原のことも好きでしたし、2年間で変革した体制が軌道に乗り始めたので、辞めることに関しては相当悩みました。しかしながら、IBMから離れたのはM&Aという外的要因があったためで、決して会社が嫌になったからではなく、また声をかけて頂けたという機会の大切さを重視し、IBMに再入社する決断をしました。

    「7年ぶりに戻ってきた日本IBMでは2つの事業部でCFOとして活躍します。経営管理手法における変化はありましたか。」

    この7年の間に日本IBMが上位組織のIBM APから分かれ、レポート先が米国のIBM本社になりました。経営管理手法は益々強化され、ビジネスレビューも厳しさを増したように感じましたね。以前はIBM APが間に入ってくれて、和らげてくれていたところがあったのでしょう。本社に直接レポートすることの責任と役割の重さを感じました。

    「2つの事業部では具体的にどんなことに携わっていましたか。」

    前半の3年間は、システムズ・ハードウェア事業部のCFOでした。メインフレーム、サーバー、ストレージなどを扱う事業部で、以前所属していたPC事業部もハードウェアが中心でしたので、比較的入り込みやすかったです。
    後半の3年間で担ったのは、グローバル・テクノロジー・サービス事業部のCFOでした。アウトソーシングを含むシステム・インフラ周りのサービスやHW・SWの保守サービスなどを扱う事業部で、グローバルでの売り上げはIBMで最大でした。ビジネスの構造は複雑で、管理は難しかったです。特にハードウェア事業では工場が原価管理を行うのですが、サービス事業ではサービスのデリバリー部門とファイナンス部門が一緒になって原価の計画と管理を行うので、その負担と責任は大きかったですね。

    外資系企業CFOになるためのスキル

    「大学卒業後、33年間、大手外資系グローバル企業で勤めてきた経験から、外資系企業のすばらしさと厳しさを教えてください。」

    外資系企業のすばらしさは、
    ①あまり上下関係を意識することなく、言うべきことが言える文化があること
    ②年功序列ではなく、実力や成果でより高いレベルの仕事、役割、機会を得ることができること
    ③どのようなバックグラウンドの人たちにも、多くのチャンスが与えられていること
    ④FP&A部門が重要な意思決定の役割を担うことを、会社が強く認識していること

    一方で厳しさは、
    ①成果主義であり、結果を出すための厳しい管理プロセスが展開されていること
    ②結果を出せなければ、それが報酬や昇進に大きく影響してくること
    ③リストラが生じることが少なくないこと
    ④短期的な視点に立つ傾向があり、業績へのプレッシャーが大きくなりやすいこと

    「大手外資系グローバル企業でCFOを目指す場合、どのようなステップがあるのでしょうか。そのステップを登るために必要な資格やスキルは何でしょうか。」

    管理会計(FP&A)の経験を積むことが大事だと思います。FP&Aはビジネス・パートナーとして、事業を動かす現場の人たちと協業する役割であり、ビジネスに直接的に貢献できる機会が多いからです。ちなみに私は制度会計・税務・財務という役割をスタッフとして担ったことはなく、FP&Aや価格設定などの管理会計分野でキャリアを積んできました。制度会計・税務・財務という分野で経験を積むこともとても大切なので、私の場合は少々、バランスが悪いと思います。
    スキルや資格という観点では、米国公認会計士の勉強で会計や税務の基本を学び、米国公認管理会計士の勉強でFP&Aの理論や意思決定手法などを学んだことは、CFOへのキャリアに有効であったと思います。ただいずれも資格だけでは不十分で、実務に生かして実績を作り、継続教育を受けてスキルを維持・向上させることで、有効に活かせるものと思います。

    リガク・ホールディングス株式会社
    専務執行役員CFO 三木 晃彦 氏
    慶應義塾大学経済学部卒。 日本IBM(株)に新卒で入社し、予算管理(米国駐在を含む)、価格設定、事業部CFO等を務める。 その後、レノボ・ジャパン(株)の取締役CFO、ピアソン桐原(株)のCFO兼COO、日本IBM(株)(理事として再入社)で2つの事業部CFO、日本板硝子(株)の執行役員としてグループ業績管理(英国駐在)と経理部アジア統括を務める。 2022年6月に株式会社リガクに入社、8月より現職。 日本における米国公認会計士の団体である一般社団法人JUSCPA(Japan Society of U.S. CPAs)の理事。
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