CFOのモチベーションは報酬でない方がよい
「ここ数年でCFOの報酬が上がっているようです。これまでは、800〜1200万円ほどでしたが、今は1000〜1500万円ほどと耳にします。」
報酬が上がることは良いことですよね。しかるべき報酬をもらいつつ、モチベーションの中心がお金ではない方がCFOには向いていると思います。給料の高さがモチベーションとなる方は、スタートアップには向きません。そうではなくて、「これまでは金融機関でIPOを支援してきたけど、この会社で自分でIPOを実現したい」「前回はスモールなIPOだったので、今回は1000億以上のIPOを担いたい」というようにキャリアアップがモチベーションの方だと、CEOや投資家と目線が合います。ちなみに、本当に優秀なCFOは、どんな環境でもお金を稼げるので、報酬について細かいことを言わない方が多いです。
また、優れたCFOによって、優秀なファイナンスやIPOができるという事例が増え、「CFOの給料は自分より高くていい」と考えるCEOが増えていくと良いですね。CEOは、株を多く保有しているので、上場すれば相当な額のキャピタルゲインを得られます。すぐに現金化はできなくても資産にはなる。そう考えて、CEOの倍の報酬をCFOに払っていくといったカルチャーになると良いですよね。
「ストックオプションもやる気を奮い立たせる道具としては大切かと思いますが、どのような認識をお持ちですか。最近は、CFOの採用通知書にストックオプションの数量まで記載されるようになってきているようです。」
素晴らしいことですね。スティーブ・ジョブズも「ストックオプションをいくら渡すから入社してくれ。将来これくらいになるから」と言って優秀な人材を口説いて採用していたようですよ。
「これまで出会ったCFOの中で、特に印象に残っている方について教えてください。」
直近で投資をさせていただいた、電動マイクロモビリティのシェアリングサービスをしているLUUPのCFOの向山さん(向山 哲史氏)は、事業の理解度が高く、素晴らしいです。もちろん、社長の岡井さん(岡井 大輝氏)にもインタビューをしましたが、向山さんと事業のポテンシャルやリスクも含めて、数字に落とし込んで会話ができました。
ちょうど7月に改正道路交通法が施行となり、電動マイクロモビリティに関する交通ルールが変更になりました。免許なしで乗れる、スピードが出せる(上限時速15キロから20キトに変更)ということでLUUPにとってはすごく追い風ですが、その分事故が起こるリスクも高まるといったマイナス面も出てきています。社会インフラを提供する会社として、社長の岡井さんはその対応に奔走しなくてはなりません。こうした背景もあり、投資家に対するプレゼンテーションは向山さんに任されています。結果的に、今回45億円の資金調達を実現されました。すごく良い方が加わったのではないかと思っています。IPO前なので、頑張ってほしいです。
私がVC業界に参画した2003年と比べると、現在は本当に優秀な方がスタートアップのCFOになってくれるようになりました。隔世の感があります。それだけ、皆さんが成功できる可能性を感じてくれているということなのでしょうね。
日本ベンチャーキャピタル協会への思い
「山中さんは、日本ベンチャーキャピタル協会の理事をなさっていますが、その組織の活動目的を教えてください。」
VC業界全体の発展を目指して互助の精神で務めています。
前職のモバイルインターネットキャピタル時代にも一度、理事を務めました。私は3代目の同社社長でしたので、ある程度、社歴も事業の基盤もあるベンチャーキャピタルという立場から理事を担いました。
現在のi-nest Capitalは、立ち上げて3年半になります。そのため、新たなVCという立場で理事を務めています。ジャフコやグロービス、インキュベイトファンドなどのように、6号ファンド、7号ファンドと歴史あるVCもいらっしゃいますが、我々のように1号ファンドを立ち上げたばかりのVCもあります。それぞれに多様な課題があるので、業界全体としてノウハウを共有したり、必要な課題をケアしたり、法制度に対応したりと活動を広げています。
「ロビー活動もなさっていますか。」
業界全体をアピールすることは協会の重要な役割なので、ロビー活動も行っています。例えば、大きな活動として、国内外の機関投資家からの投資を目的としたパフォーマンスベンチマークがあります。投資パフォーマンスをデータとして整え、機関投資家の方にプレゼンテーションをできる状態にする。日本のVCは、欧米のVCに遜色がないパフォーマンスが出せると示すことで、機関投資家からしっかりお金を受け入れられるようになります。
先ほど、企業にも新陳代謝が必要だというお話しをしましたが、企業だけでなく、VCにも新陳代謝が必要だと考えています。先行しているVCが洗練されていくことも大事ですし、新しいVCが出てくることも重要です。世の中に1つの大きなメガファンドしかなければ、そのファンドに断られたスタートアップは資金調達ができなくなってしまいます。多様な視点を持ったVCが存在し、多様なスタートアップを支援していく。これが健全な業界の姿だと考えています。
日本ベンチャーキャピタル協会には、知見や経験が豊富な理事の方が大勢いらっしゃるので、そういった方々を中心にVC業界全体を底上げし、地位向上をはかっていく。VCの地位が向上していけば、間違いなくスタートアップも地位が向上します。逆に言えば、VCが資金を供給していますので、VCが細っていくのに、スタートアップが栄えていくという社会はあり得ません。

多様なVCが多様なスタートアップを育てるエコシステムの発展
「新しい産業の創造や技術革新による成長においてVCの役割はますます大きくなっていくと思います。そうした中での山中さんの今後の抱負をお聞かせください。」
おかげさまで様々なスタートアップが成功を収めています。例えば、我々は投資をしていませんが、今年は宇宙スタートアップのispaceが上場しました。月への着陸の期待が高まることで株価が上がり、着陸が失敗すると株価が下がり、次の挑戦として、NASAへの売り上げが見込めそうとなれば株価が上がる。こうした激しい動きの中で、スタートアップを体現している会社が頑張っています。スタートアップの成長や成功なくして、日本に新しい産業は生まれてきません。この流れをより確かなものにしていきたいですね。
また、我々のVCでは、若手のベンチャーキャピタリストの育成にも力を入れています。小さなVCなので、新入社員をたくさん雇用することはできませんが、若手をしっかり登用して、次の世代を代表するようなキャピタリストを育成したいと考えています。VCは次世代を作っていく仕事なので、若手を育てていく必要があるのです。
まずは、自分の会社をきちんと成長させていくことが第1ミッションですが、それに加えて、多様なVCが多様なスタートアップを育てていくエコシステムを発展させることに貢献したいと思っています。これが、私自身がVC業界にで活動している理由です。
「日本に新しい産業を生むためには、多様なVCが多様なスタートアップを育てていく必要があるのですね。」
はい。その一方で、VCはある意味、スタートアップを淘汰していかなくてはならない立場でもあります。スタートアップは、次の世代に付加価値を残すことに取り組むことで存在価値が発揮されます。スタートアップだからといって、理由もなくチヤホヤされて、資金調達ができるわけではないのです。
我々は、現在39社に投資をしていますが、裏を返せば、それ以外の企業への投資はお断りしている状況です。我々の判断が100%正しいわけではありませんが、我々なりに、次の世代に残していくべきものを選別するという責任感を感じながら日々向き合っています。
「次の世代に残すべき企業の選別にVCが関わっているのですね。」
そういう意味で、VCは、投資家の資金をお預かりして、最大限の緊張感を持って、全身全霊全力で取り組まなければいけない仕事です。好きか嫌いかで判断するということは絶対にあってはいけません。このスタートアップを次の世代に残してよいのか。世の中に対してソーシャルグッドであればいいわけでもありません。付加価値のある、つまり稼いでいく力も含めて世の中に残していくべきものを投資家の立場から選んでいく。私も日々勉強をし、適切な判断をしていかなくてはいけないと思っています。
