CFO、管理本部長、経理、財務、経営企画の管理職、担当者の方々に必要な知識として、ファイナンスに焦点を当て、お役に立てる情報を前回に続き記載してみました。
前回は、将来のフリーキャッシュフローからDiscounted Cash Flow (DCF)法を用いて、企業価値と株式価値を求めましたが、割引率は株主資本コストと負債コストの加重平均資本コスト(Weighted Average Cost of Capital 、WACCと略す)を活用しない簡便な方法で算出しました。
今回は、将来のフリーキャッシュフローからDCF法を用いて企業価値と株式価値を算出する際に、割引率としてWACCを用います。WACCの株主資本コストの算出で、資本資産価格モデル(Capital Asset Pricing Model、略して、CAPM)を利用します。CAPMから算出される株主資本コストは、株主が企業に期待する利回りのことで、理論上は企業は株主資本コストの利回りを実現できなければ、株主資本は他の投資機会に奪われることになります。
CAPMでは株主資本コストReを次のように求めます。
株主資本コストRe = リスクフリーレートRf + β × リスクプレミアムRp
ここで、リスクフリーレートRfは、無リスクで運用できる金融商品の利回りのことです。日本では、無リスクと考えられる金融商品は、国債と考えられていることから、一般的には、Rfは10年国債利回りを選びます。リスクフリーレートRfは、10年国債利回りの選択する時期と平均値を求める対象期間によって大きく変動します。例えば、10年国債利回りは、2007年後半以降2017年前半までの間に、約1.8%をピークに下限は約0%まで振れており、平均値は約1%になります。つまり、リスクフリーレートRfは約1%になります。さらに10年前の10年間の平均値は約1.5%ですが、そのさらに10年前の10年間の平均値は約4%になり、選択する時期によって大きく変動します。
βは、個別株式の変動/株式市場全体の変動を示すことから、企業毎に値が異なります。通常、データを提供している企業からデータを入手します。個別株の変動が、株式市場全体の変動と同じであればβ=1となり、株式市場の変動より小さければβ<1となり、株式市場の変動より大きければβ>1となります。理論の詳細について学びたい方は、金融工学分野のポートフォリオ理論をご覧下さい。
リスクプレミアムRpは、(市場全体の投資利回り - リスクフリーレートRf)で表せますが、市場全体の期待収益率を表すもので、通常過去のインデックスの推移から求められます。株主は株価変動のリスクを負っているため、リスクフリーレートRfより高い利回りの上乗せ分を期待していることを物語っています。
ここで、WACCについて説明します。
WACCは、株主資本コストと負債コストを加重平均して求めます。負債コストとは、債権者より調達した負債に対するコストのことで、借入金や債券にかかる金利などのコストのことです。WACCの計算式は以下のとおりです。
WACC =[ Re × E / ( D + E ) ] + [ Rd × ( 1 - T ) × D / ( D + E ) ]
Re = 株主資本コスト
Rd = 負債コスト
E = 株主資本の額(時価)
D = 有利子負債の額(簿価)
T = 実効税率
WACCは企業が投資等を行う際に投資利回りの基準になる数値となりますが、WACCの計算式からわかるように、資本と負債に対して、それぞれの調達のためのコストの加重平均によって求められます。
βについて、前述しましたが、ここでは求め方を説明します。
非上場企業の企業価値や株式価値を求める場合は、非上場企業は株価が存在しないため、同じ業界で事業が似通っている上場会社のβを活用する必要があります。βは財務リスクを含むレバードベータβLと財務リスクを含まない(事業のリスクのみを考慮した)アンレバードベータβUがあり、非上場企業のベータを求める際には、以下の算出式から、上場企業のレバードベータβLからアンレバードベータβUを算出し、各社の平均値を算出します。
この平均値をβuとし、対象企業のレバードベータβlを算出します。
βU = βL / [ 1 +( 1 - T ) D / E ]
βl = βu × [ 1 +( 1 - T ) D / E ]
ただし、T:実効税率、D:有利子負債の簿価、E:株式価値の時価です。
以上の計算により、WACC、つまり、企業価値、株式価値の計算に用いる割引率が求まります。
企業価値は、将来のフリーキャッシュフローFCFの現在価値であり、株式価値(時価総額等の株主に関わる価値)とNet Debt (有利子負債から現預金を控除した純有利子負債)の和となります。ここで、FCFは、以下のとおりと表せます。
それでは、前回と同じく、事業計画の算定期間を5年と設定し、5年間分のFCFを以下の空欄に入力してください。
企業価値、株式価値の計算の際に、株式価値(結果)と株式価値E(入力用)が同じになるまで、株式価値(結果)の値を株式価値E(入力用)に入力してください。
このような繰り返しの計算をする理由は、株式価値を求める際に、WACCを使いますが、WACCを構成する株主資本コストの計算式にβが含まれており、このβが株主資本の額、つまり、株式価値から求められるからです。
上記の計算手順で、企業価値、株式価値が求まります。企業価値、株式価値は、WACCや最終年度のEBITDAなどの値に大きく影響し、注意が必要です。
次回は、今回求めた企業価値、及び株式価値が、WACCや最終年度のEBITDAなどの値がどのくらい影響するか、感度分析を使って、考察しましょう。