クレオでCEOに就任
「5年経過して一度ヤフーに戻った後で、今度はクレオに社長として戻ります。CFOとして大変な苦労をした後に、あえて社長に挑戦した理由を教えてください。」
本部長の立場でヤフーに戻ったのですが、本部長は役員の一歩手前くらいのポジションで、それでも巨大企業の中の1ファンクションです。自分で舵取りをしていたクレオでの仕事の方がおもしろいと感じました。ちょうどクレオの創業者から、「転籍して社長になってほしい」と言っていただいたので、社長として戻ることにしたのです。
「社長・CEOの立場とCFOの立場とでは、会社の見え方が違いますか。その1年間はかなり濃い経験をされたと思いますが、どんなことを学びましたか。」
1年しか務めていませんが、社長かそうではないかの違いは大きかったです。神経の張り巡らせ方や力の湧き具合も異なっていました。もちろんCFOの時も一生懸命取り組んでいるのですが、やはり社長という立場の重みは感じました。
ヤフーCFOとして500名ほどの組織を管掌する極意
「1年後にヤフーのCFOに就任します。その経緯を教えてください。」
ヤフーの社長が宮坂(学)さん、COOは川邊(健太郎)さん、という体制になるタイミングで、「CFOをやってくれないか」とお声がけいただきました。ヤフーに入社したときに、「いつかはCFOをやってみたい」と思ってはいたのですが、クレオに転籍して社長になってまだ1年目の段階だったので悩みました。しかし、「やってみたい」という思いが強かったのでお受けすることにしたのです。
「6年前のヤフーとは大きく変わっていて、現状を把握するだけでもかなりの時間を要したかと思いますが、どのように状況を把握したのでしょうか。」
就任する前に1ヶ月ほど、毎日、経営企画やIRチームのメンバーと話をする機会を作って、現状の把握、全社や管理部門における課題感をつかんでいきました。
「ヤフーのCFOの管掌部門を教えてください。また、管理部門のトップとしてどのようにマネジメントをなさっていましたか。」
CFOの管轄は、経理財務、人事、法務、広報、経営企画とコーポレート部門全体でしたので、当時総勢500名ほどの組織でした。法務だけでも100名いました。
マネジメントについては、各領域に信頼できる責任者を置くようにしました。ヤフーのCFOになって、各領域のプロフェッショナリティは持てないということを痛感しました。財務経理は舵取りができるとしても、例えば、法務について専門的な知見から物を申すことはできません。結局、任せざるを得ないのです。
ヤフーに2003年に入社し、CFOになる2012年までの9年間のうち、半分はクレオにいましたが、それでもなんとなくキーパーソンになる人の仕事ぶりや人となりがわかっていました。ですから、信頼できる人に経理責任者、人事責任者、法務責任者、広報やIR責任者、経営企画責任者になってもらいました。そして、その責任者との関係、要はコミュニケーションの質と量を徹底的に上げることで、1つのチームとして機能させようと考えたのです。
経営課題とは、複数の領域にまたがるものです。お金の側面にも関われば、人の側面にもつながっています。それぞれの領域が縦割りにならないようにすることが重要なので、少なくとも責任者レベルでよく話し合えるようにすることを目指しました。
さらに、責任者たちを盲信することも危険なので、もう一階層下の人からも話を聞くようにしていました。そうすることで、バイアスがかかっていないか、情報が正しいかを確かめることができると考えました。また、この働きかけは次世代の人材の育成という意味でも有効でした。
このようにして、自分が管掌する部門をマネジメントしていました。
「事業部門の情報はどのように得ていましたか。」
ヤフーで確立して、現在のグリーでもやっているのは、今の言葉でいうFP&AやHRBPのファンクションを作るという方法です。要は、事業部門の現場にコーポレート部門の人材を派遣して、現場の責任者と二人三脚で、予算や計画を作る、経営管理をする、プロモーションなどの投資判断をしてもらうのです。これは、事業を掌握し、成長させるために必要なことでした。事業責任者から話を聞いて状況把握をすることも大事ですが、客観性がないケースもあるため、その点を担保してくれるFP&Aの存在はすごく重要でした。ただ、これらの人が、事業責任者から信頼されないと仕事にならないという難しさもありました。
「大矢さんがその制度を導入したのでしょうか。」
そうですね。紆余曲折を経てその仕組みに落ち着きました。事業部門に配属したこともあったのですが、どうしても便利屋みたいになってしまうという反省が生まれました。ファイナンス人材を育てるという意味でも、「コーポレート寄りの仕事と事業部寄りの仕事をバランスよく経験することが大事だ」と会社を説得して、そのような体制となりました。

巨大企業のCFOに求められる倫理観
「クレオのCFOとヤフーのCFOの共通点と相違点を教えてください。」
単に数字を扱うのではなく、マネジメントをして会社を成長させて、企業価値を上げることが大事だという点は共通しています。
業務の幅は異なりますが、やることの本質はそんなに変わりません。
異なる点は、市場から見られる注目度で、ヤフーはIRがものすごく大変でした。ソフトバンクやアメリカのヤフーなどの株主との調整もCFOにとって重要な役割だったのです。
また、人を通じて組織的に結果を出す必要性があるので、人事に割く労力も大きかったです。他には、組織が大きく現場との距離が離れるため、仕組みを作って物事を動かす比重が大きくなりました。
「ヤフーという巨大企業のCFOを6年間続けてこられた土台には何がありますか。」
毎年大きなテーマを扱っていたからでしょうか。アスクルや一休のM&Aなどもあり、一つ一つのテーマの達成感が大きく、それが後押しとなったと思います。
「何をよりどころにして重要な決断をくだしてきたのでしょうか。」
大きな目標や方向性を決める時、困難な状況の時は、倫理観や正しさの基準、大義を持つことを心がけていました。大きな会社だと、多くの人を動かさなければなりません。単に「利益を上げたい」「競合に勝ちたい」では響かないので、何らかの御旗が必要です。自分自身においても、倫理観や大義があると力を増すことができます。
そして、会社の成長に力点を置くことです。「自分は守りの人」、「数字だけ追っていればいい」という視点だと、あまり高い次元のことができません。成長に力点を置くことについては、株主も社長も事業責任者も誰も反対しないでしょう。
とはいえ、会社の状況をきちんと可視化した上で、ロジックを積み重ねる役割でもあります。事業のことは事業責任者の方が絶対に詳しいので、ロジックでしか話し合いはできません。その中で、私はあえて空気を読まず、予定調和にせず、健全な合意形成をするように心がけていました。それは、予定調和の意思決定は質が高まらないと考えているからです。例えば、株主視点では「こうあるべきじゃないの?」というところについてはきちんと指摘するようにしていました。