COLUMNコラム

#PEファンドの記事一覧

#PEファンド
シーヴィーシー・アジア・パシフィック・ジャパン株式会社
プリンシパル 高槻 大輔 氏

Win-Winの仕組みで社会を支えるCVC 投資家から見た成功するCFOの要件

「世の中の役に立ちたい」という思いで海外経済協力基金に就職 「大学卒業後、海外経済協力基金(現在の国際協力機構/JICA)に入社されています。なぜ海外経済協力基金を選んだのでしょうか。また業務内容を教えてください。」 海外経済協力基金は、簡単にいうと日本版の世界銀行です。発展途上国向けに大型の資金援助をして、社会開発に役立てることが業務内容です。例えば、ベトナム版の日本坂トンネルを作る、カンボジア版の横浜港を作るといったプロジェクトに対して、長期に渡って資金援助を中心とした支援をすることが仕事です。現在は、さまざまな再編を経て、国際協力機構(JICA)になっています。海外経済協力基金を選んだ理由は、「世の中の役に立ちたい」という思いがあったからです。その一方で、単発で関わるような仕事ではなく、関わったことが未来につながるような仕事にしたいと考えていました。具体的には、長期にわたって支援が継続する資金開発援助が、その国の未来に貢献できるのではないかと思っていたのです。 「どんな仕事をなさったのでしょうか。」 1年目は、ちょうど日本輸出入銀行と統合して国際協力銀行ができるタイミングだったので、その準備でクタクタになるまで働いていました。会議の議事録を真っ赤に修正してもらったり、午前2時にコピー機を修理したりしながら「サラリーマンとはこういうことなんだな」と感じたことを今でも思い出します。2年目からは、ベトナムやカンボジア向けの資金援助を担当しました。例えば、港を作る時に開発資金を提供するといった仕事にあたりました。 また、海外経済協力基金は総合職社員全員に留学の機会を与える組織でした。外国語が話せなければ仕事になりませんし、仕事でコミュニケーションを取る相手も修士や博士ばかりという世界なので、現地で学ぶことが必要だったのです。留学した際には、国際関係論や経済学、語学を学ぶ方が多かったのですが、私はビジネススクールでビジネスを学びたいと考えました。当時の私は、港湾セクターを担当していました。そこでは、援助の世界では珍しく、海外との取引を通して外貨が直接入ってくる仕組みで、ビジネスのパワーの大きさを実感していたのです。援助は大海の一滴です。ビジネス全体がわからないと国の発展にも寄与できないのではないかと考えて、ビジネススクールでの学びを希望しました。そして、ラッキーなことにスタンフォード大学のビジネススクールから合格通知を貰うことができたのです。 スタンフォード大学で2年間学ぶ間、ベトナムの世界銀行事務所でのインターンなども経験しました。しかし、卒業時に辞令がくだり財務省への出向が言い渡されました。海外経済協力基金や財務省での仕事はスケールも大きく、とてもやりがいがあったのですが、日本を活性化する仕事に直接的に関わりたい、また自分の人生は主体的に選びたい、と考えて、転職することに決めました。 日本での可能性を感じたPEファンドへの転職 「なぜPEファンドに転職されたのでしょうか。」 私は、日本は発展した素晴らしい国なので、海外の途上国に貢献することができればやりがいを感じられるだろうと考えて、海外経済協力基金に就職しました。しかし、留学中は、ジャパンパッシング時代ということもあり、「日本は沈む国だよね」と思われていることに気が付きます。そこで、日本人としての闘志に火がつきました。また、大学時代の私はPEファンドという仕事を知りませんでした。留学先の同級生にPEファンドで働いている方がいて、その存在を知ったのです。日本には、潜在的な力を出しきれていない大企業やファミリー企業が多い。だからこそ、このPEファンドは日本に向いている仕組みなのではないかと考えて、勤めてみようと考えたのです。 CVCファンドの特徴 「世界的に大手の外資系投資ファンドにご勤務の後、現職のCVCアジア・パシフィック・ジャパン株式会社で、8年目を迎えていらっしゃいます。こちらはどのような特徴をお持ちの会社でしょうか。」 CVCアジア・パシフィック・ジャパン株式会社は、シティバンクが所属していた総合金融グループであるシティコープの自己資金投資部門がMBOをしてできたPEファンドで、40年程の歴史があります。「CVC」とは「シティ・ベンチャー・キャピタル」の頭文字でした。当社にはいくつかの特徴があり、1つ目はヨーロッパのチームが最初にMBOをして、次にアメリカ、最後にアジアという経緯で今のCVCになったので、ヨーロッパが本拠地でカバー力が強いという点です。多くのグローバルファンドはアメリカが本拠地です。2つ目は、チームでMBOしたことから始まっているので、絶対的な創業者はおらず、最初からチーム運営だったという特徴もあります。多くのグローバルファンドには創業者がいます。 3つ目は、ヨーロッパならではの価値観ですが、「グローバル」といえどもローカルな意識が強いという特徴があります。ヨーロッパの人たちは、フランス人はフランス人、イギリス人はイギリス人、ドイツ人はドイツ人という意識があります。ヨーロピアンスタンダードという発想よりは、フレンチスタンダード、ブリテンスダンダード、ジャーマンスタンダードというようにそれぞれが異なるので、すごくローカルを尊重する価値観なのです。他には、シティベンチャーキャピタルで、最初の段階ではベンチャーキャピタルをしていたので、リストラなどではなく、成長企業が好きですね。 CVCの投資基準 「御社の投資基準について教えてください。」 CVCには、トリプルB(Building Better Businesses) というモットーがあります。それは、いい会社に投資し、さらに良くしていくということです。「安いから買おう」、あるいは「大リストラをしてリターンを出そう」といった発想ではなく、良い会社がどうしたらさらに良くできるかという観点で投資をしています。株式会社ファイントゥデイさんや株式会社トライグループさんなど、投資先からもご理解いただけるのではないかと思います。 「平均すると保有期間はどれくらいになりますか。」 3から5年くらいが基本ですが、長いときは7年を超えるケースもあります。例えば、CVCの代表的な投資先の一つであるフォーミュラ1(F1)の株式は10年以上保有していました。 「出口戦略として、どうお考えになっていますか。売却や IPOなど、どういったケースが多いのでしょうか。」 あまり決まっていませんが、IPOするケースは多いです。その理由として、元がベンチャーキャピタルでグロースが好きという側面もあると思います。また、アジア各国は成長を遂げているので、成長企業も増えていきます。その結果、上場してイグジットしていくケースは多くなります。そして、ヨーロッパ起源のDNAとして、パートナーシップ投資が非常に多いという点も特徴でしょう。ヨーロッパは、ルイ・ヴィトン社などのようにファミリー企業が多く、同様にアジアもファミリー企業が多いです。その場合、CVCが単独で買収するのではなく、創業家が残るパターンが少なくありません。また、イグジットも丸ごとどこかに売却するのではなく、CVCが担っていた部分だけがなくなるというケースも多くなります。
#PEファンド
株式会社アドバンテッジパートナーズ
パートナー 早川 裕 氏

PEファンドのパートナーから見た「魅力的なCFO」 成功するCFOの素養とは?

PEファンドに入社するまで 「アドバンテッジパートナーズで活躍されている早川さんですが、現在に至るまでの経歴を教えてください。」 私のキャリアは少し変わっているかもしれません。大学ではロボット工学を学び、独立系のシンクタンクに就職しました。当時、理系はそのまま大学院に進むか、大学の推薦で大手のメーカーに就職するケースが多かったと記憶しています。シンクタンクでは、原子力エネルギーに関する各国の安全規制動向の調査や事故事例の調査分析などを担当しました。エネルギー政策の分野は、技術だけでなく、政治も経済も、社会心理学だって絡んできます。次第に、そういった学問を多面的に学び、さまざまな事象を理解したいと思うようになったのです。そして、理系と文系をまたいで勉強ができるアメリカのカーネギーメロン大学の大学院に進学することにしました。シンクタンクで働き始めて4年目のことでした。 大学院では技術政策を学び、その分野で博士号を取得しました。そのままアメリカでアカデミアのキャリアを目指していましたが、コンサルティング会社のマッキンゼーから声をかけていただき経営コンサルタントの世界に入りました。マッキンゼーでは主に製造業やハイテク企業に対するコンサルティングプロジェクトに参加していましたが、キャリアの後半になると、PEファンドから依頼を受けて、事業会社の事業デューデリジェンス(DD)の仕事が増えていきました。株主の視点でも経営に関与できるPEファンドの仕事に興味を持つようになり、すでにマッキンゼーの先輩や同僚が活躍していたアドバンテッジパートナーズに2008年に転職することにしたのです。8年間勤務したマッキンゼーを退職しました。アドバンテッジパートナーズには主に投資先の企業価値向上プロジェクトを担当する役割で入社しましたが、2015年頃からは投資全体に関与するようになりました。当時も今も私が担当する投資先企業は製造業が中心です。 「組織で勝つ」という意識の強さが特徴 「アドバンテッジパートナーズは日本のPEファンドを牽引してきた独立系の大手投資ファンドですが、どのような特徴を持った会社でしょうか。」 日本で一番古いPEファンドの一つで、社員数も投資件数も多いので、業界のリーダーであるという自負があります。特徴としては、経営支援に重きを置くという姿勢を持っていることが挙げられます。経営管理の強化やコスト削減活動に加え、売上拡大など成長支援の取り組みを大切にしています。事業モデルの変革も必要あれば積極的に行います。売上拡大は、コスト削減よりも難易度が高いと思います。どうやって営業活動を活性化させるか。新たなお客様をどう開拓するか。値段をどう適正化するか。デジタルを使ったマーケティングや営業をどう進めていくか。あれやこれやと会社の方と議論させていただきます。事業モデルの変革とは、例えば、製品の売り切りモデルからサービスも含めたリカーリングモデルへ転換していくといったことが挙げられます。 PEファンドは金融機関に分類されると思いますが、我々はコンサルティング会社のような性質を持っていることも特徴の1つです。つまり、「組織で勝つ」という意識が高いです。自分の案件を担当することで成長するということだけではなく、社内で実施される組織横断的な活動への貢献も求めています。各案件で得た経験や知見を社内で共有し、それをまた別のメンバーが担当の投資先で活用する。どんなに優秀な人でも、1人のインプットとアウトプットの量には限界がありますので、組織で勝っていくことが重要だと思っています。さまざまなバックグラウンドを持ったメンバーが集まっていることも特徴です。シニアメンバーはコンサルティング会社出身が多いですが、組織全体としては、投資銀行出身者、FAS出身者、VC出身者など多様です。案件を多面的な視点で成功に導くということが大事ですが、各個人のスキルアップの観点でも異なるバックグラウンドを持っている者が集まっていることは重要です。近年ではプロフェッショナルメンバーの女性比率も高まっています。 投資の3つのポリシー 「これまでの投資対象と投資実績を可能な範囲でご説明ください。」 アドバンテッジパートナーズとしては、多様な業種業態に投資をしてきました。中でも、消費財、小売りやサービス業界が多く、例えば、クラシエや牛角、成城石井、コメダ珈琲、石井スポーツ、やる気スイッチ、キューサイなどが挙げられます。上場企業投資チームの方は、フジオフードシステムや物語コーポレーション、ルネサンスへの投資・経営支援などの実績があります。 「その中で、早川さんはこれまで特にどのような業種・規模感の会社に投資してきたのでしょうか。」 私自身の投資経験は、これまでの専門性が生きる領域ということもあり、ハイテクや製造業の企業が中心です。具体的には、自動車関連部品、厨房機器、産業機器や電子部品・デバイス、機械、プラスティック成形などです。投資担当先の規模感は、現在投資中の会社に限ると小さい方は売上100億円程度、大きい会社の場合には1000億円弱といったところです。 「早川さんの投資スタンスについてもお聞かせください。」 私が大事にしているポイントは3つです。1つは、技術でもサービスでも品質でも良いのですが、他社に真似されない、その会社にしかない要素があるかということです。私はいつも、「なぜこの会社はお客様から注文がもらえるのか? なぜ他社ではなくてこの会社なのか?」を理解するように心がけています。その理由を突き詰めた時に、この会社にしかない要素があり、だからこの会社に発注せざるを得ないということが見えてくれば、この会社には競争優位があると判断します。また、その競争優位を生み出すリーダーシップや組織能力も理解したいと思っています。 もう1つは、詳細な顧客セグメンテーションをして、市場を絞った上でのシェアが高いことです。性別や年齢などの在り来りなセグメンテーションではなく、できる限り詳細に分解されたセグメンテーションでのシェアを重視しています。マクロでみると世界シェア一桁%の会社も、サブセグメントで見るとシェア50%ということがあります。そして、なぜシェアを取れているかには必ず理由があります。その理由は、他社に真似できない要素を持っているということに行き着くので、1つ目のポイントと同義といえば同義なのですが、この観点も大切にしています。 そして最後に、その市場、特にその会社が属するサブセグメントは成長するか、という点も検証します。 「投資を決める際に、前職のマッキンゼーのようなコンサルティング会社にも入ってもらうことはありましたか?」 事業DDをコンサルティング会社に支援いただくことはよくあります。私も実際コンサルティング会社ではDDプロジェクトに関与しておりました。PEファンドの立場として大事なのは、コンサルティング会社に事業DDをお任せしてしまうのではなく、この観点で検証してほしいという、論点を明確にすることと考えています。5年間という投資期間もしっかり意識してもらうことも重要なポイントとなります。投資直後の100日計画の作成や実行、投資後しばらくしてからも特定の課題があって会社の方々だけでは解決が難しいと考えれば、コンサルティング会社の支援を仰ぐことは良くあります。
#PEファンド
石橋 善一郎 氏

【前編】FP&Aプロフェッショナルが目指したCFOへのキャリア。そして、その先に見えた自身の役割とは

FP&AプロフェッショナルとしてCFOを目指す 現在は、「CFOのその後のキャリア」として、職業人団体や会計大学院・経営大学院でCFOを目指すプロフェッショナルへの啓蒙および教育活動をなさっている石橋さん。現在に至るまでのご経歴を時系列で伺います。 「大学卒業後、富士通に入社していますが、いつ頃からCFOという職業を意識したのですか。」 私は、1982年に富士通に入社して、経理部でも財務部でもなく、海外子会社の事業を管理する海外事業管理部に配属されました。1980年代の日本において、CFOという概念はほとんどありませんでしたので、国内勤務の3年間は、経理や財務のスキルを使って事業管理を行う経営管理業務が自身の仕事だと認識していました。4年目にシリコンバレーにある富士通アメリカへ駐在となります。ここでも、電算機、通信機、半導体などの製品事業部レベルの富士通アメリカの子会社(富士通の孫会社)の事業管理をしていました。この時に初めて、CFOという職業に出会います。各子会社に米国人のCEOとCFOがセットで配置されていました。彼らと仕事をする中で、CFOの仕事とは、経理や財務だけでなく、むしろ最もメインの業務である事業管理や経営管理を行うFP&Aという仕事であるということを知りました。当時はCFOになりたいという思いは抱いていませんでしたが、振り返ると、ここで出会ったCFOの方々が後の私のロールモデルの1つとなりました。 「FP&Aについて、簡単にご説明をお願いします。」 FP&Aの定義は誰に伝えるかが大事なので、日本企業の子会社で事業管理をしていた20代の私自身に向けた説明をします。FP&Aとは、本社レベルではなく事業部レベル(工場や営業所や研究所や子会社や海外子会社をイメージしてください)で、事業戦略の形成・実行の当事者としてビジネスパートナーになり、中長期的に事業価値を成長させることです。そして、そのためには、事業と事業戦略を理解すること、事業部のことを理解すること、事業部の人々と仕事上の関係を構築することの3点が大切です。FP&Aを構成する主要な要素は、FP&Aプロセス、FP&A組織、FP&AプロフェッショナルおよびFP&Aテクノロジーの4つです。もっと詳しく知りたい方は、拙著『CFOとFP&A』と『FP&A入門』(いずれも中央経済社)を参考にしてください。グローバル企業においてFP&A組織は、CFO組織の真ん中に存在します。 日本でのキャリアに夢を描けずMBA取得へ ・その後、スタンフォード大学に留学された理由を教えてください。 富士通アメリカで3年働いた後、自分が日本本社に戻るイメージが持てませんでした。正直なところ、日本企業におけるサラリーマンの働き方やキャリアにあまり夢がないなと思ったのです。そこでMBAを取得しようと決意しました。当時はMBA取得後に何をするかのイメージはなく、CFOに就くことも意識していませんでした。ただ、MBAが何かになるためのステップになるのではないかと思ったのです。そして、どうせ学ぶのであれば、最高のビジネススクールがよいと考え、スタンフォード大学のビジネススクールに入学しました。MBA課程では、1年目は、戦略論やマーケティング、統計学、ファイナンスなど経営学全般を学びました。2年目の選択科目は管理会計や企業財務関連の科目を中心に履修しました。MBAで学んだことは、FP&Aプロフェッショナルとして真のビジネスパートナーとなることの基盤になりました。現在、会計大学院・経営大学院で教えていることも、ここで学んだことの延長線にあります。 「目指すべきはCFO」と気づいた経営コンサルタントとしての経験 「その後、経営コンサルタントになっていますね。」 MBA取得後は戦略コンサルティング会社で経営コンサルタントとして働くことにしました。ただ、1年ほど働いて、自分のやりたいことではないと気がつき、退職しました。経営コンサルタントは組織の外から経営者をサポートする仕事。私は企業の中で直接、経営に関わりたかったのです。キャリア選択の際に私が大切にしてきたことは3つあります。1つ目は、「自分はその仕事が好きか、嫌いか」ということです。私は、スタンフォード大学経営大学院での学びと会計や財務の知識を活かした業務に携わりたいと考えていましたが、公認会計士のように監査法人で働きたいわけではなく、企業内で事業に関わりたいと思っていました。 2つ目が、「その仕事は自分に向いているか、いないか」ということです。私は数字を扱って客観的に説明することが得意なので、それに関わる仕事がしたいと考えていました。3つ目は、「その仕事からの経験と自己学習を積み重ねることによって、長期間においてプロフェッショナルとして成長を継続することができるか」ということです。経営コンサルタントの仕事に携わる中で、「グローバル企業においてCFOはCEOのビジネスパートナーとしてFP&Aの仕事をしていた。もしかしたら、CFOという仕事こそが、私が好きで、得意で、将来の自分にリターンがある仕事かもしれない」と思うようになったのです。 インテルへ入社し、真のCFO組織に出会う CFOを目指すならば、どこの企業がいいのかを考えました。当時は日本企業にCFOという役職が存在しませんでしたので、外資系企業で働くしかないと思いました。そこで、当時シリコンバレーで人気があった、Intel、Microsoft、Apple、Sun MicrosystemsなどのIT企業の日本法人数社に、「私は将来CFOになりたいです。ただ、まだマネージャーにもなったことがありません。CFO組織のマネージャーとして入社させてください」とレジュメを書いて送りました。その中から、インテル日本法人のカナダ人の社長が、「1回お会いしましょう」と返事をしてくださり、東京本社で面接をすることになったのです。 当時、インテルの日本法人には、20名ほどのCFO組織があり、経理、財務、FP&Aの3つのセクションがありました。すでにマネージャーがいらしたので、新設のセクションを作ってもらい、マネージャーとして入社しました。その後、FP&Aセクションのマネージャーが退職されたので、FP&Aセクションのマネージャーになりました。 「その頃のCFOのロールモデルはいたのでしょうか。」 インテルには、米国本社に本社CFO、その下に米国、欧州、日本およびアジアの4つの地域にも4人の地域CFOがいました。日本法人のCFOは本社CFOの直属の部下でした。インテルのCFO組織は風通しが良く、全世界のCFO組織のメンバー全員がチームになっていました。つまり、インテル日本法人に入社した瞬間に、グローバル企業のCFO組織が見えるようになったのです。私にとっては、CFOになるための役割を学ぶことができる多くのロールモデルの方々と出会うことができる組織でした。 さらに、経理組織、財務組織とFP&A組織の関係性もよく分かりました。 言い換えるならば、FP&Aプロフェッショナルは、CFOになるための一丁目一番地にあるということが見えてきたのです。私には、ずっとFP&A組織のリーダーでいたいという思いがありました。本質的には、FP&Aは経営管理であり、CEOが担うべきものです。経営者として最終的にはCEOに就きたいと思っていましたが、そのステップとして、CEOのビジネスパートナーのCFOとして経営に関与したいと思うようになったのです。インテルに入社して、CFOを目指すFP&Aプロフェッショナルとしてのキャリアへの思いを再認識しました。
#PEファンド
石橋 善一郎 氏

【後編】FP&Aプロフェッショナルが目指したCFOへのキャリア。そして、その先に見えた自身の役割とは

日本トイザらスでの楽しさと苦しさ 「次も再生ファンドの投資先であるトイザらスに転職されます。なぜあえて大変な会社を選んだのですか。」 D&Mが東証一部に上場したときに、これから5年間ここで同じことをするべきだろうか、と考えました。そんな時、別のPEファンドから、「日本トイザらスって知っていますか? 2年連続赤字ですが、事業再生したいのでCFOとして入社しませんか」という電話があったのです。そこで、私の希望を伝えました。1つ目は、単なるCFOではなく、副社長として入ること、もう1つは、副社長CFOで成功できた暁には社長にしてもらえること。この2つに対して米国本社社長と面談をした際に了承を得たので、転職を決断しました。CFOがやるべきことはCEOの真のビジネスパートナーとして経営することです。でも、本当にしたかったのは、CEOとして経営することでした。ですから、CEOになれる可能性があるCFOのポジションに着きたいと思っていたのです。 「日本トイザらスではどのような経験をされましたか。」 日本トイザらスには、代表取締役副社長兼CFOとして入社し、CEOの信任を得て従来のCFOを超えた役割を担うことができました。店舗運営や店舗開発、サプライチェーンや物流やEコマースを担当しました。事業会社ならではの本当に楽しい経験でした。日本トイザらスは全国に160店ほどあるのですが、入社した3年間で全店舗を訪問しました。北海道や九州などへは、休みの日に自費で店舗を訪問し、店長さんと話をしました。また、日本にある2つの大きな物流センターでは、生産性を上げるためのプロジェクトの一員になって、繁忙期であるクリスマスの乗り越え方を考えたり、実際にクリスマスに応援として出荷作業に従事したりもしました。他にも、実店舗だけでは売り上げが下がっていくので、オンラインストアが必要だと考え、電子商取引のためのオンラインシステムの開発のプロジェクトのリーダーになって、ゼロから日本でシステムを開発しました。こういったことが、事業管理に携わることの本分だと思っています。 私のCFOのスタイルは、CFOとして事業部長のビジネスパートナーになることでした。事業部長は、店舗運営の専門家、物流業務の専門家、電子商取引の専門家です。彼らとチームになって、日本トイザらスのために新しいことをどうやっていくかを考える。それが私にとってはCFOの仕事であって、事業会社における仕事の1番楽しいことでした。 一方で、難しかったことは、CFOとしての守りの役割とビジネスパートナーとしての攻めの役割をどのように両立させるかということでした。例えば、店舗開発戦略や物流戦略やEC戦略を実行するための投資を行う際に、日本子会社の代表として米国本社に投資案を提案する立場にあったのと同時に、CFO組織の一員として投資案を審査する立場にありました。CFOは企業価値を守る責任を有している一方で、CEOのビジネスパートナーとして企業価値を成長させる責任を有しています。2つの役割を持っているわけです。 「CFOの場合、CEOとの関係で一番注意しなければならない点は何でしょう。」 CFOにとって、CEOは最も大事なビジネスパートナーです。CEOの成功は自分の成功につながります。しかし、一口にCEOといっても様々な人間がいます。仮に、CEOと衝突してクビになったとしても、転職できるようにプロフェッショナルとしての専門性を磨き続ける必要があると思います。日本トイザらスで10年間働き続けられたのは、CEOとの関係が良かったからです。カナダ人の女性で、人格・識見ともに立派なCEOでした。彼女と一緒に仕事をすることで小売業を1から10まで勉強させてもらうことができました。CEOとの信頼関係を築くために、2つのことを心がけました。 1つ目は、客観的な視点で事実を基に議論することです。CFOが得意なのは、数字から経営戦略についての話をすることです。物流、営業、サプライチェーン、業務部門などの部分で、数字で戦略実行のサポートするところは非常に大事だと思います。CEOにできないことをフォローすることが大切ですね。もう1つは、CEOとビジネスパートナーとして共通の目標を設定し、結果を出すことです。チームとしていかに目標を設定して、その目標に向かってPDCAサイクルを回すか。損益計算書の目標管理も大事ですが、それだけではありません。チームとして業務上オペレーションの目標も設定して、それを達成できるかどうかまで見る。例えば、人員計画もそうですし、各部門の配置人数、何カ月後にはどうなるかというところまで、全部CFOとしての視点が重要だと思います。この面でCFOを支援するのがFP&A組織なのです。 CFOの役割と魅力 「一言でCFOの役割を教えてください。」 CFOの役割は中長期的に企業価値を上げることです。企業価値は事業価値の総和です。事業価値とは、事業部が生み出すキャッシュフローの現在価値です。これは、企業財務では、本質的価値と呼ばれています。CFOが本当に目指すのは、事業部が生み出す事業価値の本質的価値を中長期的に最大化することです。株主価値とその市場価値の最大化ではありません。企業価値をどうやって上げるかがCFOの役割の根幹にあります。 「では、CFOの魅力はなんでしょうか。」 1つ目は、プロフェッショナル(Professional)として自分の経験や学習から蓄積した後天的な才能を活かすことができることです。私はCFOが日本企業におけるCFOのように、ある日突然、会社の都合でなるものだとは考えません。それは実務家(Practitioner)です。CFOはFP&Aプロフェッショナルがキャリアを通じて目指すものだと考えています。私はFP&Aプロフェッショナルとしてのキャリアの途中で、資格試験やMBA取得の過程で学び続けることの重要性を実感しました。CFOを目指すキャリアは、プロフェッショナルとして学び続けるキャリアなのです。 もう1つは、3つのC、CEO+CFO+CHROの一つである経営チームの一員であるということです。「人的資本経営」の伊藤邦雄先生のレポートには、CEO、CFOと並んで大事な3番目の役割がCHROだと示されています。他にもCがつく役職がありますが、CEOとCFOとCHROの3つのトライアングルが経営者チームの根幹です。CFOは経営者チームの一員であるということが、CFOの魅力だと思います。人的資本経営の本質は、3つのCのトライアングルで経営戦略と人材戦略を形成・実行することによって、中長期的に企業価値を成長させることです。株主価値とその市場価値の最大化を目的としてCFOが投資家と対話することは、人的資本経営の本質ではありません。